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2022年10月某日 見える仕事

2022年10月某日編(1/2)

連続エピソードです。

一陣の風と共に立ち上がる火柱。

音も無く燃え広がったそれは、意思を持って蠢く生き物のようだった――



やっと残暑が無くなり過ごしやすくなってきた。今日は車より自転車で通勤したいほど清々しい。折り畳み自転車を外へ出し、少し小さい車輪を心地よく回しながら職場へと向かった。今日の外周マラソンは気持ちよさそうだ。訓練施設の外周を走る、いつもの日課だ。


「おはようございます。」

更衣室に先にいた神崎に挨拶をした。

「おはよう。宮部は聞いた?朝から出動ミーティングらしいぞ。」

挨拶ついでに、神崎から出動の知らせが飛んできた。マラソンはお預け。ため息が漏れそうになるのを必死に飲み込んで会話を続ける。

「マジですか。今日の外周楽しみにしてたのに……。」

苦笑いをしながら神崎も同意してくれた。楽しみにしてた訓練は大体出動で流れる。

華麗なフラグ回収、なんて笑えるほど、嫌な予感は外れない。


着替えをし、朝ミーティングの場所へ向かう。

ミーティングには52班と、水属性の和泉、土属性の森田、光属性の三上が参加していた。

属性の違うヒーローが揃うという事は、今回の相手がそれなりに厄介だという事でもある。

今回の現場を任されているメインヒーローの和泉が話し始める。

「今回のエニグマは火属性と思われます」


和泉の言葉に、思わず心の中でため息をついた。

「今回の出動現場はF市S地区になります。ここは、昔から住んでる人の多い地域であまり人の出入りが無いため、現場についてからの透過が難しいと思われます。」

要約すると、田舎だからよそ者がいるとそれだけで不審がられると……。

「なので、ヒーローの三上さんは今回ずっと可視の状態でいてもらいます。クリーンも数名可視の状態で動いてもらいます。」

車で行く以上、最低でも運転手は可視されていないと、大騒ぎになってしまう。

今回可視化状態で動く人達はずっと何かしらの演技をしていなくてはいけない。演技は少し気が引けるので、是非とも透過グループに入りたい。

「収穫が終わった田んぼの藁や枯草に火を付けた火事が多発しています。メインは私、サブに森田さん。透過は可視状態でも能力が使える三上さんにお願いします。」

火事絡みは、消すのも大変だが、その後の復旧が何より面倒だ。

しかも今回は、田んぼと枯草。燃えやすい条件が揃いすぎている。

要するに、火を抑え込む役と、周囲を固める役、そして表に立つ役。

役割は明快だったが、嫌な予感もはっきりしていた。こういう現場は、決まって想定外が起きる。


今回の班ミーティングには、三上に加わってもらい、現地へ赴く理由のすり合わせなどをする事になった。

村越が皆を見て話し始める。

「今回、可視で動いてもらうのは、阿部、神崎、七尾、宮部の4人とする。」


本日二度目のフラグ回収だ。嫌だと思った役回りだけ、綺麗に拾っている気がする。恨めしい顔が表に出ない様に、必死に表情を作りつつ返事をした。


「今回は、消防から調査を依頼された科学調査機関の職員という設定でお願いする。後ほど4人と三上さんで役割などを話し合ってもらう。」

本当に消防からそんな依頼がされるのか疑問だが、決まっているからには全力で演じ切る。だが、クリーンは俳優志望の人を雇った方が良いかもしれないと常々思う。


「科学調査員なんてできるかしら?」

普段、演技する必要のない三上は戸惑っている。無理もない、本物の俳優だって即席で役を作って演じるなんてしないだろう。

車の中でも打ち合わせしたいが、それぞれの車で行くため無理なのだ。今のうちに話し合わなければ……。


「三上さんは我々の仕事を手伝いに来た大学の准教授とかで、あまり積極的に住民と交流しない様にしてください。」

阿部が三上に新しい設定を加えた。車3台で行くので、1人で来たように見える三上には、違う設定があった方が自然だ。その他にいつも積んでる三角コーンや現場の科学捜査に使えそうな道具はあらかじめ可視化していく手筈となった。


いつもと違い、運転席に乗り込む。いつも運転は、班長・副班長を除くメンバーで年長の男性が担当となっている。52班で言うと、神崎・七尾がそれにあたる。だが、最初から透過されるメンバーは、当然見えていない。同乗する神崎は、村越と打ち合わせをしたいだろうと思い運転に名乗り出た。

