2022年9月下旬 休日の緊急出動
2022年9月下旬 編 (1/4)
4話連続エピソードになります。
真夜中にゴーっという音と共にそれは下流へやってきた。
色を持たぬそれは一か所に留まり続ける。慌てふためく人々を嘲笑うかのように……
土曜日の朝、目覚まし時計の変わりのスマホの着信音が鳴り響いた。
発信者は23支部。慌てて電話に応答した。
「おはよう。宮部。」
電話の先には村越がいる。
「おはようございます。緊急出動ですか?」
俺は先手を取って聞いた。
「ああ、エニグマの恐れのある被害が多すぎて、全員で確認作業をする事になってな……」
昨晩通り過ぎた台風がエニグマの活動を活性化させたと思われるらしい。
「了解しました。」
「悪いが、1時間後には集合になるから気を付けて来てくれ。」
「はい。道路状況で送れる場合はまた連絡します。」
電話を切ってため息をついた。特に予定があるわけでは無いが、せっかくの3連休が丸つぶれだ。ニュースを見ながら支度を始める。
後2時間後くらいに食べようと思って買った焼きそばパンに齧りつきながら、制服をリュックに詰める。制服での通勤はできないため、10分前には支部に到着しないと……何て考えながら、テレビを見つめると洪水で冠水した地元の様子が流れて来た。
もっと早く家を出ないと……
残りのパンを一口で食べ、バタバタと支度を進めた。
車での出勤は諦め、自転車で来たのは正解だった。冠水してない道路は渋滞で進みも遅く到底間に合わなかっただろう。急いで漕いできたので、少し時間に余裕がある。食堂でおにぎりでも買っておこうと、食堂の自動販売機に行くと七尾がおにぎりを買っていた。
「おはようございます。七尾さん。」
「おはよう。宮部も朝飯抜きなの?」
軽い調子で質問が飛んできた。
「俺は、朝飯足りなかったから、追い朝飯です。」
「わかる~、職場着くと腹減るんだよな~。」
同意しながらおにぎりを開けて食べ始めた。
「今回の班員の割り振りどうするんだろうな?」
「俺、できれば平地が良いです。」
首を振った七尾はニヤリと笑い。
「俺と宮部と立石は山に配属とみたな。」
うげーっと素直に反応して俺も冗談で反論する。
「七尾さんと立石さんは分かるけど、俺真面目なんで市街地じゃないですか?」
「それを俺に言える時点で山決定なんだよな~。」
2人で笑いながらおにぎりを食べ、召集場所へと急いだ。嫌な予感が的中しないことを祈りながら。
集合場所にチラホラ集まり始めた班員達と話をしていると、村越と阿部が来た。緊急会議で知らされた現状と決まった事を聞かされた。主要道以外は冠水で茶色く濁り、細道には小規模な土砂が流れ込んでいた。52班の派遣先は市街地と市街地にほど近い山の確認となった。
「ほら言った通りだろ。」
七尾が得意げに俺に言った。解せない。ほとんど市街地とはいえ山間部が俺と立石・七尾。予想が的中しすぎて怖い。しかも同行ヒーローがお目付け役では無いが真面目な土属性ヒーローの森田だ。俺たちは川沿いの山が近い地域の被害調査員という設定で川に沿って北上していく。少し気が重くなりながら出発した。
「小川が氾濫して土砂が道に堆積してますね。」
七尾が森田に報告する。森田は少し考え
「土砂が出た所まで行ってみましょう。まだ水が出てますから状況次第ですが。」
俺たちは頷く。人家近くより少し入った所にエニグマは出没しやすいからだ。
「お疲れさん。復旧作業の人かえ?」
民家から出て来たおじいさんに声を掛けられた。おじいさんの対応は俺がする。
「ありがとうございます。我々復旧に当たってどんな機材と人を派遣する場所の調査に来ております。」
「ほんなら、すぐにでも来てくれって言ってくれ。」
おじいさんは笑いながら言った。半分以上本音だろうが、まあこの程度じゃボランティアが来るまでそのままだろう。それを態度に出してはいけない。
「調査の為奥に行きたいんですけど、これより先に民家はありますか?」
またおじいさんは笑う。
「これ以上はオラっち畑しか無いわ。」
「畑の方まで行ってみても良いですか?」
「おー!水がまだ出とるで、きいつけな!」
おじいさんにお礼を言い、皆と合流した。
「民家はありませんが、畑があるのでその辺りまでは見ておいた方が良いかもしれません。」
おじいさんとのやり取りは、聞こえていたと思うが報告した。
「ありがとう。それでは畑の辺りを確認して次の場所へ移りましょう。」
森田が指示を出した。そう、俺らが見て回るのは10キロ近い距離の中の被害が出てる場所全てだ。1か所に割いてられる時間はそれほど無い。
俺たちはエニグマの捜索であって、本当に調査をしに来た調査員では無い。おじいさんに申し訳なく思いながら、エニグマ捜索を再開する。
「ここも異常なしですね。」
車に戻り立石が言う。異常無しに越したことはない。でも、少し刺激が欲しくなってしまうのも正直な心情だ。よくわかる。
七尾が運転席から答える。
「まあ、異常が起こりやすいのは市街地より俺ら山間部の方だからな……」
七尾が運転席で黙り込み、ハンドルを握る指に力が入った。
森田が助手席で頷いてからしゃべり始める。
「今回、水に関するエニグマの発生確率が極めて高いため、山間部に水と相性の良い私が派遣されたので、上層部も何かあるなら我々の所だと読んでいるのでしょうね。」
笑えない冗談だ。胸の奥が、じわりと冷えた。さらっと、一番危険なところに配属された事実を知ることになった。俺じゃなくてもっと経験豊かな人材選んでくれよ……。後部座席で感傷に浸っている暇もなく次の被害場所を発見した。すぐに車を降りて調査に向かう。
次回は 1月 18日 21時に更新します。
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今話は4部作。現実のニュースも織り交ぜた、緊迫した現場になります。
お楽しみに。




