9話 Rewrite Festival -Opening Match-
物語が、またひとつ転機を迎えようとしています。
第9話では、ましろと陽菜が、これまで抱えていた疑問に対する答えを、一歩ずつ自らの手で求め始めます。
今までの「知らないこと」を、少しずつ理解し始めるその過程は、決して軽いものではありません。
むしろ、そこには不安と覚悟が静かに同居しているように感じます。
それぞれが心に抱えていた「選択」の瞬間が、やがて二人の間に差し迫り、次第に不可避なものとなっていきます。
しかし、それがどのような結末を迎えるかは、まだ誰にもわかりません。
新たな一歩を踏み出す彼女たちに、どうか静かに寄り添いながら、その行く先を見守っていただければと思います。
イベント用の特設フィールドに転送された瞬間、ましろと陽菜はそのスケールに息を呑んだ。
「すっご……これ、ほんとにゲームの中!?」
遥か遠くに浮かぶ島々。空を泳ぐように回る時計の歯車。ステージの上には、巨大なホログラムが浮かんでいる。
そこに映るのは、全プレイヤーの「ペアランキング」。
現在1位――《Zero Gravity》。
ましろたち《Rewrite Hearts》は、まだ圏外。
「ここからが、本番ってわけね」
「うん。負けたくない……! でも、ちょっとドキドキしてきたかも」
そこへ、主催者を名乗るアナウンスがフィールドに響き渡った。
《Rewrite Festivalへようこそ。最強ペアの称号は、ただひとつ》
《第一試合:即時抽選マッチ開始》
ホログラムに8つのペアがランダムに表示される。
ましろたちの名前が、その中で輝いた。
「対戦相手……決まったね」
表示された相手は――
《Crimson Bullet》
ペア構成:遠距離特化の狙撃手×制圧系魔法使い。
ランキング14位。
「14位!? いきなりそんな強い人たちと!?」
「逆に、勝てたら一気に注目されるわよ」
「……よっし、Rewrite Hearts、最初から全開でいくよ!」
***
第一試合のフィールドは、夜の廃都市。
高層ビルの屋上に配置されたふたり。対戦相手の姿は、まったく見えない。
「スナイパータイプか……まずは陽菜が前に出て――」
ドンッ!!
唐突な轟音と共に、ましろのすぐ隣に大きな穴があいた。
「え、うそ、今のって……」
「完全に殺しに来てるわね。狙撃手、位置バレしてるかも」
「でも……どこ!?」
ましろは急いでキューブを展開し、情報を検索する。
しかし、相手はフィールドそのものに干渉して、位置をひた隠していた。
「Rewrite検索、遮断されてる……!」
「じゃあ、感覚で行くしかないわね」
陽菜が《心刃・残像刃》を発動。
身体を高速で移動させながら、ビルの影から影へ、ステップを刻む。
ましろも《Rewrite:虚構空間》を展開し、ビル群の一部を“書き換え”。
現実には存在しない“囮のビル”を生み出して、敵の注意を引いた。
「ひとつ、試してみたいことあるんだけど――!」
ましろが新スキル《Chrono Layer》を使用。
過去3秒間の“時間の選択肢”を重ね、スナイパーの弾道を遡って予測。
「いた……あのビルの天辺!」
陽菜がその指示を受けて跳躍。
弾幕の合間をすり抜け、剣を振り上げた。
「《心刃・跳光乱閃》!」
敵スナイパーが吹き飛ぶと同時に、相方の魔法使いが攻撃を仕掛けてくる。
だが――
「Rewriteで、魔法そのものを“霧”に変える!」
ましろのRewriteが炸裂。相手の魔法が実体を失い、ただの視界妨害へと変化。
「やった……!」
最後は陽菜が敵魔法使いに飛び込み、カウンターの一閃。
勝負は、ほんの数十秒の攻防で決した。
《Rewrite Hearts 勝利》
《ランキング暫定29位へランクイン》
試合後、観戦エリアのチャットがざわめく。
「Rewrite Heartsって誰だ?」
「見たことない動き……キューブ、あんな使い方できるのか?」
「陽菜って子、めっちゃ反応速くね?」
「……注目、されちゃったかも」
「それでいいじゃん。Rewriteって、名前の通り、私たちは今から“物語を書き換える”んだから」
そのとき、運営からの特別通知が届く。
《Rewrite Festival特別ミッション:Zero Gravityからの挑戦状》
「……きたわね。頂点」
「Rewrite Hearts、ここからだよ!」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
第9話は、私自身も非常に重い思いを込めて書いた回です。
物語が一気に動き出し、ましろと陽菜が直面する選択の重みが、ページの隅々にまで届けばいいなと思っています。
この回では、彼女たちの心の内側にある「迷い」と、「強さ」が、どうしても必要な瞬間を迎えました。
それぞれが持っている答えが、同じではないこと。
そのズレが、二人の関係にどれほどの影響を与えるのか。
私たちが抱える現実の中でも、同じように「選択」の場面は数多くありますが、その選択の積み重ねが、どこに導くのかは誰にもわからないものです。
次回、物語は一層深く進み、ましろと陽菜を試すような出来事が待ち受けています。
どうか、引き続き二人の歩みにお付き合いいただけると幸いです。
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