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2004年某日 幼き記憶

今回は幼少期のお話しです。

響く轟音。今でも耳の奥に残っている音だ。

これは過去の記憶。まだ俺たちが何も知らなかったあの頃の出来事。


ここは長い滑り台が山肌に沿って2台ある公園。歩いて行ける公園も好きだけど、車に揺られて30分かけて行く公園は、保育園年長の俺にとって特別だった。


だけど、秋晴れの気持ちの良い土曜日は滑り台にも長蛇の列ができる。保育園で習ったようにちゃんと列に並ぶ。滑り台の時間より並んでる時間の方が長かった。


「ママー!もう1個上の滑り台に行ってくる!」

滑り台の降り口近くにいる母親に、一声かけて更に上のローラー滑り台を目指す。後から聞いた話だけど、この時の上に行く報告、母親には届いていなかったそうだ。


さらに山の上にある滑り台の乗り口に向かうと、そこは小学生専用みたいになっている。並ぼうとすると、他の子どもの視線が痛い。何とかやり過ごし1回滑ってみたが、また並ぶのは気が引けた。


「さっき並んでる時に、アスレチック見えたもんね。」

独り言を言って、先ほどの乗り口より更に上を目指して立ち入り禁止のロープをくぐって階段を上り始めた。


登るにつれ、階段の木はどんどん朽ち果てて苔が生えている物が増えてくる。ちょっとした冒険をしているみたいで楽しくなってきた。近くに見えた気がしていたアスレチックは、3分ほど登った先にあった。もう滑り台は見えない。

苔で滑りやすくはなっていたけど、丸太を渡ったりして遊ぶには十分。遊具を独り占めできている優越感も相まって、夢中で丸太の上を往復していた。


「それ、楽しい?」

夢中になっていて気が付かなかったが、同じくらいの歳の少しだけ目力の強い男の子がそこに立っていた。

「うん。」

秘密基地を見つけたみたいで楽しくなっていた心は急にしぼんだ。俺は人見知りだから……。


「いっしょに、あそぼう。」

「いいよ。」

後から来た男の子に誘われて一緒に遊んだ。丸太の上で向かい立ってじゃんけん、負けたらまたスタートに戻って丸太を渡り始める。最初は渋々遊んでいたが、楽しくなって夢中になって遊んでいた。


遊び疲れて、男の子が持っていた水筒の中身を少し分けてもらう。冷たい薄味の麦茶だった。


「おれ、いしるって言うんだ。」

「おれは、つきひ。ねえ、もっと上行ってみない。」

俺はまだ続く階段の先が気になり、いしるを誘う。

「いいね!この上おれも知らない!」

俺たちは麓で心配して探し回っている親をよそに、さらに上へと登って行った。


更に登った先の景色はひらけていて、隣に整然と木が植えられた山肌もしっかり見えている。木の間から岩が見えていた。たくさん階段を登って疲れたので、2人とも口数は少なくなっていた。


ゴロゴロガサガサ――

微かに音がした。


「ねえ、岩大きくなってる!」

「ほんと?」

いしるからの指摘に不思議に思いながら返答する。下から伸びてくる岩や石なんてあるかな?と思いながら岩を観察すると、ゴゴゴっという地響きと共に徐々に背が高くなっていた。


「ホントだ!大きくなる岩だ!」

「大発見だね!」

2人で大発見と喜び飛び回っていると様子が変わってきた。


「いしる君、地面揺れてる!」

「地震だ!ちっちゃくならないと!」

2人でしゃがみ込み小さくなった。揺れはどんどん大きくなっていく。


伸びていた岩も更に大きくなり、山肌から4mはあるゴツゴツした2足歩行のトカゲのような怪物が現れた。怖くて声も出ない。いしるの方を見ると、彼もこっちを見て震えていた。

大きく嘶いた怪物は、目玉をぎょろりと動かし、こちらを見た……気がする。

足は相変わらず震えて立てそうにない。


いしるが強く手を握ってきた。相変わらず震えてお互い泣き顔だけど、声は出さずに俺も手を強く握り返した。


しばらくすると、動き出した怪物の足元からシュルシュルと大きな蔓が巻き付いていく。

怪物が変身するのかと思い息を呑んだ。


よく見ると、太く大きな蔓の上を人が走っている。走り抜けた後には、怪物の体に木が生えてきてゴロゴロと大きな音を立てながら体がボロボロになっていく。


「……正義のヒーローだ」

思わず声が漏れた。毎週日曜日に楽しみにしているような、スーパーヒーローのようだった。


「……応援しなくちゃ!」

今度はいしるが言った。ヒーローには応援が不可欠だ。毎週テレビの前でやっている事だから自然と体も動いた。


手を繋いだまま立ち上がり、まだ震える足で少し前へ歩み出た。息をいっぱい吸って大きな声で――


「「がんばれーーーーーー!!!!」」


ヒーローはこちらを見て少し驚いた顔をしたが、手を挙げて答えてくれた。

俺たちは初めてヒーローに自分の声が届いて興奮した。


もう一度応援した途端、ヒーローは宙にふわりと浮いて手を叩く。

怪物の体中から木がメキメキ音を立てながら生えてきて、短い爆発音に似たドカっという音と共に一瞬で全てをボロボロにした。ヒーローの勝ちだ。


ヒーローは蔓に乗って俺たちの所に来てくれた。

「応援ありがと。君たちのおかげで勝てたよ。」

お礼を言ってもらい、俺たちは得意げになった。


「さて、ここからがお約束の時間だ。ヒーローがいるってわかったらサインとか欲しい人で、動けなくて怪獣を倒せなくなっちゃうから、僕を見たのは秘密にできるかな?」

俺たちは大きく頷きそれを見てヒーローは微笑んだ。


「僕たちもヒーローになれますか?」

いしるが聞いた。俺も期待の眼差しを向けた。


「なれるよ。とっびきりのヒーローにね!」

俺たちは嬉しくなって飛び跳ねた。誰かの足音が聞こえる。

ヒーローは慌てて背を向ける。


「次に会う時は、君たちもヒーローになった時だね。それまでは内緒だよ。」

笑顔でヒーローは去っていった。興奮冷めやらない俺たちだったけど、怪物がつぶれた物を改めて見て怖さが戻ってきた。


「子供発見!君たち大丈夫か?怪我は無いか?」

心配してくれる大人を前に俺たちは再び大泣きを始めた。でも決してヒーローの事は言わない。どんなに親に怒られてもこれは絶対に言わない。


そう、ヒーローと俺といしるの3人だけの秘密なのだ――


次回は 1月 14日 21時に更新します。

よろしくお願いします。

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