6話
王都までの道のりは、三人の意見に従って、なるべく人目のつく道を選んで進んだ。目立つことが嫌なので、最初はそれとなく拒否をしていた。しかし一刻でも早くベルが目覚めたという情報を流すには、これが最適だという意見に最終的には従った。噂は目を見張るほどにあっという間に広がっていく。確かに効果的な方法ではあるのだろう。ベルの精神的ダメージにさえ目を瞑れば。
そもそも、ベルの姿を知っている人はいるのか。そんな疑問が浮かんだが、それはすぐにベルを背中に乗せて走っているアーテルが解決をしてくれた。
「お嬢の姿絵は国王なみに売れてるって、この前街の人から聞いたよ。それに俺たちが輝人であり、召喚術師であるベルの召喚獣だってことはこの街じゃ周知の事実だしな」
「へ、へぇー。そうなんだ……」
(その事実、知らなきゃよかった……!! 恥ずかしすぎる……、よし。聞かなかったことにしよう。うん、そうしよう)
自分の姿絵を売られているなんて、想像もしなかった。国王なみということは、それだけ多くの人がベルの姿絵を持っているということになる。今更売るのをやめてくれ、と言ったところで焼け石に水だということは重々承知していた。
なので姿絵に関しては相槌だけにして、三人が有名であるという話を掘り下げてみることにした。すると意外な話が返ってきた。
「あー、それは俺たちが街の人だけじゃ、解決できないことを仕事として請け負って、解決してたからだよ。お嬢以外の命令を聞く気はないが、生活するにはお金が必要だろう? お嬢が貯めたお金はさすがに使えないし、起きたときに不便がないように適度に貯めておこうって三人で話し合いをして決めたんだ」
「みんな……。そんなこと気にしなくていいのに」
ベルがゲーム時代に所持していたお金は、リビングに隠しておいてある共有の金庫に全て入っている。それは現実になった今も変わらずそこにあるようだ。だとしたら、かなりの金額が入っているはずだ。それこそ百年は遊んで暮らせそうなほどに。
ロセウスやアーテル、アルブスの攻略する最中に、駆け出しの契約術師として仕事を請け負ったり、召喚術師になったときは大きな仕事を国王から頼まれて行ったこともあった。報酬は全てベルが受け取っていたが、全てベルのお金というわけではないのだ。三人がいてくれたからこそ、出来た仕事が大半なのだから。
三人の優しさに、心が温かくなるのを感じた。
会話をほどほどに、恥ずかしくて見れなかった周囲を見てみれば、街の人たちは一様に驚いた表情をしていたが、それとともに目が覚めてよかったなと様々なところから声が上がっていた。それは三人がベルのために働き、そして街の人たちのために動いたことの証拠だ。
現在住んでいる家は、街の片隅にある。その家を買ったのは、ベルからしてみればつい一カ月前のこと。つまり最終地点まで攻略はしていないものの、三人をようやくベルに振り向かせ、恋人としての道を歩き始めようとしたとき。街の人とはほぼ交流がなかったはずだ。
それは今ではこうして温かく受け入れられる。それが自分のことのように嬉しかった、
街を出て、一時間半。王都のある街へ辿り着くことができた。一応同じ国の中での移動なので、パスポートのようなものは必要ない。それでも国王が住んでいる街というだけあって、街に入るにあたって、変な物を持ち込んでいないか検問をする箇所がいくつか設置されている。
多くの人が並んでいたので、ベルたちも同じように並ぶことにした。それでも召喚獣三匹と召喚術師という組み合わせがかなり目立つらしく、周囲がざわめいていた。ちらほらと金目だ、という声が聞こえてくることから、ベルたちが契約術師と契約獣ではないことに気づいているのだろう。
周囲を見渡してみれば、何組かの契約術師と契約獣がいたが、契約術師の方は輝人ではないから瞳は生まれ持ったままの色をしているし、契約獣は鳥や犬など小柄なものしかいなかった。対してベルの召喚獣といえば桜狐に黒虎と白虎。スケールが明らかに違う。
