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【時間停止の復讐者】裏切りの魔法庁を断罪する、クールな少年のリベンジ・クロニクル  作者: ねこあし


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第6話:夜明け前の「真実」と、裏切り者の影

 九条刹那は、師である霧島冴子の隠れ家に戻った後、すぐに床に倒れ込んだ。今回の『時間停止クロノ・ストップ』の連続使用は、彼の魔力回路に決定的な打撃を与えた。全身が鉛のように重い。


 冴子は何も言わず、彼の傍らに座り、回復魔法陣を描き始めた。彼女の『属性支配エレメント・コントロール』は本来、回復には向かないが、それでも彼女は懸命に魔力を注ぎ込む。


「なぜ、そこまで無茶をするの?」


 回復魔法陣が淡い光を放つ中、冴子が静かに尋ねた。


「復讐が、僕の存在理由だからだ。そして、手に入れた。これだ」


 刹那は、胸元に隠していた特務部の極秘電子端末を、震える手で差し出した。


 冴子は端末を一瞥し、その厳格な表情をわずかに歪ませた。


 「……これは、二年前、私が魔法庁を離れる直前に、閲覧がブロックされた報告書よ。これに、あなたの家族の死の『真実』が記されている」


 刹那は苦痛に耐えながら、端末のロックを解除する。画面に映し出されたのは、冷酷なまでに事務的な文章と、専門用語が並んだデータだった。


【最終報告書:極秘指定】

  案件名: コードネーム『オリオンの剣』

 事案 発生日時: (二年前)

 概要: 事故原因は、テロリストによる特定家庭への『属性過負荷攻撃』と断定。

    特務部の対応遅延により被害拡大。

 特記事項: 攻撃を受けた九条邸は、通常あり得ないレベルの

      『対時間魔術防御壁』に覆われていた形跡あり。

      テロリストは、この防御壁を突破するために、外部から過大な魔力を投入した。

      その結果、家族の生命反応が即座に途絶。

 結語: 九条邸の防御壁は、魔法庁上層部の人間が極秘裏に設置したものと推測されるが、

    証拠隠滅済み。

    テロリストの特定は不能。

    本件は『単独の凶悪テロ事件』として処理し、情報公開を凍結する。


「……対時間魔術防御壁?」


  刹那は、報告書の中の一文に釘付けになった。


(なぜ、僕の家に、そんなものが?僕の『時間停止』は、家族の死後、覚醒したはずだ!)


 冴子は静かに目を閉じた。


「あなたが『時間停止』の能力者だと、誰かが知っていたということよ。そして、その『防御壁』は、テロリストが侵入するのを防ぐためではなく、あなたの『時間停止』が、事件の瞬間を止めてしまうのを防ぐために、設置された可能性が高い」


 刹那の頭の中に、冷たい血が上るのを感じた。


「つまり……彼らは、僕が時間を止めても、家族を救えないように、最初から仕組んでいた……」


 それは、単なる復讐の対象ではない。それは、彼の能力そのものに対する、魔法庁からの挑戦状だった。彼の復讐は、単なる組織の不正ではなく、「裏切り者」の存在が根幹にある。


「テロリストの特定は不能とあるが、これは真っ赤な嘘よ。彼らは、実行犯だけでなく、『防御壁』を設置させた黒幕の存在を隠している」


 刹那は端末を握りしめ、歯を食いしばった。彼の内面の静けさが崩れ、復讐の炎が再び、爆発的に燃え上がる。


「黒幕……。僕の家族が死ぬことで、最も利益を得た人間だ」


 翌日の昼休み。雫との約束のカフェ(もちろん五分限定)で、刹那はメロンソーダを飲みながら、黒曜に接触した。彼は店の片隅の席に、いつものように飄々とした態度で座っていた。


「よお、復讐者様。顔色が最悪だね。その報告書、さぞ面白い内容だったんだろう?」


 黒曜は、刹那の苦悩を面白がっているように見える。


「黙れ。テロリストではない。これは、内部の人間による計画的な犯行だ。そして、僕の能力を事前に知っていた『裏切り者』がいる」


 刹那は、感情を抑えきれずに吐き出した。


 黒曜はグラスの氷を弄びながら、皮肉めいた笑みを深めた。


 「当然だ。僕もそう考えていた。特務部のトップの人間、あるいは、それに匹敵する権力者。『時間停止』という存在しないはずの能力を予期し、対処できる人間なんて、限られている」


「その裏切り者の情報を持っているのか?」


「もちろん。だが、タダでは教えられない。君には次の仕事がある」


 黒曜は、刹那に小さなチップを渡した。


「これは、魔法庁が極秘裏に開発を進めている『対時間魔術兵器』の設計図だ。この兵器が完成すれば、君の『時間停止』は、完全に無効化される」


「……!」


「君の次のターゲットは、この兵器開発の責任者であり、二年前の事件を指揮した疑いが濃厚な人物――特務部部長、影山かげやまだ。彼は、魔法庁長官の腹心だよ」


 それは、復讐の対象が、ついに組織の中枢、権力の頂点へと到達したことを意味していた。


「影山。僕の家族の死に関与し、僕の能力を無効化しようとしている……」


「そうだ。しかも、影山は現在、零司の監査チームの目が届かない、魔法庁の極秘研究棟に籠もっている。君は、零司が追う『法』の道とは全く別の、『闇』の道を通らなければならない」


 刹那はチップを強く握りしめた。彼の心の中で、神崎零司の「法による正義」と、自身の「復讐による正義」の道が、明確に分離した。


「分かった。影山を狙う。だが、零司は僕を追ってくるはずだ」


「安心していい。君が影山に接触する時、神崎零司は、君とは全く別の、大きな不正事件を追って、東京から遠く離れた場所にいる手筈になっている。それが、僕の『情報』だ」


 黒曜の瞳の奥で、謀略の光が輝いた。


「復讐は、孤独な旅だ。だが、君は既に、この世界の『真実』という重い荷物を背負ってしまった。さあ、夜明け前の闇の中へ進め、九条刹那」


 刹那は、メロンソーダの甘さと、復讐の真実の苦味を同時に感じながら、席を立った。彼の身体は疲労しているが、心は冷たい炎に満たされていた。


 彼の復讐は、次なる段階――「裏切り者」との直接対決へと移行する。

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