2022年8月某日 水の使い手
2022年8月編 (3/3)
3話連続エピソードの3話目になります。
一つひとつは小さな光の粒だった。
それは仲間を呼ぶように点滅を繰り返す、不気味なほど静かに淡々と……
先ほど、まさきを発見した地点よりさらに奥の少し開けた場所に、ヒーローと捜索隊のクリーンが集合していた。
救急車に村越が同乗した事を報告しようとしたが
「あんた、エニグマ触って変化あった?」
和泉が、俺の姿を見るなり詰め寄ってきた。
「いえ、大きな変化は無く……少し手のひらが乾燥した程度です。」
「子供は?」
「蛇に噛まれたようにして、救急車で出発しました、手に損傷はありませんでした。」
「そう……。」
一応心配していたのだろうか?無視を決め込んでいたがエニグマから引き離す手段だったのだろうか?そんな事を考えていると、阿部が声を掛けて来た。
「班長は救急車に同乗できた?」
「はい。帰りに病院まで迎えに来てくれと言ってました。」
よくやったと言わんばかりに、肩をポンポンと叩かれた。
「宮部がヒーローにエニグマ渡してから、まるで光の玉に集まるように、他のも寄ってきてるんだ。」
「あれが本体では無いんですね。」
そう話している間にまた光の玉が寄ってきた。ここで集まって大きな個体になるなんて無いよな……。
「判明しました。エニグマは火属性です。暗闇では特に変化は無く、水を掛けたら縮みました。ただ、大きな個体が分散してるのか、本体が別にあるのか分からないので、一度作戦を立て直します。クリーンの方は引き続き光の玉の捜索お願いします。」
和泉が指示を出した。火属性……まさきが火傷してなくてよかったと、胸の奥で固くなっていた何かがほどけた感じがした。そして退治はできないけど、触れることのできるクリーンの仕事のやばさを今更思い知った。
それにしても、1時間捜索して見つからなかったのが、不思議になるくらい光の玉が現れ始めた。何か悪い事の予兆じゃなきゃいいけど。
三上がクリーンを集め、話し始めた。
「作戦を発表します。和泉さんが入り江になっている所の水面に降り水面上でエニグマを集めるようにします。本体が出てきたら水面で対峙し、集まって大きなエニグマになるのなら、集めた物を含めて水をかけて消火します。」
「エニグマ回収はダム湖上になりそうですので、ボートを取りに行く者に同行してもらっても良いですか三上さん。」
副班長の阿部が三上に申し出る。
「了解しました。ヒーロー達に伝えてくるわね、そしたら3名でボート捕りに行きましょう。」
俺は、阿部・柚木と一緒に現場待機することになった。
和泉は湖面の水を操り、水柱を作り自分の所まで引き寄せた。柱の上に乗るとそのままエレベーターのように湖面へと降りていく。流石、操作性に優れたヒーローである。
入り江の中心に下りて5分も経たない間に湖面に無数の光の玉が現れ始めた。時期は真逆だがイルミネーションのようだ。昼間なのがもったいないと思ってしまうほどに。
集まってくる火の玉の大きさも徐々に大きくなってる気がする。
顔の横をさっきの手のひらと同じ感触が通り抜ける。――脈打つような熱
瞬間的に振り向くと直径1m以上の光の玉が、ダム湖へと向かっていた。
「来ました!1m位の光の玉がダム湖へ向かっています!」
阿部がトランシーバーに向かって叫んだ。じりじり進むそれは、周りの草木の水分を蒸発させながら、ゆっくり着実に和泉の方へと向かっている。直感的にこれが本体だと思った。
もし意思があって、こちらに近づいてきたら太刀打ちできない。先ほどの恐怖が胸を取り巻いた。
息を潜めながら、入り江を見渡せる場所へ移動する。和泉とエニグマとの戦いは近い。
和泉も巨大な光の玉を視界に捕らえたらしい。光の方へ向き直る。
茂みから光の玉が姿を現すと、水面を揺らすほどの低い遠吠えの様な音を出した次の瞬間、湖面で光っていた玉たちが一斉に吸い寄せられていく。光が軋むような音を立て、形を失い、再構築される。みるみる玉は姿を変え身長2m程の光る猿となった。
光る猿は手のひらを見てもう一度和泉の方をみると、水で出来た鳥かごの中に5個ほど光の玉が残っていた。
「鬼さんこーちら……」
そう言って籠の中の光に水をかけ光を消した。最大級の煽りをかましやがった。
エニグマは怒りを含んだうなり声をあげながら、湖面に飛び出した。
入り江に立つ崖の上から飛び出して来たエニグマを、水面でひらりとかわす。そのまま水の中に落ちると思いきや、光る毛を逆立て周りの水を蒸気に変え勢いを落とした。
「コイツ、火属性のくせにっ!」
和泉は少し悔しそうに眉間に皺を寄せる。そして、すかさず水を操って作った網をエニグマに掛け捕獲しようとした。またも毛を逆立てられて水蒸気にされて逃げられる。和泉の呼吸が荒くなるのと反対に、エニグマは余裕ができたのか胸を叩いてドラミングした。
湖の水を蒸気に変えて水面から浮いているエニグマ、戦いが長期化するとダム湖への被害が出てしまう。先ほど自分を乗せた何倍もの大きさの水柱でエニグマを包んだ。が、先ほどよりも時間はかかったが、水蒸気にして外に出て来てしまう。だが時間はかかっていた……
「法月さん!水柱ごと闇で包んで、凍らせてください!」
何かを閃いたように法月に指示を出す。
「わかった!成るべく急速冷凍してみるよ!」
法月が答える。
またエニグマが突進してきた。和泉は、下から水を噴射させ上へ逃げる。和泉を見失って足が止まったエニグマを、空中から水を操り水柱の中へと閉じ込め、法月が水柱ごと闇に取り込む。
呼吸するのも忘れて、食い入るように闇に包まれた柱を見る。
凍るのが先か、逃げるのが先か――
闇が消えると水柱ごと固まったエニグマが現れた。
「最後は水で送ってやるよ。」
そう言うと和泉は水を細く回転させ、巨大なウォーターカッターを作り、氷ごと真ん中のコアを切るように十字に切った。
氷漬けのままエニグマは倒れた。和泉の勝利だ。
しばらくするとゴムボートを担いでクリーン全員が戻ってきた。観光客の誘導を行っていたチームも一緒にだ。
「エニグマどうなった?」
神崎が聞いてきた。
「1m四方に4分割です。」
佐々木が「それはありがたいです。」と続く。
水面に浮いているので引き上げも楽そうだった。ボートを運んでる後ろから台車を押す西城と片岡の姿も見えた。
今日のクリーン活動は早く終わりそうだ。
クリーンがエニグマ回収に当たる中、和泉は戦闘で減った水分を戻す。相当体力を使うらしい。戦闘でも命張ってたのに、頭が下がる思いだ。
ボートで引き寄せた破片を、三上に解凍してもらい、台車に積む。これならトラックを要請しなくて済みそうだ。
荷物と破片を積み終え、帰宅ラッシュの行楽地の中を帰路に就く。途中で班長を迎えに行き、まさき君の状態を聞く事を、あわよくば、あの笑顔にもう一度会えることを願いながら。
次回 1月 8日 21時に更新します。
よろしくお願いします。




