2023年 4月某日 恐怖と戦闘
連続エピソードになります。(4/6)
土で出来た巨大なエニグマは、動かずこちらを睨んでいる。
恐怖に飲まれないように、遠くから観察すると、エニグマの腕や体は崖と一体化している。この崖の一部がエニグマだったのだ。
「さっきの地響きで崖と分離したんだ。」
俺がそうつぶやくと、近くにいた班長の村越が続けて言う。
「先発班がエニグマと誤認したのは、エニグマの角の一部だったのかもしれないな。」
俺の隣には、エニグマを見て過呼吸気味になっている高木がいる。
「高木、落ち着け。戦うのは俺たちじゃない。今回は初出動だし、無理に戦闘を見てなくても良いからな。」
高木の背中をさすりながら、俺はできるだけ優しく言った。
初エニグマがこれだとトラウマになりかねない。トラウマを抱えてしまい戦線離脱するクリーンは少なくない。俺の時は、体長2メートルほどのエニグマがデビュー戦だったからよかったが、この大きさクラスは俺も初めてだ。
「でも、ちゃんと見てないと……。」
真っ青な顔をして答える高木を見ていた村越が、俺たちの会話に割って入った。
「高木、勘違いするな。俺たちの仕事は戦闘後の清掃だ。無理に戦闘を見ている事じゃない。戦闘後の清掃に備えてくれ。」
「……はい。」
下を見て悔しさを滲ませる高木を連れて、車まで戻りながら話しかける。
「正直、今回のエニグマの大きさは俺も初めてだ。俺、エニグマが生きてる状態で触ったり、ヒーローの手伝いで討伐協力もしたことあるけど、今回のはヤバさのレベルが違うんだ。初出動だし、落ち込むな。それで普通なんだから。俺だって、だいぶビビってるからさ。」
車に戻ると、立石が運転席でエンジンをかけたまま待機していた。今年度から運転を任されている彼は、有事が起こった時は、すぐ逃げられるように、戦闘中は車で待機しているのだ。
「立石さん、高木お願いしてもいいですか?」
「おう。任せろ。……今回のエニグマはやべぇからな。見てない方がいいぜ。」
立石にそう言われたのもあって、高木はおとなしく車の一番奥の席に座った。
「じゃあ、俺行きますね。」
「宮部、無茶すんなよ。」
「病み上がりなんで、後ろの方でリハビリさせてもらいます。」
「はっ、ちょっとは働け!」
「いってきます!」
立石とのやり取りで、少し自分の緊張が解けた気がした。
知らぬうちに気を張っていたのだろう。他の班員がいる辺りまで走って戻った。
「班長。高木は立石さんと車内で待機してます。」
「ありがとう。流石に初めてがこれだと、トラウマになりかねないからな……。」
「そうですね、俺らでもビビる大きさですもんね。」
村越と話していると、前線から渡部が戻って来た。
「クリーン班車の間近で退避してくれ。この下の一部までエニグマだ。俺が岩砕いて叩き出して古賀が締め上げる作戦だ。」
「了解しました。安全な位置まで退避します。車も移動できそうな場所があれば移動させておきます。」
「よろしく頼む。」
そう言って渡部は自分の持ち場に戻って行った。
俺たちは、車のある場所へ戻り、車は念のためインカムが電波を受信できるギリギリの場所まで移動して安全を確保した。
「清掃班移動完了しました。」
村越がマイクに向かって言う。続いて古賀の声がインカムから流れて来る。
「悪いね~。なかなか大物でさ、崖ごと崩れるかもしれないからね。渡部さん伝言ありがとう。流石にエニグマでも作戦効かれるのは癪だからね。」
「んじゃあ、行きますか!!」
古賀の声と共に遠くの方から渡部の声が聞こえてきた。
「金剛打!!!!」
ドンッと大きな衝撃が足元を伝ってくる。戦闘が始まったのだ。
その直後、先ほどと同じ地響きが辺り一帯を揺らした。
エニグマの手が自由になったのだ。
また地響きが起きた。おそらく逆の腕も解放されたのだろう。
インカムからいつも通りの古賀の声が流れる。
「渡部さん良い感じ!次で足まで出しちゃおっか!」
「簡単に言ってくれるな古賀!」
少し笑いながら渡部が答える。
流石熟練のヒーローたちだ。若いヒーローとは落ち着きが違う。
さらに2回大きな地響きが起きる。きっと足も離れたのだろう。
ここからが本番と言わんばかりに、古賀の声が響き渡る。
「千蔓縛!!!」
古賀の蔓で縛り上げる技が決まり、全身蔓で巻かれるエニグマ。
俺たちが勝ちを確信したその瞬間。
大きな破裂音と共に太い蔓が無残に飛び散った。
物凄い咆哮が響き、全身の血が凍りついた。
次回は 3月 25日(水) 21時更新です。
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次回は全編戦闘になります!
お楽しみに!




