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転生悪女は甘い夢を見る〜星降る恋のメモリアと破滅のレシピ〜  作者: うさぎのうさぎ
第一章◌夢見る月と、はじまりの空

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Scene3:王子と「魅了」のティータイム

 



 国王は笑顔で彼を迎えた。


「おお、エルリック。ちょうどよかった!公務ご苦労。こちらへ来なさい。ルナ嬢を紹介しよう。」


 第二王子・エルリック=ブランフォード。


 エルリックの視線は国王からルナへと移った。

 ルナの姿を一目見たその瞬間、彼の黒曜石の瞳には一瞬だけ鋭い光が宿る。

 そして僅かにも揺らがせることなく、瞳の奥で全てを理解したように見つめていた。

 アルドリック国王は、息子の登場に嬉しそうに言う。


「ルナ嬢、紹介しよう。私の次男エルリックだ。そしてエルリック、こちらは……君たちも幼い頃に少し遊んだ、亡き友人の孫娘、ルナ嬢だ。お菓子屋を開く健気な夢追い人だよ」


 エルリックは優雅な歩みでルナに近づいた。

 一瞬、ルナの瞳に自分の視線を合わせ、彼の口元がわずかに魅惑的な笑みの形に引き上げられた。

 その黒い瞳には、女性をドキリと惹きつける"魅了"の力が自然と宿っている。


「……お久しぶりです、ルナ嬢」


 低い、響きのある声がルナに届く。


「公務を切り上げ、急いで参りました。お祖父様には生前、父がお世話になりました。そしてルナ嬢が私どもの城に来てくださったこと、心より光栄に思います」


 エルリックはそう言うと、ルナの手を取り、まるで古の騎士のように、恭しくその甲にキスを落とした。

 その仕草はあまりにも洗練され、そしてあまりにも色気が強く、ルナの心臓を激しく打ち鳴らした。


(これがエルリック王子……?幼い頃の、あの男の子だなんて、信じられない……!)


 ルナは、ただただ驚いたように彼を見つめていた。

 緊張でうまく言葉が出てこない。

 エルリックはルナの手を離すと、ルナの顔を優しく覗き込み、囁くような声で言う。


「ルナ嬢。もしよろしければ……幼い頃のように、私のことは『エル』と、気兼ねなく呼んでいただけますか?」


 その魅了的な眼差しには、強い意志が隠されていたのだが、ルナは気づいていなかった。


 そしてその光景を、国王の背後に控えて見ていた執事……ウィンは一瞬だけ、王子の黒曜石の瞳に込められた"力"を察知し、その完璧なポーカーフェイスの裏側で、眉をひそめた。


(殿下は、ルナ様を一瞬で認識された。そして、あの"魅了"を……。しかしルナ様には効いていない。やはり、ルナ様は……)


 ウィンは、ルナがエルリックの"魔力"に屈しないこと、そして、彼らが再会したことを、冷静に、しかし複雑な思いで観察していた。

 この二人の関係が今後の王家、そして彼自身の運命を大きく左右するであろうことを、既に悟っていたのかもしれない。


 そんなことも知らずに、再会への喜びと緊張を浮かべていたルナは、席を立ち上がった。

 ──そして、


「エルリック王子……エル、お久しぶりです!」


 満面の笑みを浮かべた彼女の心には、幼い頃からの親愛の情が溢れ出し、気づけば衝動的にエルリックに一歩踏み出していた。

 そして次には、感激と再会の喜びから、貴族のしきたりなど全て忘れ、そのスマートな体に抱きついてしまっていた。


「また会えて、本当に嬉しい!」


 ルナの行動は、王室のサンルームでの光景としてはあまりに異例で予想外のものだった。

 国王とのティータイムの優雅な空間に突然、一般人女性から王子への抱擁という、前代未聞の行動だ。


 エルリックは予期せぬルナの行動に、一瞬で全身が硬直する。

 その漆黒の瞳に"魅了の力"を込めながらルナの反応を待っていたのだが……。

 ルナは彼の魔力を受け付けないどころか、予測不可能な行動で応じてきたため、内心で激しく戸惑った。


(……彼女に、この力は効かないのか?)


 彼の計画では、ルナを魅了し、優位な立場から再会を導くはずだった。

 しかし今、彼のそばには昔と変わらない素朴な温もりのルナがいる。


 至近距離で髪や肌からふわっ…と漂う、バターと砂糖の混じった甘いお菓子の香りに、彼の理性は乱された。

 エルリックが幼い頃から陰でひっそりとルナを見てきた時からの、懐かしい香りだった。


「っ……」


 エルリックは冷静な王子の仮面の下で、予想外の形で、相手に逆に魅了されてしまったことを自覚した。

 "魅了"を使ったのは自分のほうなのに、ルナの素直さと香りに心が激しく揺さぶられている。

 まるで初めて魔力を発動させた時のような、胸の高鳴りだ。


 彼は驚きを隠すように、すぐにルナの背中に腕を回し、抱擁を受け入れた。


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