2023年 2月某日 クリーン研修9
クリーン研修編 2日目
もう一つは――
エニグマの再利用に関わる施設だからです。
俺は、驚きのあまり声を失った。
きっと研修生全員そうだと思う。相葉の言葉を聞いた後から、発言する者はいない。目を見開いたまま固まっている者、口を開けている者、何かを言いかけて飲み込む者。皆、声に出ない驚きを抱えているように見える。
「驚くのも無理はありません。本来エニグマは塵などの残骸となっても悪影響を及ぼす可能性を指摘され、皆さんクリーンの方々の完璧な仕事によりここへ塵埃が集められているわけですから。」
淡々と話す相葉に圧倒されている俺たちだったが、おもむろに鍜治口が質問を投げかける。
「エニグマの灰は、どんな物に再利用されているんですか?」
鍜治口をちらっと見た相葉は少し微笑んでから、全員を見渡す。
「普通の焼却灰と同じです。コンクリートやアスファルトに混ぜて再利用しています。例えば、各支部に敷かれているアスファルトや建物に使われているコンクリートにも混ぜられています。」
俺たちはさらにまた驚くことになった。何の気なしに使っていた建物にエニグマの残骸が再利用されていただなんて……。
俺たちは驚きを飲み込み、話を続ける相葉の声に耳を傾けた。
「大きな土の塊などは、訓練施設に輸送することもありますし、訓練施設内の泥や砂にも混ぜてあります。なぜここまでして再利用をしているか分かりますか?」
聞いたこと全てに動揺している俺たちに相葉は質問をする。多くの者が、今聞いた話をしっかり現実のこととして、理解するのにやっとの中、周りをみて山下が手を挙げた。
「山下さん、お願いします。」
相葉に指名され、大きく深呼吸をして気持ちを整えた山下が発言する。
「焼却灰同様、処理施設の限界があるからではないでしょうか?」
「その通りです。」
相葉はそのまま話を続けた。
「現在、再利用した状態で使用率が70パーセント程度だと言われています。エニグマ戦闘の残骸は5年、エニグマの残骸は10年保管し再利用をしています。このままいくと、そう遠くない未来にこの施設も満杯になってしまいます。なので、色々な物に再利用できるよう、研究部の専門チームが日々この近くの研究施設で研究しています。」
震える手を挙げたのは青山だ。おとなしくて発言も少ない彼女が挙手するなんて意外だった。
「青山さん。なんでしょうか?」
「……再利用された物は支部以外にもあるのですか?」
震えるか細い声の青山の質問に相葉が答える。
「安心してください、現在再利用されている物は、本部・各支部の施設内に留まっています。」
それを聞いて俺は少し安心した。生活圏で使われていたら安心して眠れなかっただろう。
「繰り返しますが、5年・10年置いても変化が見られなかった物だけを使用していますし、何よりこの施設内でエニグマが発生したことは一度もありません。もちろん、この施設も再利用コンクリートを使用し作られています。」
「他に質問はありませんか?」
相葉はそう問いかけるが、やはり脳内の情報処理が追いついていない。質問すら思いつかなかった。
「皆さんも色々考える時間が必要でしょう。研修が終わるまでの期間なら質問を受け付けます。」
一息おいて彼女は話を続けた。
「この施設のことは口外厳禁です。支部でも軽々しく話さないように。」
「「はい。」」
少し返事が遅くなったが、口外厳禁の理由も理解できた。
今後は先輩たちと保管施設に残骸を運搬する仕事も来るのだろう。そんなことぼんやりと考えていた。
「施設見学は以上で終了します。皆さん外へ出ましょう。」
俺たちは言われるがまま、外に出て来た時と同じマイクロバスに乗り込んだ。
「帰ったら、昼食を取り、そのまま実技実習に入ります。それと、研修施設内なら先ほどの施設の話をしてもらっても構いません。運転手さんや食堂の方々は皆さんクリーンOBですので、施設について知っている方しかいませんので、安心してください。」
それを聞いて少しホッとした。自分一人で考えているより、誰かと話して頭の中を整頓したい気持ちが大きかったからだ。話せる研修メンバーでホントよかったと心から思った。
バスの中は行きよりも静かで、みんなそれぞれ何かを考えているようだった。
俺も、黙って窓の外を見つめることにした。
次回は 2月 26日 21時更新です。
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相葉の口調って書いてて楽なことに気付いた今日この頃
次回もお楽しみに!




