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第2話:感情暴走とぷるぷるの奇跡

 レオンとパーティを組むことになった彩花は、次のクエストの相談のため、ギルドへと向かっていた。ギルドの賑わいは、彩花の内気な心にも少しずつ活気を与えていく。


「レオンさん、私、まだ何もできなくて……。足手まといになっちゃいませんか?」


 彩花は不安げに尋ねた。


「気にするな。お前の感情が、俺の魔法を強化する。それだけで十分だ」


 レオンは歩みを止めず、淡々と言葉を返す。その口調はクールだが、彩花を安心させるような優しさが含まれていた。


「お前は、自分の感情をコントロールすることに慣れていない。だから、時々こうして俺に助けてもらう必要がある。それだけだ」


 レオンはそう言って、彩花の頭に軽く触れた。彼の指先から伝わる温かさに、彩花の心は温かくなる。


 その時、彩花のスマホが振動した。見ると、幼馴染の悠真からのメッセージだった。


『大丈夫か? 街で最弱テイマーのこと、変な噂になってるみたいだけど……。何かあったら連絡くれよ!』


 彩花は、自分のことを気にかけてくれる悠真の優しさに、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。


 その時、目の前に、華やかな装備に身を包んだミカが現れた。


「あら、まだ一緒にいたの? 最弱スライムテイマー」


 ミカはわざとらしいほど大きな声でそう言って、彩花を一瞥した後、レオンに媚びた視線を送る。


「レオンさん、そんな弱虫と組んでないで、私のギルドに来ればいいのに。私なら、もっと強力な魔法をサポートできますよ?」


 ミカの言葉は、ガラスの破片のように彩花の心に突き刺さった。ミカの完璧な姿、自信に満ちた言葉。それらと比べて、何もできない自分。


(やっぱり、私なんて……)


 ミカは、モニターの向こう側にいる何万人もの視聴者に向けて、不敵な笑みを浮かべていた。


(この子を利用すれば、私の人気はもっと不動のものになるわ。皆、自分の「強さ」を再確認したいはず。そして、私に劣等感を抱く存在を嘲笑したいのよ)


 ミカは、かつて自分も「最弱」と呼ばれ、誰からも見向きもされなかった過去がある。だからこそ、彩花のような「弱さ」を許すことができなかった。自分と同じ道を辿ることを許さず、彼女を徹底的に叩き潰すことで、自分自身の存在意義を再確認しようとしていた。


『悲しみ、劣等感、絶望度が限界値に到達!』


 彩花の視界に、禍々しい赤文字が表示される。その瞬間、街の空には轟音とともに黒い雨雲が湧き始め、一瞬で街を覆い尽くした。


「な、なにこれ!?」


 周りのプレイヤーたちがざわめき始める。黒い雨粒が地面に落ちると、ジュッと音を立てて消滅していく。それは、ただの雨ではないと直感的にわかった。


「……お前の絶望が、街の天候を変えたのか」


 レオンが驚きと警戒の表情を浮かべた。彩花は、自分の感情が引き起こした事態に恐怖し、その場に立ち尽くしてしまう。自分の心が、こんなにも危険なものだったなんて。


 ミカはモニターに向き直り、ニヤリと笑う。


「みんなー! 見てくれたかな!? 最弱スライムテイマーの能力だよ! こんなポンコツ、このゲームにいらないよね!?」


 ミカの煽りに乗せられたプレイヤーたちが、彩花に罵倒の言葉を浴びせ始めた。


『最弱テイマーはさっさと辞めろ!』

『街をめちゃくちゃにしやがって!』


 彩花は、無数の罵倒に晒され、全身が震えた。視界の端で、ぷるぷるが悲しげに体を震わせているのが見えた。


「ひっ……!」


 その時、足元のぷるぷるが、震える彩花の足に体を擦り寄せた。


「ぷるるる……」


 小さなスライムが発する、か細い鳴き声。


(ぷるぷる……)


 黒い雨の中、ぷるぷるは小さな体を震わせて、彩花を見つめていた。その瞳は、まるで「大丈夫だよ」と語りかけているかのようだった。彩花は、この小さな命を守らなければ、と思った。


(ダメだ、私がこんなんじゃ、ぷるぷるまで……!)


 彩花は、恐怖に震える手を伸ばし、ぷるぷるをそっと抱きしめた。彼女の心の中で、誰かのために強くなりたいという、初めての強い意志が芽生えた。


(負けない! 私は、もう逃げない……!)


 その瞬間、彩花の心に希望の光が灯った。それは、誰かを傷つけるための絶望ではなく、誰かを守るための強い決意だった。


『希望度が上昇! 優しさが限界値に到達!』


 ぷるぷるの体が、淡い光を放ち始める。その光は、彩花の抱きしめる腕の中で、どんどん強くなっていった。


『テイム対象が「エモスライム・ワンダー」に進化しました!』

『特殊スキル「感情の奇跡」を獲得しました!』


 ぷるぷるの光が、空に広がり、黒い雨雲を浄化していく。その光は、黒い雨に触れると、まるで浄化されるかのように温かい粒子となり、街に降り注いだ。すると、空には七色の虹が架かり、街に温かい光が降り注いだ。黒い雨に侵されていた地面は、輝く草花に覆われていく。


「すごい……! 虹だ!」


「最弱テイマーが、街を救ったぞ!」


 罵倒の言葉は、歓声へと変わる。


 彩花は、自分の感情が街を救った奇跡に、驚きと安堵の涙を流した。レオンは、その中で一番輝いている彩花を、愛おしそうに見つめていた。


「すごいな、アイカ……」


 彼の静かな声が、彩花の耳に届く。


(私の感情は、危険なものだけじゃない。誰かの希望になれる力なんだ……)


 ぷるぷるの進化イベントは、瞬く間にゲーム内に広まり、システムから緊急告知が流れた。


『緊急告知:プレイヤー「アイカ」が特殊スキル「感情の奇跡」を発動!』

『期間限定イベント「スライム・フェスティバル」が開始されます!』


 街は、虹色の光とプレイヤーたちの笑顔で溢れかえった。彩花は、自分の感情が「誰かを幸せにする力」であると確信し、今後の冒険への決意を新たにした。

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