2023年 1月某日 柳の悪魔
2023年1月某日編(3/3)
3話連続エピソード完結編です。
鉄の茨で囲まれたそれは、上から不敵に見下ろしていた。
近づけさせないよう、こちらに無数の刃を向けながら――
柳の幹の上に佇むエニグマは、張り巡らされた鋭いワイヤーの中でこちらを見ている。見つかっていることにも気付いているだろう。絶対に近づけないとでも言うように、ワイヤーがわずかに唸りを上げた。
「エニグマ発見!中華庭園内の柳の木に、無数のワイヤーを張り巡らせて潜伏しています。今から応戦します。」
無線に三条が言うと、村越から返事があった。
「中華庭園入り口にワイヤーがあり入ることができません。エニグマを刺激しないよう、外に留まります。」
気付かぬうちに退路を断たれてしまっていた。
三条や和泉が来たあたりから、エニグマはこちらに気付いていたのだろう。
「了解しました。何かありましたら連絡お願いします。」
三条は応答し、和泉と共に戦闘態勢に入る。
退路を断たれた俺と佐々木は、何とか足手まといにならないように、ここに留まらなければならない。もう少し早くこの場を去ることを考えていれば……。
鼓動が早くなり手にじっとり汗がしみ出してくる。
「佐々木さん、なるべく周りに何もない場所に行こう。」
「……はい。」
不安で今にも泣きだしそうな佐々木を安全そうな場所に避難させる。
俺たちの場所を確認してから、三条が深く深呼吸した。
「焔拳!!」
拳くらいの太さの炎がエニグマ目掛けて飛んでいく。
ジューっと音を立てて、周りのワイヤーが溶けていく。
だが、火力が足りないせいか、それとも周りのワイヤーが多いせいか、本体のエニグマに届かない。
「焔拳!焔拳!!焔拳!!!!」
連続で技を放っても、エニグマに当たらない。
「三条君、あんまり乱発すると、木に燃え移るわよ!」
和泉が慌てて忠告した。
庭師が手入れしている庭園だ、生え方が変われば違和感に気付かれてしまう。
なので、三条も火力を出せずにいた。
「場所の相性が悪すぎる……。」
三条がつぶやいた瞬間だった。伸びてきたワイヤーが三条の腕のプロテクターを跳ね上げた。
「大丈夫か!」
俺は、反射的に声を掛けてしまった。
「大丈夫。怪我はしてないよ。」
三条の声に少し安堵するが、危険度は徐々に高まっていた。
「――ウォーター・ランス!!!」
三条を庇う様に、和泉が前に出た。
「今のうちに突破口考えなさい!!!」
俺たちの少し前で、飛んで来るワイヤーを和泉が水の槍でひたすら叩き落す。
三条は考えを巡らせているようだが、良い答えは出ていなさそうだ。
何か、突破口……
柳の木ごと燃やすのはダメ。でも、木から引きはがせない。
……巻き付いてる様子は無い。どこかで支えているなら、そこを切れば良い!
支えているなら強度が必要だけど、細いワイヤーで何とかなるのか。俺は目を凝らした。
「あれだ!!!」
俺は思わず叫んだ。
細いワイヤーの中に捻じったようなワイヤーが四本ある。
「偉紀!少し太くなってるワイヤーだ!そこを狙ってみてくれ!!」
三条は、ハッとしたようにこちらに顔を向け頷く。
「焔拳!」
俺の読みが正しければ……。ワイヤーが切れた途端エニグマがグラついた。
ビンゴ!
