2022年9月中旬 それぞれの同期
久しぶりに、夢を見た。
初めてエニグマに遭遇した、あの幼いころの記憶。
あの時助けてくれた、テレビから飛び出したみたいに格好良かったヒーローは――
目が覚めたあとも、その姿だけが妙に頭から離れなかった。
第2訓練場での、不安定な足場を想定した機材運搬訓練が終わった。
ぬかるんだ地面や岩場を走り回ったせいで、52班の班員は全員ヘトヘトだ。
この後は30分の休憩とストレッチ、その後に施設内ランニング。
それで今日の仕事は終わりの予定――のはずだった。
訓練棟の休憩室で、全員がエアコンに当たりながら水分を取っている。
9月半ばだというのに、外は平気で30度を超える。
正直、エアコンがなければ体調管理どころじゃない。
……まあ、今は中にいても普通に暑いけど。
「そういえば宮部くん。最近、ルーキー君とは仲いいの?」
西城が、思い出したように茶化してきた。
「最近も何も、幼馴染っすよ。俺ら」
めんどくさい予感がして、適当に返す。
「えー!? 幼馴染なの君たち!!」
――火に油だった。
「いつから? 発視はどっちが先? 何の話して飲んでるの?」
「西城さん、質問は一個にしてください」
「みんなからの質問だと思って。さあ!」
俺は小さくため息をついて、観念する。
「発視した6歳の時に、たまたま同じ公園で遊んでて。同時でしたね。その時の事情聴取とかで、親同士も仲良くなって……そこからです」
西城、佐々木、七尾、立石が楽しそうに聞いている。
「飲んでる時は車の話です。最近出たゲームの」
「あれ、めっちゃリアルだよな!」
神崎まで話に加わってきた。
「神崎さんも今度一緒に飲みましょうよ。車仲間大歓迎です」
俺の事より、車の話に食いついてくれたのが正直ありがたい。
「それ、18年前くらいの話じゃないか?」
珍しく、村越が口を開いた。
「今24なんで、そうですね。それがどうかしました?」
一拍置いて、村越が続ける。
「F市のR公園だよな?」
……驚いて、言葉に詰まる。
「え、めっちゃ詳しくないですか、村越さん」
「お前ら保護したの、俺だよ。」
「「「えーーーーーー!!!」」」
休憩室が一気に騒がしくなる。
「待ってください、マジっすか!?」
思わず詰め寄ると、村越は即答した。
「本当。本部初年度で数回目の出動だ。男の子の発視者二人ってのは覚えてる」
――今朝の夢に出てきた、あのヒーローの姿が脳裏をよぎる。
「その時のヒーローって誰ですか? まだ現役ですか?」
今度は俺が質問攻めだ。
「誰って……一緒に仕事してるだろ?」
「……へ?」
頭が追いつかない俺を見て、村越が楽しそうに言った。
「古賀だよ。古賀勇太郎。あれがアイツの初メインだった」
一瞬、世界が静かになる。
俺の頭を撫でてくれた、あの人の顔が、はっきりと重なった。
「……古賀さんだ……」
「思い出したか?お前らが最初に泣きついてきたのは俺だからな!」
若かりし頃の村越の姿も思い出してきた。
「思い出しましたけど、イメージが違い過ぎて……。あの頃もっと、THEヒーローみたいな感じじゃなかったでしたっけ?あと、村越さんは筋肉量が違い過ぎて分かりませんでした。」
「俺らも年取ったんだな~……。」
なんてしみじみ言った村越に対して思わず
「いや、年取ったより“ゴリラになった”の方が正しいのでは……。」
ハッとして口を紡いだが時すでに遅し。覆水盆に返らず。
「宮部も、俺みたいになりたいか!マラソン2週追加な!」
今日はとことんやらかす日だ。泣く泣く追加を受け入れ、三条に連絡を入れる。
――今日、飯行かない?面白い事分かった!――
幼馴染で同期の驚く顔を思い浮かべながら、何とか追加のマラソンを耐え抜いた。
次回 1月 16日 21時に更新します。
よろしくお願いします。




