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漫才コンビ襲来(再)

どうやらあの二人は相当な馬鹿だったらしい。

まさか本当に上手く行くとは思ってもみなかった。



袋のネズミ状態で、上背のある明らかに他校生寧ろ高校生でもない雰囲気の男二人に絡まれかけた私たちは、彼らがどうでもいいことで言い合っている間にこっそり逃げることに成功した。


目の前も目の前、手を伸ばせば届く距離にいたはずの私たちは、まんまと気付かれることなく彼らから逃げ出せたのである。

いや、屋上から出るときに男二人の間抜けな叫び声が聞こえたので一応気付かれたのだろう。

しかし、流石の彼らも人目のつくところで騒ぎは起こせなかったらしく、逃げ出した私たちを追ってくることはなかった。




「本当に通用しちゃったわ!」


感動しつつ手元の本を輝かんばかりの目で見つめるのは、先程まで途中までではあるが震えていたはずの私の友人である。

どうやら先程の彼女の提案は、愛読書からの知識らしい。

いかにもベタな展開を含んだそれは、確か今ベストセラーになっていると噂の探偵モノだ。


落ち着け詩織、とりあえず普通は無理だ。


「神宮寺様の仰る通りだったわね、蓮!」

「え…あぁ、うん。」


神宮寺様って誰!?という質問はこの際置いておいて。

やっぱり根っこをどうにかしない限り、しばらくは詩織の送迎を続けようと思い直した。


昼休みが終わる直前の教室で詩織の話に相槌をうちながら、こちらを訝しげに見たあと悔しげに睨みつけてきた水島恵美子の視線に、ことの黒幕が誰であるかを確信した。






予想通りというか何と言うか。

昼間の馬鹿二人組は、親切にも校門から随分と離れた人気の少ない路地で待ち伏せしていた。

嫌な予感が盛り盛りしていたのでなるべく大通りを帰っていたのだが、どうしてもこの道だけは通らざるを得ない。

まぁ、その分予想もしやすかったのだけれども。


「てめぇら、昼間はよくも逃げやがったな!」


お陰で二度手間じゃねぇか。

目を合わせるなり苛ついた顔で言われても、こちらとしては呆れるだけである。

逃げた、というかあれはお前らが馬鹿なだけだろう。

見ろ、昼間はあんなに危機感を持っていた詩織が、こんなにのんびりと眺めているじゃないか。

とりあえず、万が一があるので詩織には私の背後にいてもらおう。


「やー、してやられたわぁ。嬢ちゃんらぁ、やるなぁ!」


いやいや、だからね。


「あんたたちが馬鹿なだけでしょうよ。」

「あ、こらこら、関西の人間に馬鹿は無いやろ、言うならアホや。」


…何か違うのか?


