第3話:希望の祭り、そして新たな波乱
ぷるぷるの進化が引き起こした奇跡は、瞬く間にゲーム内に広まり、システムから緊急告知が流れた。
『緊急告知:プレイヤー「アイカ」が特殊スキル「感情の奇跡」を発動!』
『期間限定イベント「スライム・フェスティバル」が開始されます!』
街は、虹色の光とプレイヤーたちの笑顔で溢れかえった。空には、七色の光を放つ小さなスライムたちが無数に舞い、街路はカラフルな提灯で飾られている。ぷるぷるが発した「希望」の光が、人々の心を解放し、この奇跡的な祭りを創り出したのだ。
「すごいね、彩花!」
ギルドの片隅で、彩花は悠真からのメッセージを読んでいた。
『お前、なんか凄いやつと組んでるらしいじゃん!』
「うん! レオンさんっていう、優しい人だよ!」
彩花は嬉しそうに返信した。レオンと出会ってから、自分の感情が誰かの役に立つと知ってから、彼女の世界は少しずつ色を変えていく。不安や孤独よりも、希望や感謝の気持ちが、彩花の心を占めるようになっていた。
レオンはそんな彩花の隣で、黙って空を見上げていた。
「君の感情は、本当に面白いな」
レオンの言葉に、彩花は顔を赤らめた。自分の内側にある感情が、彼にはすべて見透かされているような気がした。
「恥ずかしいです……」
「恥じる必要はない。それは、素晴らしい力だ」
レオンはそう言うと、静かに彩花に視線を戻した。彼の瞳は、フードの奥で微かに光っている。
「君の希望は、俺の闇魔法を強化しない。だが、俺は知っている。その光は、俺の闇とは違う、別の力を持っていることを」
彼はそう言って、彩花の頭にそっと手を置いた。
その瞬間、ぷるぷるが二人の間を飛び回り、楽しそうに「ぷるる!」と鳴いた。ぷるぷるは、レオンの隣にいる彩花の幸福な感情を吸い込み、その体を虹色に輝かせている。それは、二人の間に流れる穏やかで温かい空気を映し出しているようだった。
一方、ミカは自室のモニターの前で、荒れた画面を睨んでいた。
『最弱テイマー、奇跡のスキル発動!』
『炎の魔女、炎上!』
『最弱スライム、VTuberを超えた人気!』
彩花とぷるぷるの話題で持ちきりのSNSを見て、ミカの唇は憎しみに歪む。
(ふざけないでよ……! なんで、あんなポンコツが……!)
ミカは、過去の苦い記憶を思い出していた。転校を繰り返したミカは、どんな場所でも「完璧な自分」を演じることで、居場所を築いてきた。クラスの中心で笑顔を振りまき、勉強も運動も人並み以上にこなし、誰からも好かれる「ミカ」という理想の自分を作り上げてきた。
しかし、それは常に危ういものだった。少しでも弱みを見せれば、すぐに居場所を失う。だから彼女は、VRの世界でも必死の努力でトッププレイヤーとなり、「炎の魔女ミカ」として不動の人気を手に入れた。
だが、彩花のような「特別な才能」を持つ者に、その必死の努力で手に入れた人気は、一瞬にして奪われようとしていた。
(ずるい……ずるいずるいずるい! 何もしないで、どうしてそんなものを手に入れられるのよ!)
ミカの心の闇は、嫉妬と焦燥で渦を巻いていく。自分を嘲笑う人々の声が、幻聴のように聞こえてくる。
『どうせお前は、努力しても報われない』
『いつか、また一人になる』
ミカは、自らの心の闇を「悲哀の魔王」として具現化することを決意した。それは、人々に絶望を振りまくことで、彩花の能力を危険なものだと証明しようとする、悪意に満ちた計画だった。
フェスティバルの熱狂が最高潮に達したその時、システムから新たなアナウンスが響いた。
『ミカが、レイドボス「悲哀の魔王」を召喚しました!』
「え……?」
夜空を彩っていた虹色のスライムが、不気味な黒い影に飲み込まれていく。祭りの終わりを告げるように、ミカの、悪意に満ちた声が響き渡った。
「さあ、お祭りは終わり。次は……本当の地獄を見せてあげる」




