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神に見放されし天秤  作者: 春海
第 1 章 辺境揺籃編:運命の始まり

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3/4

罪人の独白:〇〇

 私は罪人である。

 

 己の利己さによって世界を滅ぼした罪人だ。

 

 今この瞬間に至るまで、私は自らが行ったすべてに対し、罰を受け続けている。


 いつから墜ち始めたのか、どれほどの時を墜ちてきたのか、私は知らない。

 

 いや、そんなことを考えても、何の意味もない。

 

 意識が途切れることなく在り続けていても、時間も空間も計ることはできない。

 

 なぜなら私は、ずっと「体験」し、ずっと「観て」きたからだ。

 

 ずっと── 他人の人生を。


 時には、貧困に喘ぎ、路地裏の穢れの中で餓死した。

 

 時には、富を極め、金と食糧で築かれた山の頂に立った。

 

 時には、塵のように卑しく、高貴なる者を仰ぎ見て憧れた。

 

 時には、権勢に渇き、卑しき者たちを見下ろし、蔑んだ。

 

 時には、悪を重ねる犯罪者となり、人々に忌み嫌われた。

 

 時には、悪を討る英雄となり、衆人に敬愛された。


 私は繰り返し、繰り返し、人生を経験し続けた。

 

 それが私ではないのに── いや、私であってはならないのに。


 幸福と苦痛は、とっくに見分けがつかない。

 

 私はただ、麻痺したように、繰り返されるこの審判を受け入れているだけだ。


 私の精神は、とっくに崩れ果てているのかもしれない。

 

 いや、もしかすると今この瞬間まで、崩れ続けているのだ。

 

 これが私への罰なのだろう。


 …… ふっ。

 

 自分自身に関する声は何も聞こえない。

 

 ただ、今この自分に対する嗤りだけが、異様に鮮明に響く。


 違う。

 

 これは罰ではない。

 

 これは、私が永遠に抜け出せない檻だ。


 神はもういない。

 

 いったい誰が、私を裁く資格があるというのか。

 

 仮にそのような者がいたとしても、傲慢な私は、いかなる存在にも自分を許すことなど、決して許さないだろう。


 墜ち続けよう。

 

 底なしの深淵へ。


 私は、

 永遠に救われない。


 目を開いていようと、閉じていようと、ただこの罰がさらに重くなることを願う。

 

 永遠に瞼を閉じるその時まで。


 ……

 

 風か?

 

 風を感じる。 そして、顔に当たる陽光の温もり。


 またか…… 今度は、誰の人生だろう?

 

 私は待った。 あの奇怪な多重の視点と感覚で、この見知らぬ人生を味わう準備を。

 

 あの感覚は正気の沙汰ではない。 どんな者でも、一度味わえば狂ってしまうに違いない。


 しかし、今回は── しばらく待っても、

 

 空にいながら地上を観測し、自分の中にいるような錯乱は起こらなかった。

 

 感覚が歪むほどに増幅されることもない。


 どうしたというのだ?

 

 私は驚き、戸惑った。


 …… 違う。

 

 なぜ、私はまだ「驚く」ことができる?


 これ…… は手か?

 

 指を曲げてみる。 関節から、ぎこちない感覚が伝わってくる。

 

 足も?

 

 下半身からも、久方ぶりに「身体」というものの反応が返ってくる。


 ああ…… ああ……

 

 これは口か? いや、この感覚は──


 私自身の肉体だ。


 鳥の声が耳に入る。

 

 目を開けると、まぶしい陽光が見えた。

 

 よろめきながら起き上がろうとし、自分が林間の空き地に横たわっていることに気づく。


 森…… か?

 

 なぜ、私はここにいる?


 …… ああ、わかった。

 

 頭が重く、複雑な思考は働かない。 ひとつの荒唐無稽で絶望的な考えが、静かに浮かび上がる。


 この身体を与えられたのは、魔物に引き裂かれ、噛み砕かれ、飲み込まれる痛みを、私に直接味わわせるためだ。

 

 真の死を。


 今の私は、もう何も考えたくない。

 

 何も考える必要などない。


 私は疲れた。

 

 静かに魔物に見つけられ、食い尽くされるのを待っていればいい。


 ……

 

 だが、これは本当に正しいのか?

 

 これは救いではなく、最後の拷問なのか?


 私は、この身体の中で…… 考え始めてしまった。


 …… いいだろう。


 口を開く──

 「あ──」


 この身体の扱い方を知らない私は、精一杯の声を出そうとした。


 神のいない今、最後に一度だけ、偽りの「運命」というものを信じてみよう。

 

 もし魔獣が私を見つけて食い殺すなら、それは当然の報いだ。 何の怨みもない。

 

 もし誰かが私を見つけて連れ去るなら……

 

 …… ふっ。 ありえない。 近くに何匹もの獰猛な魔物が潜んでいるのを、もう感じ取っている。


 私はやはり……

 

 …… どうしようもないらしい。


 考えるのを、やめよう。


 ……

 

 しばらく待っても、予想された引き裂かれる痛みは訪れなかった。

 

 代わりに感じたのは、優しく抱き上げられ、温かな衣に包まれる感覚だった。


 …… 一目、目を開けてみよう。

 

 視界に映ったのは、銀髪で白い肌をした男だった。 彼はうつむき、私を見つめている。

 

 私が目を見開いた瞬間、彼の表情が一瞬、わずかに固まった。


 私はまばたきをした。

 

 再び見ると、彼は穏やかな笑みを浮かべていた。 その笑顔は陽光にまぶしく、

 温かすぎて、かえって現実感を失いそうだった。


 (魔物が来た…… 逃げてくれ。 私を置いていけば、お前は生き延びられるかもしれない)

 

 伝えようと思ったが、結局、黙っていた。


 男は避ける間もなく、私を胸に抱きしめ、斧を構えて前に立った。

 

 (このままでは…… 必ず死ぬ)


 目を閉じ、記憶の奥底を探った。

 

 普通に魔法を使うのは、あまりに久しぶりだ。 力を制御できるかどうかもわからない……

 

 だが、この人が私のせいで死ぬのを、ただ見ているわけにはいかない。


 風が起こった。

 

 魔獣の体勢がぐらつき、攻撃は空を切った。


 霧が生まれた。

 

 濃い霧が周囲に立ち込め、やがて森全体を包み込んだ。


 霧には私の魔力が溶け込んでいる。 魔物と男を容易に隔てられるし、気づかれずに彼を山の下まで送ることだってできる。

 

 (そして…… その後、どうすればいい?)

 

 考えていなかった。


 目を閉じ、思索に沈んだ。

 

 (もしかしたら、本当に眠ってしまったのかもしれない。 久しぶりに誰かに抱かれて、これほど安らかな気持ちになるとは)


 ……

 

 風が止んだ。

 

 代わりに、温かな気配が、優しく私を包んだ。

 

 (どこかに着いたのか?)


 私は別の人の手に渡された。

 

 抱く腕はやはり優しいが、しかし、さっきとは違う安らぎがあった。


 半眼で見ると、美しい女性が優しい眼差しで私を見つめ、子守歌を口ずさんでいる。

 

 私は、再び目を閉じ、深い眠りへと落ちていった。

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