「違う、違う。まったく違うで。」


……。


「蓮、駄々漏れ駄々漏れ。出ちゃってるわよ!」

「またか!!」

「はははは、おもろい嬢ちゃんやな!」

「てめぇも馴染むな!!」


ばしっと、景気よく黒髪ピアスが頭を叩かれた。

どうでもいいから私らを漫才に巻き込むな。


「何だか楽しい人たちね。」

「や、詩織さん、間違ってるよ。」


溜め息を吐きながら答えれば、金髪の方が苛々しながら頭をかきむしって近づいてきた。


「あー、もう面倒臭ぇなぁ!取り敢えず、お前らちょっと付き合えよ。」

「あら、お誘いかしら?蓮、どうしましょう。」

「どうもしない。帰るよ、詩織。」


詩織の壁になるように、常に奴ら二人との間に自分の身を置き盾にしながら、金髪を避けて詩織の背を押し歩き出した。

が、途端に黒髪ピアスも先程の空気を一変させて、道を遮るように一歩踏み出す。


「退いて。」

「嫌や。」

「ついてこねぇなら力づくでも引っ張ってくぜ。」


にやりと笑った金髪が、無遠慮に私の腕を掴もうとした。

が、そう簡単に掴ませるわけがないので、空いている方の手で遠慮なく叩き落す。


「ってぇ。」

「退け。」


再度はっきりと言い放てば、金髪が眉を顰めて睨みつけてきた。


「てめぇ…優しくしてりゃあ、付け上がりやがって…。」

「男二人で女の子連れて行こうなんて野郎のどこが優しいんだよ。」

「馬鹿か、優しいだろ?ちゃんと口でお誘いしてんだ。」

「馬鹿はあんただ。そっちこそ、まだ今なら見逃してやるからさっさと退け。」


ぎり、と金髪が歯を噛み締める音が聞こえた。

流石の詩織も先程の余裕を消し去り、私の言葉を宥めるように腕を添える。

普通の女の子より肝が据わっているとはいえ、荒事になんか慣れてない彼女を考えれば、ここは何事もなく通してもらいたかったが、そうもいかないようだ。

それに、こいつらは学校の中まで入ってくることができる伝手を持っている。

ここらでぶっ潰しといたほうがよさそうだ。

私は後ろ手でそっと詩織を背後に押しやり、彼女から手を離した。


「何だぁ?その目。お前、ほんっとに生意気だなぁ…。」

「あんたらみたいなのに示す礼儀なんて持ち合わせてないんでね。」


言った瞬間、金髪の平手が私の頬を狙って飛んできた。

背後で詩織が息を呑む。


「…っ!!」


バシィッと、肌のぶつかる音が路地に響いた。



「お前…っ」

「先に手を出したのはあんただ。何をされても文句言うなよ?」


がっちりとガードされた右手を見開いた目で見た金髪に、にやりと笑って言葉を返す。

そのまま男の腕ごと横に払うと、奴の腹はがら空きになった。

やっぱりチンピラレベルだな!

私が迷わず金髪の腹に拳を叩き込むと、その勢いのまま回し蹴りをお見舞いした。

反撃なんて予想もしてなかったんだろう、男はそのまま見事に後ろへふっとんだ。


「がはぁっ!!」

「エージっ!!」


あ、汚ぇ。

こいつ昼間ラーメン食いやがったな。

慌てて駆け寄った黒髪ピアスが、エージと呼ばれた金髪の肩を支えながら様子を伺いほっと息をついている。

おそらく肋骨がいってないか確認したんだろうな。

こいつはちょっと要注意かもしれない。

黒髪ピアスが金髪を庇うように立ち上がった。


「おっどろいたわ、嬢ちゃん只モンじゃなさそうやね。靴に鉄板でも仕込んでるん?」


先程までと変わらない軽い口調だが、目が笑っていない。


「何かやってんのん?有段者やろ?」

「別に、何でもいいだろ?」

「あーあ、なーんか話が色々違ってんけど…ダチやられて引き下がれんしなぁ。」


堪忍やで。

そう呟いた瞬間、黒髪ピアスの目つきが変わった。

長い手をぐっと伸ばして、これまた長い足を駆使して大きく私の方へ踏み込んでくる。

確かに、金髪の方よりも断然早い動きだが、私の敵じゃない。

私の襟元を掴もうとしたのだろう、黒髪ピアスの手を紙一重でかわした私は、そのまま彼の胸へ掌底を叩き込もうとしたが、先程の金髪への攻撃を警戒していたのか、黒髪ピアスは私を逃したと見るなり横っ飛びに身を退けた。

