2023年 2月某日 クリーン研修10
クリーン研修編 2日目
「ほんま、ビビった~。そう思わへん?」
施設見学から帰ってきた俺たちは、口数少ないまま食堂に入った。
食堂の人から昼食を受け取り席に着いた途端、隣に座った田中が口を開いた。
「確かに、ビビった。あれは想定外すぎてリアクション取れなかった。」
「ツッキー、カッチーン固まってただけやったな!」
「田中もね!」
「ワイらに引きかえ、かじやんよく質問できてん。おたく、すごない?」
「凄くないよ、ただ純粋に何に再利用されてるか気になっただけだし。」
「まあ、まさか支部の建物とかに使われてるとは思わなかったけど……。」
「下手なところよりも有事の時に安心だしね……。」
「なーんも、こっちは安心できひんちゅーこっちゃ!」
「だから、極秘事項なんだろうけどさ……。」
俺、田中、鍜治口の3人とも会話の歯切れが悪くなってくる。
「これを知ったところで、支部に帰って何かが起きるわけでもないから大丈夫だよ。」
俺たちの会話を黙って聞いていた山下が言った。
確かに知ったところで何かが変わるとすれば、単純に請け負える仕事が増えるだけである。別に支部の壁からエニグマが沸き上がってくることも今のところ確認はされていない。
それでも、危険と言われて駆除してきたものが身近に再利用されていたというのは驚きが隠せない。例えるなら、駆除したはずのスズメバチが知らぬ間に何年も食べていたくらいの衝撃だ。
「せやけど、頭で分かってても、りょーちゃん心が付いていかへんのよ……。」
「「ホントそれな。」」
田中の素直な言葉に、思わず俺と鍜治口は揃って同意した。
「それは、僕だって同じだよ。少なくとも今日明日は、こうやって同じ思いをしている人と話せるわけだから、話して自分を納得させるつもりだよ。」
山下が冷静に返答をする。俺の見ている限り、山下は俺たちより理解をして状況を飲み込めている気がする。
こういう時、理解力がある人は良いなと思う。
この後は、あーでもないこーでもないと、まとまらない話をしながら昼食の時間を過ごした。
午後の実技集合時間10分前にエントランスへ向かうと、既に宝田と柏木2人の教官がそろっていた。
俺たちは慌ててエントランスへ駆け込む。
「まだ集合時間前だ、ゆっくりしてていいぞ!」
ニカッと笑って宝田が俺たちに言った。
教官としては甘すぎるこの人がトップ教官を務めているのは、きっとそれだけの実力があるからだろう。そう考えてしまうほど、他の教官たちより朗らかで親しみやすさを感じてしまう。
時間になると宝田ではなく、柏木がこの場を取り仕切る。
「時間になりました。今から実技、主に体力測定とクリーン技術の実技練習を行います。」
柏木は俺と宮田を見た。
「宮田君、宮部君は怪我により体力測定を免除となりますので、宝田教官と先に実技練習へ向かってください。」
「「はい。」」
宮田も怪我をしていたとは驚いた。自分だけ特別扱いされていたみたいで急に恥ずかしくなる。そんな羞恥心を振り払うように宝田の元へ向かった。
「宮田君も怪我してたんだ。」
「ん?俺は治りたてだから再発しないように配慮してくれたんだと思う。」
「そうなんだ。怪我はもう大丈夫なの?」
「大丈夫だよ!……フットサルで怪我したからあんまり大きな声で言えないんだけどね。」
茶目っ気たっぷりな小声で教えてくれたので、2人でクスクス笑い合った。
「よし、宮田、宮部。先に実技実習やって、後から合流するみんなに教えてやってくれよ。」
クスクス笑う俺たちの肩を叩きながら宝田が言った。
「「はい。」」
宿泊施設の裏手に体育館があるのに今更気付いた俺は、思ったよりこの施設が大きいことに気付いた。他のみんなが体育館へ向かう中、俺と宮田は宝田の後に続き、体育館の地下へと降りて行った。
「クリーンとしてやっていく中で、必要になる資格はたくさんある。重機の運転やそれに伴う免許が必要になるが、それは免許センターで取らなきゃならない。公道も走るしな。この研修だけで取れる国家資格がある。ガス溶接技能士だ。本来なら取得に二日かかる。それを座学とテスト込みで四時間に圧縮するスーパー短縮コースだ。まあ、法令や安全技術は養成時代にやっているから端折れる部分も多いがな。」
カカカッと高笑いする宝田の後ろで、宮田と俺は顔を見合わせていた。
その2日かけてやる実技を俺たちは数時間先にやっただけで教える側に回るという事なんだろうか……。
不安がよぎる中、地下の実習室へと入っていった。
実習室ではガスボンベへの器具の取り付け、点火の仕方や火力の調節の仕方、実際に切断するなどの作業を教えてもらい、次は1人で全てやってみる。
これができたら、金属性のエニグマの残留物の切断が格段に楽になるな。
そんなことを考えながらやるうちに、実践に活かしたい気持ちが芽生え作業にも気持ちが入ってきた。
「そんなに大変な作業じゃないだろ?」
宝田の言葉に頷くと、宮田が横から声を掛けてきた。
「宮部君、飲み込み早いね。ここちょっと教えてくれない?」
「OK。たしかここは……」
とりあえず簡単に人に教えられるくらいにはなった。
「お前たち、怪我甘く見るんじゃねえぞ。」
いつにもなく真面目な顔をして宝田が話し始めた。
「仕事中の怪我にしろそうじゃないにしろ、怪我を甘く見て仕事を優先させると怪我を悪化させたりする。仕事が楽しくなってくる今くらいが一番怪我もするし、悪化もさせやすい。」
宝田はおもむろにズボンの裾をめくった。
足首から下が、義足だった。
「俺も、仕事が楽しくてな、怪我を大丈夫だと自分に信じ込ませて無理をしてきた。何年も。そしたらな、足の指から甲にかけて壊死が進んでいた。それに気付いた時には、もう切るしかなかった。30代前半の怪我が、50になるまで治りきっていなかったんだな。だから、どんな怪我でも甘く見るな、しっかり治せ医者が「いい」というまでな。いいかお前ら。」
「「はい……。」」
俺と宮田は力なく返事をした。
怪我を気遣ってくれていたのは優しさだけじゃないことを知った。実際俺もあまり医者にいい顔されないまま研修に臨んでいる。宝田の言う『医者が「いい」というまで』の重みが違った。
「このことは内緒話でもなんでもないから、休憩中にしゃべっても構わないぞ!みんなに注意喚起もできるし、むしろ言いふらしてくれ!」
話が重たくならないように、カカカッとまた宝田が笑った。
この話を聞いたことが、この研修に来た意味かもしれない。そう思えるほど宝田の言葉は俺に突き刺さっていた。
そうこうしている間に、体力測定を終えたみんなが、実習室になだれ込んで来た。
教えられるようになったところを他のメンバーに教え、実技の時間は終わりを告げた。
スッキリした顔をして帰っていくみんなの後ろで、俺と宮田は、少し複雑な感情を胸に抱えたまま宿舎へ戻った。
次回は 2月 28日 21時更新です。
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田中は動かしやすくて、とてもいいヤツですw
次回もお楽しみに!




