2023年 1月某日 技名を唱えて
2023年1月某日編(2/3)
前回からの連続エピソードになります。
静けさを引き裂くように熱のこもった声がこだまする。
直後に響いた轟音、まさに絵に描いたようなヒーローだった――
兵員長より、本日の出動から、技の発動時には、技名を口にするよう指示が出ている。
それを三条が口にした途端、ヒーローたちはソワソワし始める。
三条も、以前技名の候補を出した時に言っていたが、やはり気恥ずかしいのだろう。
こんな命令でも、仕事なので彼らもやらざるを得ないのだ。かわいそうに……。
そんな事を思いながら話を聞いているとミーティングは終了した。
ミーティングを終え微妙な表情をしている三条に、話しかける。
「今日から技名叫ぶの全国の支部一斉?」
「……全国一斉らしいから、下手に拒否もできないんだよ。」
苦虫を嚙み潰したような顔で三条は答えた。
横で聞いていた和泉も会話に加わる。
「ホント、何考えてるんだろうね古賀さんは……。」
和泉が年上の愚痴を言ってるのを初めて聞いた気がする。
三条の肩を叩き、和泉に頭を下げて、俺は持ち場に戻った。
事前に技名のことを聞いていたのは、班長以外だと俺だけだったらしく、質問攻めにあったが、最後にはみんなが、ヒーローたちに憐れむ視線を送ることになった。
何とも言えない空気のまま、荷物を積み込み休憩に入る。
念のためワイヤーカッターについて調べた。渡されたワイヤーカッターは通常の物より太いワイヤーも切れる形状をしているらしい。金属性か……今まで、巨大化するエニグマばかりだったから、こんな物で大丈夫かと少し不安がよぎる中眠りについた。
21時半、定刻通り準備を終え現場に向けて出発した。
車内では2時間ヒーローたちの技名について話題が持ちきりだった。三条の技名の最終候補まで知っていた俺も、ホントにそれになったかは知らなかったので、明言は避けて、技名当てクイズに参加していた。
「うわー、真っ暗ですね。」
後輩の佐々木が言った通り、閉園時間が過ぎているため街灯も消された公園は、暗闇そのものだった。
「……ステルス。」
透過ヒーロー法月の声がする。
誰よりも先に技を使うのは、クリーン班に透過を掛ける法月だ。
「法月さんお願いします。」
「了解……ステルス。」
「普通にカッコいいですね、技名。」
「ありがとう。こっちは穴があったらマジで飛び込みたいよ……。」
叫ぶだけじゃない技名も素直にカッコいいと思ったあたり、俺もまだ中二病なのかもしれない。
そんな事を思いながら、ワイヤーカッターを手に持ち、エニグマの捜索へ向かった。
「暗すぎると、怪我人を出すかもしれない。ヘッドライトを全員装着するように。」
班長の村越の声に返事をし、車にヘッドライトを人数分取りに戻った。
このヘッドライトも、メンテナンス室が開発した特殊ライトで、ヒーローに出してもらった素材だけを使い作ったライトなので、明るくなるが一般人には分からないという、超優れ物なのだ。
「和泉さん以外全員駐車場にいますか?」
三条が村越に話しかけた声が聞こえた。
「ああ、全員いるよ。」
村越が答える。
「ありがとうございます。……和泉さんお願いします。」
イヤホンに三条と和泉のやり取りが聞こえてくる。
「了解……。」
「――レイン・ベール。」
和泉の小さな声と共に、公園全体に霧雨が降った。レイン・ベールは、周りを濡らしたり鎮火するには適した技だ。
こう考えると、ヒーローたちが何気なくやってくれていたことって、特殊能力を駆使した物だったんだと改めて気付かされた。
「……これで、エニグマのワイヤー見やすくなったと思います。」
少し早口気味に和泉がイヤホン越しに皆に言った。やはりどのヒーローも技名を言うことに慣れるまで時間がかかりそうだ。カッコいいのに……。
エニグマの捜索が再開される。
細いワイヤー状の物で一般人を傷つける……。暗い公園の中を目を凝らして進む。
中華庭園風になっている場所に足を踏み入れると、後ろから佐々木がやってきた。
「宮部さん、なんか水滴キラキラして逆にきれいじゃないですか?」
何か胸騒ぎがする……
そういう時は――
「止まれ!!!」
「――ゆっくり、こっちに戻ってきて。」
「なんですか?急に?」
まだキョトンとしている佐々木に対して、俺は顔を向けて静かに言った。
「正面。エニグマの罠だ。」
正面の松の木と木の間に葉ではない何かが張り巡らされている。蜘蛛の巣のような模様をもたないそれは、ただ真っ直ぐに無数に交差し、木と木の間を埋めていた。
佐々木が慌てて無線に叫ぶ。
「エニグマの罠発見!中華風庭園内の松の木です!」
「宮部さんありがとうございました!八つ裂きになってるところでした……。」
佐々木が涙目でお礼を言ってきた。まだまだ注意力散漫な可愛い後輩だ。
「ちゃんと前見て歩けよ……。」
少しドキッとしたのをかくしつつ、先輩っぽく注意してみる。
でも、罠がここにあるってことは、本体も近いかもしれない。気合を入れなおす。
三条と和泉が庭園にやってきた。
「なるほど、これじゃあ怪我するね。」
罠をみて感心しながら三条が言った。そんな悠長なこと言ってる場合じゃないだろ。
「本体は近いわよ。炎で少し明るくして。」
やはり、しっかりしている和泉は違う。周りをみてサブだろうとしっかり現場を仕切る。
「……明るくする技名、考えてなかった……。」
絞り出す声で三条がつぶやくと、和泉が少しイライラしながら言う。
「何でもいいじゃない。灯火とかそんなんで。」
俺も三条もハッとした。この人ネーミングセンス良い!
「ありがとうございます。それじゃあ……灯火。」
三条の右手の火の玉が大きくなり辺りを照らし始めた。
張り巡らされたワイヤーは影になっていない。慎重に歩みを進める。
中華庭園の奥に一本の柳の木があった。
なにかが不自然に見える。違和感が拭えないまま近づいていく。
「待って。この柳の葉って……。」
「――全部ワイヤー……。」
この時期柳の木は葉を全て落としている。先ほどの違和感の正体が分かった。
生い茂っているように見えた柳の葉――それは全てワイヤーで作られていた。
木の幹のてっぺんには、金属の塊に顔が付いたようなエニグマが不敵に笑みを浮かべていた。
次回 2月 6日 21時更新です。
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次回2023年1月某日編完結!
お楽しみに!