素人にしてはいい読みしてる。


「…ほんま、割りに合わんわ。」

「だったらさっさと降参してどっか行け!」

「だから、それはできん…ってぇ!」


おそらく無闇に突っ込んで攻撃するのは危険だと判断したのだろう。

少し距離をとって様子見体勢に入ろうとした黒髪ピアスに、身を低くして近づきそのまま懐から拳を振り上げる。

目で追うだけで精一杯だったのだろう、ぎょっと目を見開いた黒髪ピアスは、それでも自分の顎に向かって迫る小さな拳を防ごうと左の掌を拳に向かって構えた。

その反応のよさに、私も少しだけ目を見開く。

が、みすみすガードされるわけにはいかないので、私は少しだけ繰り出した腕の軌道を外して、前腕の外側で男の手を弾くとそのまま曲げた肘で標的の顎を強かに打った。


「…っ!!」


顎は急所。

手加減したので後に響くことはないだろうが、軽い脳震盪を起こす程度には打った。

案の定、ぶれた視線を彷徨わせた黒髪ピアスは、そのまま頭を抑えて尻餅をついた。


「ユー…ジっ…てめぇっ糞アマ!!」


少しだけ回復した金髪が、腹を押さえながら苦しげに呻く。

憎々しげにこちらを見ているが、こっちは若干強めに入れたので声を出すのも辛いのだろう。それでも、冷や汗を浮かべながら動こうとする根性は認めてもいいかな。


「エージにユージ?芸人さんか何かか?」

「ちげーよっ!!…っ!!」


叫んだ金髪がすぐに息をつめて腹を押さえる。

そりゃあ響くだろうさ。

私は頭を振って意識を保とうとする黒髪ピアスから離れると、鞄か引っ張り出したものを金髪に投げつけた。

突然視界を塞いだ何かをもぎ取るように手に持った金髪は、それが真新しいタオルだと判ると訝しげにこちらを見上げる。


「おい、何だコレ。」

「フェイスタオル。5枚組み480円。」

「違ぇっ…っ!!」

「叫ぶと痛むよ。」

「…~~っ!~~~っ!!」


腹を抱えるように痛みに耐える金髪を前に詩織に目を向ければ、彼女はどこかほっとしたような顔をしたあとに、私の顔を見るなり目を輝かせた。

なんだ、なんだ?


「神宮寺様!!」


あ、もういいです、言わなくていいっす…。

私は詩織の呟きに気付かなかったふりをしつつ、再び金髪に目を向けた。


「ゲロ塗れじゃ嫌でしょうよ。それあげるから顔くらいふいてけ。」

「…お前…。」


お、何だ感動のあまり思考停止か?

よく覚えておけよ、これがホントの優しさだ。


「馬鹿か?」


よーし、今すぐ返せ。そして全力でとどめをさしてやる。


「待て待て待て待て!」

「却下。」

「却下じゃねぇ!悪かった!悪かったって!!」


…。


「女がガン飛ばすんじゃねぇ!!」

「男女差別はんたーい。」

「棒読みじゃねぇかぁ!!」


涙目の金髪が後ずさる。

おぉ、ちょっとは回復したみたいじゃないか。

これで心置きなく…。


「まぁまぁ、落ち着いてくださいませ、神宮寺様。」

「違っ!!」


思わず振り向きざまに叫んでしまった…。

見れば、私を引き止めるように詩織が肩を掴んでいるが、何よりも気になるのはその輝きっぱなしの目だ。

っていうか。


「落ち着くのは詩織だ!!」


どう考えてもトリップしている詩織を前に、私は力の限り叫んだ。






そして何故か今、私たちは四人仲良く?夕方の公園でコーヒーなんぞを啜っている。


「やー、堪忍なお嬢ちゃん方!」


缶コーヒー片手に顎を赤く腫らした黒髪ピアスが軽いノリで片手を上げた。

私たちといえば、二人仲良くベンチの上だ。

因みに、私たちのコーヒーは、目の前の黒髪ピアスの奢りである。


ばっちりしっかり私に瞬殺されてしまった二人は、私と詩織の優しい介抱に心を打たれたようで、地面に這い蹲ったまま平謝りしてころりと態度を変えたのだ。

そして、あれよあれよという間にこの状況である。

まぁ、あそこまでしっかりやられて憤慨するどころかコーヒー奢るこの男の神経に、絆されたといえばそうなのかもしれないが。

詩織も横でコーヒーを飲みながら、微笑ましいという感情を前面に浮かべて男を見ていた。

因みに金髪の方は私のタオルを持ってトイレでゲロ始末中である。


「で、やっぱり水島さんに頼まれたんですの?」


おぉ、詩織ったら直球だな。


「せやせや!まぁ、俺はどっちかっちゅーと付き添いみたいなもんやけどな。」

「や、そんなペロっと言っていいのかよ?」


一応昼間は誤魔化そうと…してなかったか?


