2022年9月下旬 正体不明の脅威
2022年9月下旬編 (3/4)
4話連続エピソードの3話目になります。
全体像の見えない敵。不安定な足場。そして視界を奪われる深夜。
全てが不利な状況だった。土砂や流木を押しのける水の音――その中にいる敵の元へ俺たちは向かった。
深夜のぶっつけ本番任務に召集された、ヒーロー5名、クリーン52班。
ミーティングの初めに古賀が言った。
「今回の任務は普段より危険性が跳ね上がります。中途半端な準備で行くと、撃退されるのはエニグマでは無く俺たちになる。いつも以上に準備の時間を取ったので、余念なく準備をしてください。」
全員に緊張が走る。俺も呼吸が早くなった。分かってはいたが、しっかり言われると実感がわいて嫌な汗が出た。皆の緊張をよそに古賀は説明を続ける。
「今回の編成は私古賀が決めさせてもらいました。理由としてはこちらに土属性がいれば金属性のカバーができる。相手が水属性でなかった場合は、水が近くにある環境を利用できる水属性が有利だ。相手が水属性の場合土属性や木属性なら強く出られる。火属性がいれば周りの水分を蒸発させる事も可能です。よってヒーロー編成は古賀・森田・和泉・三条となります。」
聞いていて隙の無い作戦だと思ってしまった。流石は俺たちがあこがれたヒーローと思ってしまう。
「作戦実行は夜なので、透過ヒーローは法月。報道陣や係の職員がいた際の対応力がある52班にクリーンをお願いしたいと思います。」
「「「はい!」」」
52班全員が返事をした。戦闘後よりも戦闘前の準備の良さを買われたらしい。ダムの件もあっての人選だろう。少し誇らしくなった。
今回は挨拶の時間を省いて、作戦会議に時間を充てる。“万全の準備”のためだ。
作戦会議の後俺たちは先に道具の積み込み作業を行った。出発ギリギリまで寝て集中力を高めるために。それほど危険だと何度も何度も頭にも体にも刷り込ませる。
そうして俺たちは仮眠をし、夕食をとる。出動前は腹八分目、集中力と体が重くなりすぎないためだ。飲み物と軽食を車に積み込み出発する。
出動の車内は和気あいあいとしながら行く事が多いが、今回はピリピリしていた。やはり先発班無しじゃ危険度がけた違いに違うのがヒシヒシと伝わってくる。
「古賀さんって人選まで選べるほどの人なんですね……」
運転する七尾が助手席の村越に話しかけた。
確かに、司令部の人間ならともかく、現役ヒーローが人選を決めるのは珍しい。
「あぁ、古賀は本部から兵員長としてスカウト来てるくらいだからな、支部長も人選くらい任せるんじゃないか?」
「「「本部の兵員長!!?」」」
さも当たり前の様に言った村越の言葉に車内全員驚きを露わにする。
「本部の兵員長ってヒーローで一番偉くて強い人じゃないですか!」
西城が悲鳴に似た声を上げる。その声に村越は
「落ち着けって。古賀は史上初生まれつきの発視者で物心ついた時には能力発動してた、超絶エリートだからな。」
また車内がどよめく。
「能力発動ってだいたい、高校入学の再検査で初めてエニグマ触る触初のあとじゃないんですか?」
立石が言う。高校入学時の健康診断再検査で、俺たちは色々な事実を知らされる事が多い。その再検査の時にエニグマの破片を触らされて、触れればヒーロー・クリーン候補、触れなければ研究・一般職の候補となり、受ける大学を1~3校に絞られるのだ。
「あいつの母親研究職で、幼少期に触らせたらしいんだよ。」
規則が緩かった事もあり、親の関係でこの仕事を知った人も一般職にいると俺は聞いた事はあったが……
「ホントに規則緩かったんですね……。」
思わず心の声が漏れた。
「そういう時代だったんだよ。」
村越は歯切れ悪く言った。だが、古賀の話題で盛り上がったおかげで、少しだけ緊張はほぐれた。飯行った時に三条にも教えてやろうと、無事に帰った時の目標ができた。
1時間半ほど車に乗り、現場に到着した。
深夜0時。報道陣も係の職員の姿もないのを確認し安堵した。子供がエニグマを見た時より、大人の方が取り乱して、怪我や命を危険にさらす行動をとったりする。安全と人命第一の現場の人間にとって、一般人がいないのが一番安心材料なのである。
「ヒーロー及び透視を掛けてもらったクリーンは、すぐにエニグマ捜索に当たってくれ。」
古賀が指示を出す。ヒーローたちは動画で見た格子の方を確認しに行った。
俺たちクリーンは法月に透視を掛けてもらい、周辺の土手を捜索し始める。
雨の後なので足元は悪く、視界も暗くてなかなかエニグマが見つからない。動画で見た格子は水面に接しているため、捜索は難航している様だった。
自分の持ち場の捜索が終わったため村越の元へ報告に向かう。村越はヒーロー達と共に格子を確認していた。
「村越班長、担当箇所確認終了しました。」
村越は顔をこちらへ向け、頭を掻きながら言う。
「宮部、動画見た時と今で何か違う事無いか?」
こちらも見つからずお手上げのようだ。
「最後に透明なスライムの様な物が出て来た事くらいしか……」
あの時との違い何てあとは明るさくらいしか思い出せない。そんなの試したのだろう。いつもより少し明るい三条の火がそれを物語っていた。
「あのー……」
後ろからの方から佐々木がおずおずと手をあげた。
「映像見てる時、流れて来た木を取ろうとしたように見えたんです……」
自信なさそうに言っているが、画像を見返すと確かに流木を取ろうとしているように見えた。
「お手柄だ!」
佐々木を見ながら古賀が言った。佐々木は後ろ手にガッツポーズしている。
「よし、俺が上流から木を流して引きずり出す。」
古賀が森田・和泉・三条に言うと、自分の肩から木を生やし、人の腕ほどの木を上流からそっと流した。
古賀の流木が格子の所へ差し掛かると、流れに逆らう透明な水が現れた。
エニグマだ。
古賀は流木を使い、流れに逆らうなるべく遠くまでエニグマを誘い出す。
不自然にならない限界を見極めながらだった。
逆流する透明な水は徐々に流木へ近づいて来る。ゴーっと音を立てて流れる濁流の中を不思議なくらいスルスルとまるで水面を滑るかの様に。
古賀は木を思い切り引っ張った。
それをサポートするように、和泉が濁流を操り、本体と思しき大きな塊を引きずり出す。格子に戻れない様に森田がバリケードをはる。そのバリケードの周りに三条が炎を当てて回り込めない様にしている。
ヒーローの連携によって地上に引きずり出されたそれはまるで、巨大なスライムのようだった。
その巨大さに俺は息を呑んだ。
次回 1月 22日 21時 更新
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次回連続エピソード最終回。
……話はまだまだ続くよ




