2022年5月某日 見えない仕事の物語
爆音。
空気を割く衝撃。
紫色の破片が花火みたいに四散して、視界を染めた。
燻す様な臭いを放ちながら煙が立ち込める。
その奥から――今日も怪獣の討伐を完了させた“ヒーロー”たちが堂々と歩み出る。
特撮みたい?
いやいや、全部現実。違うのは“一般人には見えてない”ってところだけだ。
「いやー、今日も見事に粉々にしてくれたね。」
清掃隊長の 村越 渉 が、兵員――通称ヒーローの 三条 偉紀 に声をかけた。労い半分、皮肉半分。
先ほどまで険しい顔をしていた三条は一転爽やかな笑顔を村越に向ける。
「すいません。今日も清掃、お願いします。」
爽やかな笑顔で清掃を依頼される。
これやられると村越も文句が言えない。代わりに俺の肩を叩く。
「宮部、お前同期なんだろ? 嫌味と……あと手加減の仕方教えてこい。」
「嫌ですよ。あいつ性根が真っ直ぐすぎて、古い地図信じて田んぼに落ちた“イノシシの権化”ですよ。無理です、村越さん。諦めてください。」
「イノシシの権化ね……違いねぇな。さ、仕事するか。」
“イノシシの権化” 三条偉紀の同期であり、村越率いる清掃隊第52班所属の俺――
宮部 月陽。通称クリーン。ヒーローたちの戦闘処理、つまり飛び散ったエニグマの後始末が主な仕事だ。
大きな塊なら楽。
今回みたいに粉々なら……はい、地獄コース。
「宮部、一番遠くの破片、探して来れるか?」
「木っ端みじんですけど、やるしかないですね。」
「同期の後始末、よろしく!」
「・・・はい」
1センチ以下の破片を追いかける。これが一番キツい。
取り残せば再発して自然災害になる可能性があり、逆にきれいにしすぎると現場に違和感が出る“見えない戦闘の原状回復”って、ほんと面倒な作業だ。
エニグマも、能力発動中のヒーローも、一般人には見えない。
見えるのは、ヒーローやクリーン、そして関係機関の者だけだ。
稀に、巻き込まれた一般人が“見える側”になることもある。パニックを起こしやすいため、保護は義務づけられている。
「宮部君、透過もう一回かけていいか?」
「お願いします、法月さん。」
クリーンは能力を持たない。
だから現場にいる間、一般人から視認されないよう、透過能力があるヒーローの力を借りる、今回は、法月翔太が同行していた。
透過を施してもらい、再度破片の捜索に戻る。
幸い、今回のエニグマは光沢の強い紫色だったため、色の反射のおかげで破片は追いやすい。
「ここが最終地点です!」
声を上げると、爆心地から縄を抱えた隊員が走ってくる。
距離があるせいで判別しづらかったが、近づくにつれ先輩の西城朱里だと分かった。
「はぁ……無理。全力疾走は……横っ腹……痛い……」
息を切らしながらも文句を言いつつ、縄を渡してくる。
「運動不足っすよ先輩」
「うるさい若人!」
俺が24歳、先輩は28歳で4つしか違わないというツッコミをやっとの思いで飲み込んだ。
西城先輩の息が整った頃、班員12名が均等に並び終え作業開始の号令がかかった。
背中に重い屋外掃除機を背負い、落ち葉や小石を吸い込まないよう細心の注意を払う。仕事に慣れていても、四時間も続けば腰は軋み、手は痺れる。脳内BGMはあの“お化け吸う映画”のテーマソング。そうでもしないと、やってられない。
クリーンはエニグマを目視でき触れることができるが、ヒーローの様な能力が発動しない人たちの部署である。
部署という言い方をするのには理由があって、ヒーローとその業務に携わる関係者は全員国家公務員。歴史を遡れば江戸幕府のお抱え火消しがルーツだとされ、現在はとある省庁の独立部署――特殊災害対策部――となっている。存在自体が機密事項な職場だ。
ヒーロー・クリーンの他に一般事務員や研究・開発者も居る。彼らは、エニグマを目視できるが触る事の出来ない人たちや、能力はあってもそれ以上に研究開発の分野に長けている人たちの部署である。この掃除機だって開発部の血と汗と睡眠不足の結晶なのだ。
やっと作業完了の中心の杭が近づいて来るとあっちでは三条が法月と談笑中。
『余裕があるなら少し手伝えよ……』思わず心の中で愚痴がこぼれる。
「作業終了ー! 撤収! 事務所戻ったら即帰っていいから頑張れよー!」
村越のその言葉でみんなのテンションが跳ね上がる。
撤収作業で車に荷物を積んでいると、三条が駆け寄ってきた。
「お疲れ月陽!今日一緒に飯いかない?」
人懐っこいイノシシとは幼馴染というか腐れ縁に近いものがあり、交友関係が少ない俺の中では仲のいい友人の一人だった。
「偉紀のおごりならいいよ。」
「その言い方の時は月陽も乗り気の時だと思うんだけど、どう?当たってる?」
「はいはい、正解。店は選ばせて。」
「やった!約束だからな!」
その様子を見ていた西城が、にやけ顔で近づいてくる。
「期待のイケメン新人に誘われるなんて、宮部も隅に置けないねぇ」
「先輩も来ます? 近くで見放題ですよ。五千円で。」
「誰が行くか!」
「西城、宮部。反省文、いるか?」
村越の一言に、反射的に声が揃った。
「「必要ありません!」」
冗談では済まないと知っているため、すぐに作業へ戻る。
荷を積み込み、全員が車に乗り込んだところで、特殊災害対策第二十三支部へと帰る。
これが俺たち、ヒーローとクリーンの日常。
見えないものを扱い、見えない戦いの裏側を支える仕事――その、ほんの一幕だ。
5話まで毎日投稿したいと思ってます。




