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召喚術師はじめました  作者: 鈴野あや(鈴野葉桜)


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4話

 ベルが私室からリビングへ戻ってくると、すでに三人の召喚獣が獣化をして待機していた。ゲーム中に何度も見たことがあるとはいえ、やはりテンションが上がってくる。なにせ動物園の動物並みに大きい召喚獣に触ることができるのだ。それも普通の動物と違って意思疎通ができる上に、危険性は全くない。これにもふもふ好きのテンションが上がらないはずがない。


 緩む頬を引き締めることができないのは仕方がないだろう。ごくりと喉を鳴らしながらも、指が動きそうになるのを必死に止めた。それをやってしまったら、完全な変質者だからだ。


 平静を装いながらも、三匹の姿をまじまじと見てしまう。


 ロセウスは桜狐ということもあって、人化しているときと同じ桜色の柔らかそうな毛並みをしている。縦に長い三角の耳は時折ピクリと動いていた。ふっくらと膨らんだ三本の尻尾はそれぞれゆっくりと動いており、まるで猫じゃらしにつられてしまう猫のようにその尻尾を目で追ってしまう。


 次いで寄り添うように隣同士に座っているアーテルとアルブスに目を向ければ、まるで鏡映しのような二匹の姿に惚れ惚れしてしまった。アーテルの毛色は基本が黒で縞々模様が白、アルブスはその逆で基本の毛色が白で縞々模様が黒の黒虎と白虎だ。ロセウスと違って毛の長さは短いが、それでも触り心地はとてもよさそうだ。その証拠に毛は艶やかで、窓から入る太陽の光に当たっている部分がきらきらと輝いている。


 召喚獣の証でもある三対の金の瞳がベルを視界に入れた瞬間、その場から立ち上がり、近くに寄ってきてくれた。


 桜狐に、黒虎と白虎。どの召喚獣も大人二人くらいは余裕で背中に乗せられるような体格をしているため、元の現実世界だったら恐怖に襲われているに違いない。でもここは元ゲームであり、ベルにとっては第二の現実世界。ベルの瞳は恐怖ではなく、歓喜に満ち溢れていた。


「その服装、久方ぶりに見たが、やはりよく似合っているな。髪は一つにまとめてきたのかい?」


 桜狐のロセウスがベルの体へ三本の尻尾を絡ませながら服装を褒めてくれた。ベルの現在の格好はロセウスの言う通りゲーム中によく使用していた服で、黒と白を基調とし、その生地の境目には金の刺繍が施されている、膝が見えるほど丈の短いワンピースを着用していた。ワンピースといっても、生地はしっかりとしていて、きちんと襟までついている。ワンピースの胸元にはアクセントとして、桜色のリボンをつけた。そしてもちろん、膝が見えるほど短いワンピースなので、下には黒のキュロットを着用している。足元は普段から履きなれた編み込みのブーツにした。


 全て十年前のものだが、使っている素材がいいのか、はたまた保存がよかったのか、劣化している様子はどこにも見られなかった。


「そうかな? でも十年も経っているし、この服時代遅れとかじゃないかな? 大丈夫かな? 髪は風にやられてボサボサになるかなと思って結んできたの。本当はもっと凝れたらよかったんだけど、手先がそんな器用じゃないからさ」


 ベルの外見は、鈴だった頃に拘って設定をしたので可愛い自信がある。でも十年経ってしまった服の流行までは、イマイチ自信がなかった。


「召喚術師や契約術師の正装はあの頃とほぼ変わっていない。ベルのは多少アレンジをしてあるが、問題ないはずだよ。それに私たちの髪色が衣装に入っているんだ。可愛くないはずがない」


「……あ、ありがとう」


 元の現実世界ではこんな真っすぐに褒められたり、可愛いといってもらったことはあまりなかった。ゲームだった頃に、三人からたくさん褒められたりはしたが、こうして面と向かって褒められるとどうしても照れてしまう。


「真っ赤になっちゃって。お嬢、本当可愛い」


「アルっ、からかわないで!」


 恥ずかしくて、たまらず声を上げればアルブスに頭をぽんぽんと大きな肉球で撫でられてしまった。なんだか子ども扱いされているようで悔しいが、それよりも肉球に体が素直に反応してしまった。頭に乗せられた肉球を両手で触れば、ふにふにと癖になりそうなもみ心地があった。永遠ともんでいたくらいに気持ちがいい。