もともと運転は好きで、無意識にハンドルを握ると指先の力が抜ける。

こういう時だけは、出動だという事を少し忘れられた。

今回の現場もドライブで何回か通った事のある場所だったから、無理はしていない、むしろ楽しくなっていた。


「やっぱりこの車、車高が高くて運転しやすいですね!」

出動の緊張も薄れ、ウキウキしながら神崎に話しかけてしまった。

「宮部、お前緊張しないの凄いな……。」

半分呆れながら、神崎がこちらを見ている。

「逆に緊張しすぎだ、神崎。」

村越が後部座席から笑って言った。

打ち合わせをしつつ、いつの間にかドライブで見つけたカレー屋の話になり、そのまま現場へ向かった。


現場は民家が点在する山と川に挟まれた田んぼ数か所だった。半径200メートルくらいの中で何度も小火騒ぎがあったらしい。車を止めさせてもらう大きめの公民館の施設の人に話を聞いた。


「昼間の火事だから、煙が大きくなってもなかなか気づけなくてね……」

公民館の職員の人は申し訳なさそうに言った。

どうやらこの辺りでは、枯れ草などを田んぼで燃やすことが多く、火事の発見が遅れているらしい。なので人が火を付けたのか、自然現象なのか分かっていないらしい。


俺たち4人は、お礼を言い車で待機していた、三上と合流した。

透過組はもう捜索を開始している。俺たちも荷物を持ち、一番最近火事が起きた現場へ向かった。


田んぼの中央部分に、真っ黒になった藁が残っている場所を見つけた。俺は先陣を切って田んぼのあぜ道へと入っていった。

稲刈りは終わっているが、まだ暑さが少し残る10月。あぜ道の雑草に足をとられつつ、焦げ跡の近くまでやってきた。まだ燻された様な香りが漂ってくる。調査員ぽく写真撮影から始めて見た。刑事ドラマの真似事だが、本職がいない限りそれっぽく見えるのでドラマも見ていて損はないなと思う。


撮影を終え、田んぼの中に入って焦げた物の確認をしようとした。


「おい。何だ、お前ら。」


70代くらいの日焼けをした大柄な男性に話しかけられた。

すかさず阿部が返答する。

「我々、県の消防局から依頼がありまして、今回の火事が天災か人災か調査するために来ました。こちらの田んぼの持ち主の方ですか?」

阿部が理路整然と説明する横で、俺は一歩だけ引いて相手の表情を観察していた。

こういう場では、言葉より先に空気が動く。

男は一瞬だけ俺たちの足元を見てから、阿部に視線を戻した。

「それなら良いんだ、火を付けに来た輩かと思ったもんでつい……」

「疑うのも分かります。もう何件も火事になっていると聞きましたから。」

阿部の冷静な対応で、男性も冷静になったのか色々話してくれた。

「家の田んぼじゃねえが、近くだからよ、家に火が付いちゃどうしようも無くなっちまうから、稲刈りも終わったし見て回ってた所だ。他の火が出た田んぼも案内するか?」

阿部が俺に目配せした。俺がこの人に同行するらしい。

「ありがとうございます。私はこちらの調査を続けるため、彼をお願いしてもよろしいですか?」

阿部が俺の肩を叩いた。

「よろしくお願いします。」

俺は男性に頭を下げた。男性は手を上げこっちへ来いと手招きしている。俺は頷き男性に付いて行く。


「あの、お名前伺ってもよろしいですか?」

俺は話しかけた。

「向田だ。」

短く男性は答えた。

「向田さん、最近変わった事何かありませんか、どっかの草がよく伸びるとか、どこかだけ暖かいとか……」

俺はエニグマを探るための質問をした。

「ねえな。」

向田はそう言い切って、少しだけ歩調を早めた。

「無いですか……」

落胆しながら後を付いていく。


「……チカチカ光る時がある。」

向田はボソッとこぼした。

「チカチカですか?」

俺は食い付くように質問した。ただの目の不調にしては、出来すぎている。

「大通りを走ってる時は、何もねえが、あぜの所の道を車で走ると片目がチカチカすんだよ。」

向田は川側の目の方を指さした。

「必ず、片側なんですか?」

「おう。」


これだ。クリーンの直感が反応した。

「向田さん、ありがとうございます。それも原因になっている可能性があるので調べてみますね。」

「頼んだよ、兄ちゃん。」

火事があった場所の説明をして向田は家へと戻っていった。


近くに透視状態の和泉を見つけた。

小声で話しかける。

「和泉さん。住民からの証言で、川の方からチカチカした光がすると言ってました。そちらを確認してもらっても良いですか。」

和泉が驚いたようにこちらを見た。俺は意識して目を合わさない。

「わかった。川の方ね。あなたも聞いたからには調査しなさいよ。」

和泉は走って川の方へと向かった。


あぜを歩いていると目がチカッとした。慌ててそちらの方角を見る。

対岸の山の中腹、木々の隙間で何かが反射するように光っていた。

反射というには、規則的すぎる光だった。


その光は――

先ほど向田が戻った家へと向いていた。


次回は 1月 26日 21時更新します。

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2022年10月某日編完結!お楽しみに!

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