「あー…何やアホらしくなってきたっちゅーか…。」

「まぁ、確かに最初っからあんま乗り気じゃなかったしなー。」


語尾に被せるように言葉を続けたのは、所々濡れた服を気持ち悪そうにひっぱる金髪だった。どうやらある程度綺麗にできたらしい。


「悪ぃな、タオル。助かった。」


どこか疲れたような顔で私たちの目の前に来た金髪は、濡れた頭に引っ掛けていたタオルを示して私に告げた。

驚くことに、最低限の礼儀は持っているようである。


「いや、別にいいけど…っていうか、あんたら水島恵美子とはどういう関係なんだ?」


そう、昼間制服を着ていた彼らは、今は私服だ。

制服を着ているときも思ったが、私服姿を見ればますます高校生には見えなかった。

明らかに大学生以上である。


「あぁ、恵美子は俺の…遊び仲間?」

「何で疑問系なんだよ?」

「や、何つーか、仲間ってほどでもねぇし。」

「財布やろ、財布。」

「うっわー。」

「最低です。」


女の子二人からの白い目線に、金髪がたじろいだ。


「いやいやいや、正当な報酬だって!」


そこから彼の必死の言い訳が始まった。


曰く、どうやら水島恵美子は周りの目を盗んでは、たまにお嬢様らしからぬ遊びで息抜きをしていたらしいのだ。

で、そういうときに決まって遊び相手になるのが金髪男の役目らしかった。

容姿はそこそこ整っている彼は、特に女にも遊び相手にも困っていなかったし、はっきり言って水島恵美子のことは鼻持ちならないガキにしか思えなかったが、お嬢様らしくお金をばら撒いてくれるので、ある程度機嫌を取りつつ何かあれば可能な限り希望をきくような関係だったらしい。


