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最高の恋人

 翌日、月曜日の午後六時、定時を迎えた私はパソコンの画面を閉じた。

 コンペが終わり、仕事がひと段落ついたから最近は少し早く帰らせてもらっている。

 今日もこれからゆっくり休もう——そう思って席を立った時、デザイン課の部屋の扉が開かれた。

「山名さん!」

 入ってきたのは他でもない、雅也だ。ここまで走ってきたのか、はあはあ、と肩で息をしている。

「宗岡くん、どうした——」

「うちが勝ったぞ!」

「え?」

「今日のコンペの結果、さっき電話が来ました。うちのデザインを——山名さんのデザインを採用してくれることになりましたっ」

 わあ、と部署内で歓声が上がる。「おめでとう」と同僚たちが祝福する声が響いて、ようやく事態を把握することができた。

 私が考えたデザインが、採用された……。

 嘘だ、と信じがたい気持ちと、嬉しい気持ちで感情がぐちゃぐちゃになる。

「わっ!?」

 その場に立っていられなくなって、崩れ落ちかけた私を、雅也が受け止めてくれた。

「あ、危ね〜……あゆ——山名さん大丈夫ですか?」

「は、はい……。すみません。ほっとして力が抜けてしまって」

 雅也の腕の中から、彼の顔を見上げる。同僚たちに見られて恥ずかしすぎて顔にどんどん熱が溜まっていくのが分かった。だけど、そんな私に構わずに、雅也が「やったな!」とタメ口で叫ぶ。

「俺たちの仕事が認められたんだ。あゆりのおかげだ。あ、みなさん、俺たち実は付き合ってます。今後とも温かい目で見守っていただけると嬉しいです! それではお疲れ様です!」

 えっ、と周りのみんなが声を上げるのも無視して、雅也はそそくさと私の手を引いて部屋から飛び出した。そのまま二人でオフィスから出て、早足で会社から離れていく。

「ちょっと雅也、突然あんなこと言って、恥ずかしいじゃん!」

「いいでしょ。だってもう、あゆりは誰にも渡さないって決めたし」

「〜〜〜〜!!」

 恥ずかしくて、でも嬉しすぎて胸がきらきらとときめく。こんな気持ちになったのはいつぶりだろう。湊を好きでいた時と同じくらい、私はいま、このひとのことが好きだ。

 メラメラと燃えるような恋ではないかもしれない。だけど、静かで穏やかながらも熱く燃える青い炎みたいに、雅也を想う気持ちがどんどん膨らんでいく。

「さーっ、明日から大変だな? 質問責めにされるぞ〜」

「そんな他人事みたいに! ちょっとは助けてよね」

「もちろん。お姫様のもとへすぐに駆けつけますよ」

 にんまりと笑う雅也は、私の知っている優しいだけの彼じゃなかった。

 まだまだ知らない一面がある。

 その事実が、私のこの胸の高鳴りを一気に押し上げていく。

 今日も、明日も、十年後も。

 雅也の新しい一面を見つけて笑っていられますように。

 

 神様はもういない。

 ここにいるのは大きな愛で私を包み込んでくれる最高の恋人だけだ。


<了>


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