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【時間停止の復讐者】裏切りの魔法庁を断罪する、クールな少年のリベンジ・クロニクル  作者: ねこあし


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第3話:再開のメロンソーダと、監査部長の「透明な悪意」

 翌朝、九条刹那の身体は重かった。前夜の『時間停止クロノ・ストップ』の酷使と、神崎零司の『空間断裂ディメンション・スライス』からの緊急回避が、全身の魔力回路に深刻な負担をかけている。学校の屋上、人気のない場所で、彼は冷たい風を受けながら呼吸を整えていた。


(零司。あいつは本当に、法を信仰している)


 零司の瞳に宿っていたのは、私的な感情ではなく、腐敗を許さない「秩序」そのものだった。その冷徹な正義こそが、刹那の感情的な復讐心を最も苦しめる壁となる。


「あ、刹那くん!やっぱりここにいたんだ!」


 またしても、予想外の乱入者。一之瀬雫が、二つ折りの紙袋を手に現れた。


「……何だ、その不審な袋は」


 刹那は思わず警戒の視線を送る。


「不審じゃないよ!私特製のお弁当。昨日、五分じゃメロンソーダを飲み干せなかったお詫び!ちゃんと食べなきゃ、また倒れちゃうよ」


 雫はそう言って、躊躇なく彼の隣に座り、紙袋から丁寧に包まれた弁当箱を取り出した。その中には、色鮮やかなタマゴ焼きやウィンナーが詰め込まれている。彼女の持つ『回復魔術ハイ・ヒール』の温かさが、そのまま具現化したような弁当だ。


「……僕が倒れると、君に何か不都合があるのか」


「あるよ!私が作ったご飯を食べてくれないと、不都合」


  彼女は刹那の皮肉めいた問いを、屈託のない笑顔で受け流す。


(皮肉が通じない。この女は、僕の防御魔法を無効化する)


 刹那はそう心の中で毒づきながら、タマゴ焼きを口に運んだ。甘く、どこか懐かしい味だった。


「ねえ、刹那くん。最近、なんか顔色悪いよ。隈もできてる。私、『体調回復リフレッシュ』の魔法なら使えるけど……」


 雫が手をかざそうとするのを、刹那はすっと避けた。


「必要ない。回復魔術は、使うとすぐに魔力庁に感知される。僕の体調は、僕自身で管理する」


 刹那はあくまで冷静に、しかし鋭く拒絶した。雫の存在は、彼の唯一の安息であり、同時に、復讐という業から最も遠ざけたい、守るべき存在でもあった。彼女が巻き込まれることは、断じて許されない。


「そっか……。ごめんね。でも、困ったら言ってね。私、何でも治すから」


「何でも、か。……腐敗した組織の病気も治せるか?」


 刹那の質問に、雫は箸を止めた。


「……それは、治せないよ。それはね、魔法じゃなくて、心の病気だから」


 雫の言葉は、彼の復讐のテーマそのものを突いていた。彼は黙って弁当の残りを食べ始めた。沈黙の中、彼は今日、ターゲットとする人物を思い描く。


 次のターゲットは、魔法庁監査部長の岩永いわなが


 表向きは組織内の不正を監視する立役者だが、裏では、魔法庁の腐敗した情報を握り、それを盾に幹部たちから賄賂を取っている、「透明な悪意」の体現者だ。刹那の家族の事件に関する極秘資料も、彼の金庫に眠っている可能性が高い。


 夜、東京の摩天楼を見下ろす高級タワーマンション。岩永監査部長の自宅兼金庫室である。


(ここだ。黒曜の情報によれば、岩永は今、自宅で秘書と密会中)


 刹那はマンションの最上階のテラスに音もなく降り立った。彼は既に、師である冴子から教わった『気配遮断アウェアネス・オフ』の魔法で自身の存在感を霧散させている。


 窓ガラス越しに、室内が見える。岩永は秘書にワインを注ぎながら、下卑た笑みを浮かべていた。その顔に、「監査部長」としての矜持は微塵もない。


(あの男を断罪する。そして、家族の死の真実を掴む)