今回も事前に前金としていくらかもらっている上に、成功すれば倍額という約束もあるようで、昔からつるんでいる黒髪ピアスを誘って事に及んだとのことだった。


「まー、俺は女の子痛めつけるんは端っから嫌やってんけどな。」

「あ、てめぇっ!一人だけいい奴ぶりやがって!」

「せやかて、ほんまのことやないかい。俺は止めようて言うたやろ?」


結局失敗したしなー。

そんな言葉に、金髪が口を噛んだ。


「金に目ぇがくらんだお前が悪い。」


ばっさり切られた金髪が、見る見るうちに暗雲を背負う。

そのやり取りを見ながら、詩織が私にそっと身を寄せた。


「ねぇ、蓮。」

「ん?」

「でも結局、黒ピアスさんも参加したのよね?」

「そだね。」

「金髪さんは何故反論しないのかしら?」


おばかなんでしょー。


「なるほどね。」

「…また出てましたか。」


答えるように詩織がにっこりと微笑んだ。

いけないいけない、最近心の声が駄々漏れてるよ。

そんなことを思いつつ、二人してあからさまに哀れみの視線を金髪に向けていると、気付いた黒髪ピアスににやりと笑いかけられてしまった。

こいつ確信犯だ。


「性格悪ぃ。」

「ひどいわぁ。俺は生まれてこの方、仏のゆうちゃん言われてんのに。」


おどけたように返された言葉に、お互いきょとんと見つめた私たちは、次の瞬間盛大に笑い始めた。


「田中英志、21歳フリーター。」

「菅原裕次郎言います。俺は一応大学生。」


ひとしきり笑ったあと、自己紹介までしてきた二人に、詩織と二人どうしたものかと視線を交わした。

それを警戒ととったのか、苦笑を浮かべた黒髪ピアス――菅原裕次郎が頬をカリカリと掻きながら口を開く。


「やー、あんなんしといて何やけど、もう俺ら嬢ちゃんらぁにちょっかい出さんから許したって?」


なぁ、と隣の金髪――田中英志を見れば、彼も少し居心地悪そうに頷いた。


「おう。…ホント、悪かったよ。」


言いながら頭を下げる姿に嘘は無さそうだ。

菅原の方も、嘘かホントかわからないようなへらりとした笑顔を浮かべていたが、目を見れば大体判る。

さっきは金髪ばっかりを責めるようなことを言っていたが、彼自身も反省しているようで、その切れ長の目には少しの罪悪感が見て取れた。


「まぁ、俺らがどんだけ挑戦しても敵わへんことも判ったしな。」

「まぁな、恵美子には力不足だったとでも言っとくよ。」

「ははは、お姫様の癇癪がおそろしなぁ!」


そう言いつつも、大して気にしていないようだ。

おそらく彼らも、水島恵美子のやることなど本当に子供のお遊び程度にしか捉えていないのだろう。

彼女の両親が持つ権力は相当なものなのだろうけれども、彼女一人の力なんて実際その程度なのである。

現に、彼らは既に、彼女の言葉を聞く気は無いようだった。


「そないなことより、俺は嬢ちゃんらぁに興味があるなぁ!」

「…お前…そればっかじゃねぇか。」

「煩いねん、お前は昔っからつまらん男や!もっと色恋に目を向けぇ!」

「てめぇこそ昔っからそればっかだな!!ちったぁ女から離れろ!!」

「アホ!俺から女の子とって何が残るねん!!」

「自信満々に言うことか!」

「せや!俺は根っからのフェミニストやねん!っちゅーわけで、お嬢さん方、夜道は危ないから俺が責任もって送ってくで。」


いつまで続くのこの漫才、とばかりに観察していたが、すかさず飛んできた言葉に驚いた。


「二人とも同じ方向やし、俺が行くわ。お前いらんで、いねや。」

「てんめぇ…。」


おいおい、金髪の顔が真っ赤だぞ。

喧嘩でもおっぱじめるんじゃないかという雰囲気…を出しているのは金髪だけで、菅原はひらひらと片手を振ると、構わず私たちに向き直った。


「あ。せやせや、嬢ちゃんは確か蓮ちゃん言うねんな?」

「…そう、だけど。」

「んでこっちが、詩織ちゃん?」

「はい、松本詩織です。よろしくお願いします。」


おいおい、詩織さん何しっかり自己紹介しちゃってんの。


「これはこれは、ご丁寧に。よろしゅう頼んます!」


にっこり笑顔を返した菅原が、再び私に目を向ける。


「それはそうと蓮ちゃん!」

「…なに?」


さっきから何なんだ。


「メガネに埃ついてんで?さっき俺らとやり合ったときやろけど…。」

「え、マジ?…どこどこ?」


すまなそうにかけられた声に、疑うことなくメガネを外した。

こんな重いメガネ何個も買う気は更々無いので、一応大事にしているのだ。

ついでに傷が無いか確認しようと、うざったい前髪を払ってメガネを持ち上げ確認する。


「…汚れてないじゃん。」


しばらく確認した後、傷が無いことにほっとして、汚れを指摘した男を見上げれば、彼は目を見開いたまま石のように固まっていた。


「おい?」


その異様さに訝しげに声をかける。

ホントにどうした?


「…ほんまもんや。」

「何?」


そんな低い声でぼそっと言われても聞こえやしない。


「見たか、エージ!これがロマンや!!」

「嘘だろ…マジかよ…。」


見れば、先ほどまでぶちきれそうだった金髪まで呆然と私を見ている。

何だ何だ、さっきそんなに打ち所が悪かったか?


「やっぱりやるわね、黒ピアス」


わけもわからず二人を交互に見ていると、隣で静かに成り行きを見ていた詩織が呟いた。



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