ざわめきがざわめきを呼び、ついには検問所からなんの騒ぎだと検問係である騎士の男性が出てくるはめとなった。最初は一人でやってきたが、ベルの瞳の色と、ベルと同じ色の瞳をしている三匹の召喚獣を見ると慌てて仲間を呼びに戻っていった。まるでコメディのようだと内心思っていると、今度は頑丈な造りをした体を持つ屈強そうな男性が現れた。同じ騎士とあって服装に違いはないが、肩辺りには隣に立つ騎士とは違い、装飾がつけられていた。要するに隣の騎士よりも階級が上の騎士、上司というわけだ。
屈強そうな騎士はベルたちを視界に入れるなり、すぐさま敬礼をした。それも最高位の敬礼だ。
そんな偉ぶるつもりはないのだけど、と内心苦笑していると屈強そうな騎士が口を開いた。
「失礼ですが、ベル・ステライト様でいらっしゃいますでしょうか?」
「はい、そうです。騎士さん、顔をあげてください」
姿絵が回っているのと同時に、ベルの名前が一緒に回っているということだ。いつもベルやお嬢と呼ばれていたから、この世界での苗字を呼ばれる新鮮さをどこか感じてしまう。
元の現実世界でのベルの名前は星野鈴。だから星を意味するステラと明るいを意味するライト。この二つをくっつけて作ったのが今の現実世界での苗字となる。
肯定を示すように返事をすれば、さらなるざわめきが周囲から起こった。無理もない。
五つの国、それぞれに輝人が一人ずつ存在している。なのにナツゥーレの輝人は十年も眠ったままだったのだ。輝人である召喚術師は国一番の戦力といってもいい。言葉にしなくても、その存在がナツゥーレにだけいないことに不安に思っていた人が、多数いたのだろう。それが今、ベルがこうして目を覚まして目の前に現れた。それが嬉しくて仕方ないのだろう。
歓声があちらこちらから湧いてくる。それに思わず頬が綻んでしまった。この世界にきて最初に、ロセウス、アーテル、アルブスの三人に会った。そしてベルの目覚めを喜んでくれた。けれど彼らだけでなかったのだ。ベルの目覚めを待っていた人は、こんなにも大勢いたのだ。まるでこの世界にベルという人物が認められているんだよ、と言われているような気がして嬉しくてたまらなかった。
「よかった。お目覚めになられたのですね」
顔を上げた屈強そうな騎士は、心底そう思っているように破顔した。
「はい。その節はご心配をおかけしました。ですので、その報告も兼ねて国王へ挨拶をしようかと思い、こちらに来ました」
「いえいえ、とんでもございません。国王様もお喜びになるかと思います。こちらをお通りください」
屈強そうな騎士は検問所の先を示したそこに列を作っていた人たちは、ベルが通れるように道をあけてくれていた。
「いえ、待ちますよ? 私より先に来た方たちを先に入れてあげてください」
さすがにこんなに順番を抜かしていいはずがない。列の最後尾にいる騎士が持っていた看板には一時間待ちと書かれていた。今来たばかりのベルたちも、しっかりと並ぶべきだろう。そう主張してみるが、屈強そうな騎士には慌てて首を横に振られてしまった。
「さすがにベル様を待たせるわけには行きません。お願いします、どうかお通りください」
(えーーー……)
屈強そうな騎士に再度深く頭を下げて、お願いをされてしまった。
どうしようかと悩んでいると、ずっと成り行きを見守っていたロセウスが、ベルへ耳打ちをした。
「ベル、ここは先に通った方がいい。家を出る前にアーテルが言ったように、ベルは国王より上の存在。そんなベルが先に通ったところで、誰も文句は言わないし、先に通った方がこれ以上この場が混乱しなくて済むだろうからね」
ロセウスの視線の先をつられるように見てみれば、ベルの後ろにはさらなる列ができていた。しかもベルを見ようと、所々列が崩れていたりしている。
「……わかった」
権力を笠に着ているようで、どこか後ろめたい気持ちがある。けれどロセウスの言う通り、先に通った方が混乱が小さくなるのもまた事実。ロセウスの意見に頷くと、屈強そうな騎士の意見に従った。
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて通らせていただきますね」
頭を深く下げていた屈強そうな騎士は、すごい勢いで頭を上げると、笑顔で何度も頷いた。
「はい。どうぞ、お通りください!!」
こうして、ベルたちは王都に入る前に大きな噂となる騒動を起こし、王都へ足を踏み入れることとなった。