「お嬢が可愛いのは事実だ。そうだ、お嬢。もしあれだったら、ロセウスに髪を結ってもらったら? ロセウス、意外と手先器用だよ?」


 肉球をもまれているアルブスはといえば、気にもしていないようで、視線をロセウスに投げかけていた。


「そうなの?」


「まあそれなり、ね。私でよければ結おうか?」


「お願いしたい!」


「なら、私の尻尾に座っておくれ」


「尻尾に?」


 ベルが疑問の声を出すと時を同じくして、ロセウスはベルの体に絡ませていた三本の尻尾を床におろし、ベルが座りやすいようにしてくれた。そして尻尾と耳だけを残して人化をしていた。獣化したときは裸なのに、人化をしたときは先程まで着ていた服を身に着けていた。どういう仕組みなのか、謎である。けれど今はそんなことを気にしている場合ではない。目の前にはロセウスというイケメンが、ケモ耳と尻尾を残した状態で立っているのだ。これにベルが萌えないはずがなかった。


(イケメンのこれはやばすぎる! たまらない!!)


 アルブスの肉球から手を離し、口元を抑えながらロセウスを凝視してしまう。


「ほら、私の尻尾に座って?」


「いや、でも、尻尾に座ったら痛くない? 私多分重いよ?」


 いくら理想の体型にしたとはいえ、体重は外見に見合っただけはある。ロセウスに悶えながらも遠慮をすれば、今まで静かに成り行きを見守っていたアーテルに頭で背中を押されてしまった。


「お嬢の体重くらいどうってことないさ。だから早く座りな」


「そうだよ、ベル。ほら、早く」


「う、うん」


 これだけ座ることを押してくるのだ。きっと大丈夫なのだろう。それでも半信半疑になりながら、ゆっくりとロセウスの尻尾に腰をおろした。さすがふっくらと膨らんだ尻尾なだけあって、座り心地は最高にいい。まるで高級ソファーのようだ。


「痛くない? 重くない?」


「問題ないよ、ベル。ベルは自分が思うほど重くはないし、それに私も軟弱ではないからね。さて、時間もそれほどあるわけではないから結ってしまうね」


 ロセウスは髪をまとめているゴムを取ると、器用に複数の編み込みを作り、五分もかからないうちに綺麗にまとめてしまった。手渡された手鏡で確認すれば、まるで美容師が結ったように綺麗な編み込みがされている。


(わ、私よりも女子力高い……)


 本当はここで落ち込むところなのだろうが、高すぎるせいで落ち込む気すら起こらなかった。


「これで大丈夫かい?」


「うん、完璧。ありがとう、セス」


 本音をいえば、もう少し尻尾のソファを堪能したかったけれど、これはまた今度頼むことにしようと心の中で決める。名残惜しそうに立ち上がると、ロセウスがふいにベルの頬へキスをしてきた。


「え……!?」


 突然のことにびっくりして、ロセウスの方を振り返るが、すでにそこには獣化したロセウスがいた。


「結ったお礼にこれくらいはいいだろう?」


「そりゃ、構わないけど……」


 声を大にして、構います! と言いたかった。元の現実世界ではキスをする以前に付き合ったことすらなかったのだ。いくらゲーム内で召喚獣三人と恋人として付き合っていて、何度もキスをしたことがある間柄とはいえ、現実になった今、びっくりしないはずがない。


(いや、ちょっと待って)


 そこで、ふとベルは気づいてしまった。


 本当は一人しか攻略できないキャラクターを、努力に努力を重ねて逆ハーレム展開まで持ってきた。それはあくまでゲームだからこそ、許される関係だ。でも今は現実。ゲームのままの設定、十年後ではあるがむしろセーブをした続きだから三人がベルの恋人という設定は変わっていない。


 初めて三人に会ったときは、安堵感が強すぎてすっかり忘れていた。


(そうだよ、私逆ハーレム作ってたんだよ。なんで、すっかり忘れてたの、私!!)


 今まで気づくポイントは何箇所もあった。むしろVRSLGの乙女ゲームに異世界トリップした時点で気づかなければいけなかった。それなのに、頬へキスをされてようやく思い出した。


「あ、ロセウスだけずるい。俺もする」


「じゃあ、俺も」


 ロセウスに続き、獣化した黒虎と白虎の姿のまま、アーテルとアルブスが両頬へキスを落とした。

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