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5話

「5」


ぼくが彼女、阿万音梨里を好きになった理由。それは純粋に彼女のそばに居たかったから。ぼくと彼女の出会いは唐突だった。

しかし、ぼくはそのあともその場所に通い、彼女に会うためだけに行くようになっていた。

 一緒に居たい。誰もがそう思うだろう。友達、家族、そして恋人と。ぼくはそれを()と思ってしまった。その時から彼女を想う時間が長くなっていった。

彼女と話している時間。彼女と見える海、そしてその地平線。彼女とともに過ごす時間がぼくは好きで、愛していて、そしてこの世で一番大切なものだった。

 彼女に対しては本当にやましい気持ちなどは全くなかった。ただ純粋に彼女と一緒に居たいだけだったのだ。

風が靡く。鳥が鳴く。電車が通る。車が走る。自転車が坂を下る。人が地面を踏みしめて歩く。日の光が差し込む。雲の形。雨の滴。雷の音。波の形。虫の声。

――それらすべてが新しく聞こえ、何もかもが新鮮でそれらすべてを彼女とともに見たり、聞いたり、体感したかった。彼女とならきっと楽しい、飽きないだろう。

 ところでどうして恋人同士が濃密な時間を過ごすと早く感じるのか。簡単に言うと楽しい時間はどうして早く過ぎるのか。人の体感時間は心臓の脈拍の速さによって変わってくる。人の体内にはすべて血液が通っている。それゆえに血液を送る機関、心臓が体感時間の標準となっている。

人によって腹の減る時間は違う。ご飯を食べて一時間後に腹がすく人もいれば三時間後に空く人もいる。六時間後の人もいるかもしれない。

他には睡眠時間だって人によっては違ってくるだろう。三時間ですっきり起きることができる人もあれば一二時間でも起きることのできない人だっている。それらすべては心臓の脈拍によって違ってくる。脈拍は人によって絶対に違う。

まあ、そう言うことはさほど関係はないのだが、脈拍が速くなれば人は加速し、濃密な時間を過ごすことができる。

加速する=ゆっくりとした(濃密な、楽しい)時間を過ごす=時間を短く感じる。一般的な感覚だと、加速すれば世界がゆっくりとして見える、とか言うが、本当のところは加速すれば世界は速く見える。故にぼくは彼女といる時間は速く過ぎて行ってしまった。

 今思うと本当に短い時間だった。三年、日で換算すると一〇九六日。時間に換算すれば二六三〇四時間。分に換算すれば一五七八二四〇分。秒に換算すれば九四六九四四〇〇秒。とても長いように思える時間だが、ぼくにとってはあっという間だった。楽しかった。好きだった。愛していた。彼女とすごした時間を。

 もう、会うこともできない。話すこともできない。彼女の声を聞くこともできない。彼女の笑顔を見ることもできない。彼女からいじめられることももうない。彼女の手のぬくもりを感じることもできない。彼女のあの髪を触ることもできない。


――もう彼女に、好き、ということもできない。


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