「太いワイヤーが後三本。同時に切った瞬間に、エニグマを下から押し上げて空中で攻撃すれば倒せるんじゃないでしょうか?」
俺は無線でヒーロー二人に伝えた。
「一番上は私が切る。幹に近いところは三条君切って。残る端の一本は……」
「俺が行きます。」
柳の木から少し離れた竹の密集したところに繋がっているワイヤーを見て俺は言った。
竹の隙間なら少し隠れることができる。二人が木を引いてくれてる間に回り込むことができそうな距離にワイヤーはあった。
「……他に頼めそうな人もいないし、お願いするよ。」
三条は少し悩んでから俺に言った。
「俺が竹のところ行くまで、エニグマの気を引いてほしい。」
俺がそう言うと、すかさず和泉が言った。
「危険は承知してくれてると思うけど、揺動終わったら守れないからね。」
「ワイヤー切ったら、2人がエニグマ倒してくれること信じてるんで!」
「簡単に言わないでよね。……まあ倒すけど。」
作戦は決まった。
俺が竹の所に移動し、合図と同時に全員でワイヤーを切断。
支えを失ったエニグマを下から水で押し上げ、炎で攻撃する。
上手くいくかは五分五分だ。
「さあ、始めるよ。」
三条の声に、俺は腹を括った。外の音より自分の心臓の音が大きく聞こえてきた。
合図を聞き漏らさぬように、深呼吸する。
「宮部さん、気を付けて……。」
相変わらず涙目の佐々木が俺に言った。先輩としてカッコいいところ見せてやらないと。自分を鼓舞した。
「揺動攻撃開始する。」
三条の声と共に火と水の攻撃が柳の木に巻き付いたワイヤーに仕掛けられていく。
俺はワイヤーだらけの松の裏を周り竹へと近づいた。
……ここもかよ。
ワイヤーに突っ込む一歩手前で止まった。
プロテクターが無ければ怪我をしていただろう。素早く慎重に太いワイヤーの近くに回り込んだ。頬にピリッとした痛みが走ったが気にしてられない。
「位置につきました。」
俺は無線越しに2人に合図した。
「切断攻撃用意……」
「開始!」
三条の声に合わせて、俺たちは一斉に太いワイヤーを切断し始める。
最初に柳の幹近くのワイヤー。次に柳の上に繋がっているワイヤー。
残るは俺だけ。
ありったけの力をワイヤーカッターに掛けて切断した。
切られたワイヤーは暴れ始め、顔をガードした腕のプロテクターが壊れ服が破れていく。
腕や足に痛みが走る。
俺はそのまま地面へ倒れ込んだ。
次の瞬間――
「アクア・ピラー!!!」
和泉の声と同時に真っ暗な夜空へエニグマが打ちあがる。
「インフェルノ・ブロウ!!!!!」
三条の手から放たれた青を纏った炎の渦はエニグマを一瞬で炭へと変えた。
――ゴトン。
エニグマだった塊が落ちた音で戦いに決着がついたことを知った。
「月陽!!」
こちらに向かって走ってくる三条は、もうヒーローの顔では無く幼馴染の顔をしている。
「痛いけど大丈夫だから、まだ残ってるワイヤー気を付けてくれよ……。」
俺は、体を起こしながら苦笑いをして言う。
「宮部君ありがとう。助かった。担架は呼んでるから楽にしてて。」
珍しく和泉が微笑みかけてくれた。
少し気が緩んだら痛みが増してきた。
眉毛を八の字にしながら三条も、“傷口焼いても良いんだっけ?”なんてパニックになりながら恐ろしいことをつぶやいている。
佐々木に至っては泣き始めてしまった。なにこのカオス空間。
そんなカオスなやり取りを見ていると、遠くから村越の声が聞こえてきた。
「また、派手に怪我したな。ヒーローと一緒に支部へ直帰しろよ。」
俺の怪我を見るなり村越は俺に言った。
クリーン作業をやらずに帰るのは初めてだ。あんまり傷口を直視しない様にしてたけど結構ひどい怪我なのかと肝が冷える。
班長・副班長に担架で運んでもらい、応急処置を受ける。両手両足に包帯を巻かれ、顔に絆創膏まで貼られた。一気に重傷患者の装いになってしまった。
そのままヒーローたちの車に乗せられ三条・和泉と支部へと帰ることになった。
「緊急事態だし、高速使ってもいいわよ三条君。」
「ありがとうございます、和泉さん。」
なんて会話を聞きながら、クリーン作業のため残った法月の席に傷口を刺激しないように座った。
「やっぱり、技名叫ぶとよりヒーローぽくっていいですよね。カッコよかったです。」
何となく今日のことを、脳内で振り返っていた俺はポロリと感想を言った。
「よくないわよ。めちゃめちゃ恥ずかしいんだからね。」
和泉が早速応戦してきた。
「和泉さんの技名もカッコよくて良かったです。AIに頼った人とは統一感が違った。」
俺はうつらうつらしながら会話を続けた。
やはり、気が抜けたのか痛みをごまかすためなのか眠気が襲ってくる。
「っえ、三条君AI使ったの?」
「壊滅的なネーミングセンスだったんです俺たち……。」
三条の言い訳を聞きながら眠りに落ちた。
支部に戻ってから、再度傷口の消毒やら縫ったりやらして精魂尽きることが決定している俺には、いい子守唄だった。
次回 2月 8日 21時更新です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次回から新章突入します!
お楽しみに!




