Prologue:王国「ブランフォード」の夜明け
石畳が朝露に濡れ、しっとりとした空気に包まれた『ブランフォード王国』の首都。
夜明け前の紫とピンクのグラデーションが空を覆い、遠くに見える壮麗な『ブランフォード城』は、月明かりと内部の光をわずかに反射させて佇んでいた。
静寂のなか、街の一角。
昔ながらの小さな石造りの家屋に、ポツンと一つだけ暖かい光が灯っている。
バターと砂糖、そして焼き立てのパンの香りで満たされた古い家屋の台所。
ルナは、亡き祖父が遺したこの家で、洋菓子店を開く準備に追われていた。
(よし……『星屑フィナンシェ』の試作はこれで完璧っ!)
ルナはオーブンから取り出した小さな焼き菓子を、満足げに見つめた。
幼い頃からお菓子や、お菓子作りが大好きだった。
そして周りにも、"ドルチェ"が語源の『ルチェ』という愛称で自分のことを呼ばせていたのだが、そんな頃からの夢だ。
あの頃の自分に、胸を張って見せられる洋菓子店にしたい。
改装作業も大詰め。
外壁のペンキを塗り直し、古い看板の文字を磨き、何よりも祖父との思い出が詰まったこの場所を新しい夢で満たそうとしていた。
*
ふと、ルナは台所の隅の木箱に視線をやった。
中には、幼い頃に城へ招待された際の記念品や、二人の王子──『ベオウルフ第一王子殿下』、その弟『エルリック第二王子殿下』──との文通の手紙の束が入っている。
「ベオとエル……懐かしいな」
甘い香りに包まれながら、ルナは遠い昔のキラキラとした思い出に浸った。
あの時の彼らは自分と同じく、ただの子供だと思っていた。
やがて自分が大人になってからは、パティシエとしての修行に出るために国を出て、会うことがなくなってしまったのだけれど。
祖父の訃報を知ってからも。
二人からの文通には、たくさん勇気づけられてきた。
ルナは首を振って、過去の感傷を振り払った。今は、目の前の夢に集中する時だ。
「よし、次は『白百合のシュガーパイ』のレシピの見直し!」
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