 彼の目的は、岩永を殺害することではない。証拠を奪い、彼の持つ「透明な悪意」を白日の下に晒すことだ。


 刹那は右手を静かに、テラスの強化ガラスにかざした。


「――『時間停止クロノ・ストップ』」


 世界が再び、凍結する。


 岩永が秘書の肩を抱こうとする動き、ワイングラスから滴り落ちる液体の軌跡、全てが止まった。周囲のノイズが消え、刹那の耳に聞こえるのは、自分の鼓動と、僅かに魔力の粒子が振動する音だけ。


「五分。今度は、五分で終わらせる」


 彼は魔法庁から支給された、時間を停止している世界でのみ作用する特殊な「魔力錠前解除アンロック」のツールを取り出し、室内へと侵入した。


 目的の金庫室は、岩永の寝室の隠し扉の奥。刹那は躊躇なく進む。しかし、金庫室のドアを見た瞬間、彼の冷静な顔に、わずかな焦りが浮かんだ。


(これは……零司の魔力反応か?)


 金庫の錠前には、特殊な空間防御魔法が施されている。それは、神崎零司の『空間断裂』と類似した、高度な魔力による術式だった。空間の歪みを利用し、金庫に触れた瞬間に警報が作動する仕組みだ。


「警戒されていたか……。それとも、零司が個人的に施した、法の守りか」


 時間停止状態にあるため、警報が作動することはない。しかし、この防御を解除するには、刹那の『時間停止』能力をもってしても、時間を要する。


 刹那は、腕時計を見る。既に三分が経過していた。残り二分。彼の心臓が、限界を超えた負荷に耐えかねて、激しく警告を発する。


(くそっ、間に合わない……!)


 焦燥感がクールな仮面を剥がしにかかる。その瞬間、彼の脳裏に、師・霧島冴子の言葉がこだました。


「時間魔術は、力の行使だけではない。認識の歪曲も含まれる」


 刹那は、自身の復讐のテーマである「正義と復讐」を自問した。今、彼が金庫を破れば、それは「復讐」の達成にはなるが、零司の「秩序」に真っ向から挑戦することになる。


 彼はツールを金庫から離し、代わりに、ポケットに忍ばせていた小型の通信魔導具を取り出した。


「僕の目的は、岩永の破滅。証拠の入手だけじゃない」


 刹那は静止した岩永の顔を直視し、魔導具を起動した。


(この魔導具は、通信を一時的に外部にリークさせ、岩永の隠された私的な通信履歴を、第三者に送信する。対象は……零司、君だ)


 彼は、岩永が過去に行った、零細な不正や脱税の記録、そして愛人への高額な送金記録など、「法」に違反する情報を抽出し、神崎零司の魔法庁公式アドレスに、匿名でリークした。


「零司。君の信仰する法が、貴方の同僚を断罪する。これが、僕の復讐のやり方だ」


 刹那は金庫には手を出さず、情報リークのみを完了させた。


 残り四分五〇秒。彼はテラスへと引き返す。


「――解除リスタート


 世界が動き出す。岩永は秘書の肩に手をかけようとした状態で、一瞬きょとんとした表情を浮かべた。


「どうしたんですか、部長?」


 岩永は一瞬の間の違和感を無視し、笑みを再開する。その時、彼のポケットのスマートフォンが、けたたましい警告音を発した。魔法庁専用の、緊急監査警告だ。


「なんだ、これは!?」


 岩永が画面を見ると、そこには、自身の極秘の不正行為を示すデータが、どこからともなく送られてきている通知が表示されていた。


「バ、馬鹿な!?なぜ、これが……!」


 刹那は既にテラスの外、夜風の中にいる。彼は眼下のタワーマンションを見下ろしながら、小さく冷たい笑みを浮かべた。


(神崎零司。君の正義に、君の組織の悪が裁かれるのを見るがいい)


 彼の復讐は、単なる暴力ではない。それは、この世界が信じる「正義の裏側」を暴き、その信者を内側から破壊する、冷酷な情報戦だった。


 そして、その夜、魔法庁内部の掲示板には、監査部長・岩永の突然の「病気休暇」と、神崎零司が率いる「特別監査チーム」発足のニュースが、静かに掲載されたのだった。

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