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【時間停止の復讐者】裏切りの魔法庁を断罪する、クールな少年のリベンジ・クロニクル  作者: ねこあし


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第4話:師のレッスンと、時間魔術の真価

 監査部長・岩永の突然の失脚は、魔法庁内に静かな波紋を広げた。不正の証拠は零司率いる「特別監査チーム」によって迅速に回収され、岩永は法の裁きを受けることになった。刹那の復讐は、零司の「法」を内側から利用する、見事な一歩だった。


 しかし、その成功の代償として、九条刹那の身体は限界を迎えていた。魔力暴走寸前の状態だ。


 その夜、刹那は師である霧島冴子が隠れ家としている、郊外の廃墟となった研究施設にいた。周囲には誰もいない、魔力感知から完全に切り離された場所だ。


「無茶をしたわね、刹那」


 冴子は、彼の荒い呼吸と、皮膚から漏れる微弱な魔力の乱れを一瞥し、冷たく言い放った。彼女の目は、厳格な師のものであり、同時に、かつての腐敗を許さなかった幹部の鋭さを帯びている。


「神崎零司の追跡を振り切るには、あれが最善だった。それに、彼に岩永を裁かせることが、次の復讐の足掛かりになる」

 

  刹那はそう答えるが、その声には疲労が滲んでいた。


「あなたはいつも『最善』を選ぶけれど、その度にあなたの身体が壊れていくのよ。あなたの能力は『時間停止』。命と引き換えに、神の領域を覗く代償がある」


 冴子はそう言いながら、小さな魔力回復ポーションを刹那に手渡した。彼女の『属性支配エレメント・コントロール』は万能型だが、回復魔法は専門外だ。このポーションは、彼女が苦心して調合したものだろう。


「この力を使わなければ、復讐は遂げられない」 刹那はポーションを一気に飲み干した。


「いいえ。あなたは、力の使い方を根本的に間違えている」 冴子は静かに言った。


「『時間停止』の真価は、停止した時間の中で何をするかではない。それは、ただの力の行使。真価は、停止の解除後、世界にどのような影響を及ぼすかよ」


 刹那は黙って師の言葉に耳を傾けた。


「思い出して。二年前、あなたが目の当たりにした悲劇。あの時、あなたは『時間停止』を使い、何もできなかった」


(回想:二年前の夜)

 炎に包まれた自宅。刹那は初めて『時間停止』を発動した。時間は止まった。炎も止まった。しかし、彼の家族は、既に魔法の閃光によって命を奪われていた。彼は停止した時間の中で、ただ、凍りついた炎と、停止した家族の亡骸を、呆然と見つめることしかできなかった……。

(回想 終)


「力は、過去を変えられない」 刹那は、絞り出すように言った。


「そうよ。だからこそ、あなたは『停止した時間』を、『未来を変えるための準備期間』として使わなければならない。ただの証拠収集ではない。神崎零司が、あなたのリークした不正情報を元に動く。それはつまり……」


 冴子の鋭い目が、刹那の目を射抜いた。


「神崎零司の行動パターンを、あなたは『時間停止』を使って予測し、操作できるようになるということよ」


 刹那の瞳に、新たな理解の光が宿った。


「僕の復讐は、零司という『法』の壁を、内側から切り崩す必要がある。そのためには、彼の『次の一手』を知らなければならない……」


「ええ。あなたは今、一歩目を踏み出した。次は、零司が追うであろう、二年前の事件の核心に触れることよ」


 冴子は刹那の肩に手を置いた。その手は、冷たいが、確かな重みがあった。


 翌日、学校。刹那は図書館で、次のターゲットに関する情報を集めていた。魔法庁の中枢である「特務部」の幹部の一人、城之内じょうのうちだ。彼は二年前の事件当時の特務部長の右腕であり、事件に深く関与していると見られている。


「よお、復讐者様」


 突然、背後から声をかけられた。振り返ると、黒いパーカーの黒曜が、棚の影から現れた。彼はどこか楽しそうだ。


「監査部長の件、見事だったよ。神崎零司の『法』という名の鎖を使って、彼を内部から切断するとは。クールだねぇ」


「あんたのおかげだ」


「謙遜するな。僕の情報はあくまでツールだ。使いこなしたのは君だ」


 黒曜は刹那の隣に寄り添い、小声で言った。


「さて、監査部長が失脚した今、魔法庁は大きく動く。特に、零司の特別監査チームは、次なる不正の根源、つまり特務部に目を向けるだろう」


 黒曜は、刹那の集めている資料を一瞥した。


「特務部幹部の城之内。彼を狙うのは正解だが、君が直接手を出すのは危険すぎる。彼は、零司に次ぐ強大な『防御魔術師』だ。彼の金庫を破ることは、時間停止をもってしても、あの時の金庫の比じゃない」


「では、どうする」


 刹那は感情を押し殺した声で尋ねた。


「簡単さ。君は、自分の『復讐の道』と、零司の『法の道』が、一時的に重なる瞬間を、『時間停止』で見つけ出せばいい」


 黒曜はそう言い残すと、刹那の手に、折りたたまれた一枚の紙切れを握らせた。


「これは、城之内が愛用するカフェの、明日の『清掃ルート』と『監視カメラの停止時間』だよ。神崎零司は、この情報を知る誰かから、城之内が不正に会合を持つという情報を得るだろう。君は、その『会合』の直後を狙えばいい」


 刹那は紙切れを開き、そこに記された、精密な時間と動線に目を凝らした。


(零司が先手を打つ。そして、僕がその後の空白の数秒を奪う)


 それは、師が説いた「停止の解除後、世界にどのような影響を及ぼすか」を極限まで突き詰めた、時間操作による未来の改変だった。


「僕の復讐は、君たちの『正義』が引き起こした悲劇の上に成り立つ。だからこそ、君たちの『正義』が、僕の復讐の踏み台となる」


 刹那は、図書館の静寂の中で、冷たく、そして激しい決意を胸に固めた。彼の視界に映る世界は、もう単なる日常ではない。それは、彼が『時間停止』で編集し、復讐の物語を紡ぐための、巨大な「凍結されたフィルム」なのだ。

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