2話 Rewrite Ignition
ご閲覧いただき、ありがとうございます。
仮想世界「Rewrite Hearts Online」に足を踏み入れたましろと陽菜。
第2話では、二人の本格的な冒険の第一歩が描かれます。
ましろだけに与えられた“キューブ”という特別な力と、陽菜の確かな剣の腕。
少しずつ深まっていく絆と、新たな出会いが、物語を大きく動かしていきます。
「イベント参加、っと……よしっ!」
軽快な声とともに、ましろの指が画面をタップする。次の瞬間、視界を真っ白な光が包み込み、空間がごっそりと入れ替わった。
目を開けると、そこにはまるで異世界のような広大な草原が広がっていた。空は灰がかった曇天、風には緊張を孕んだ冷たさがあった。
「おぉ〜〜……なんか、いつもの広場と全然ちがう……雰囲気が“ガチ”だよ……!」
「そりゃそうよ。これ、公式イベントだからね。報酬付きの」
隣に立つ陽菜は、肩にかかる黒髪を払いつつ、冷静な声音で返す。その手には、すでに戦いの準備が整った剣。
今回のイベントは、ペア同士で戦うバトルロイヤル形式。生き残った上位のペアには特別な称号と報酬が与えられる、いわば実力者たちの競演だ。
「でもさ〜、こんな強そうな人たちばっかで大丈夫かな……? 私たち、昨日デビューしたばっかりだし……」
「不安なのはわかるけど、もう申し込んじゃったでしょ」
「ぐっ……! 自信満々でボタン押したの、誰だっけ……私だ……」
自嘲気味に自分を指差して笑うましろ。その声には、ほんの少しだけ震えが混じっていた。
そんなふたりの会話の背後で、空中にカウントダウンが表示される。
《イベント開始まで…10秒》
周囲を見渡すと、ペアを組んだ数多のプレイヤーたちが装備を整えている。どの組も、ましろたちより明らかに場慣れしていた。
「……あのふたり、見て」
陽菜が視線を向けた先には、銀髪の弓使いと、大剣を背負った黒衣の戦士。
「えっ、あれって……! ランキング上位の《ブラスト=フェザーズ》じゃん!」
「その火力ペアと当たったら、さすがに終わるね」
「やばいって! そういうの最初に言ってよ陽菜!」
「だって、どうせ見てもビビるだけでしょ」
「その通りなんだけどっ!」
《3、2、1……START》
開始の合図と共に、地が震えるような音と共に戦闘が始まった。
各所でペアバトルが巻き起こり、フィールドのあちこちに剣閃と魔法の光が舞う。
ましろと陽菜の初戦は――意外にも順調だった。
陽菜の剣は鋭く、確実に敵の隙を突いた。そして、ましろのキューブはまだ不安定ながらも、ときおり奇跡のようなタイミングで敵の攻撃を逸らし、戦局を支えてくれた。
「わっ、キューブ今なんかやった!? かっこいい!!」
「いや、たぶん“やった”ってより“勝手に動いた”じゃない?」
「……やばい、キューブに操られてる感ある……!」
「それ、主人公のセリフじゃないよ」
明るいやりとりの合間に、通知ウィンドウが浮かび上がる。
《次の対戦相手が決定しました:ブラスト=フェザーズ》
「……え?」
「……おめでとう、ましろ。運が悪いね」
次の瞬間、空間が転移し、ふたりは再び戦場へと投げ出される。
目の前に立っていたのは、さきほどの強敵――《ブラスト=フェザーズ》。
銀の矢が放たれたのは、警戒を整える間もなく。空気を裂いた矢は、陽菜の肩をかすめ、彼女の体勢を崩す。
「っ、速……!」
その隙を逃さず、黒衣の戦士が大剣を振るう。
陽菜は剣を交えて受け止めようとするが、圧倒的な力に弾かれ、地に叩きつけられた。
「陽菜ぁっ!!」
慌てて駆け寄ろうとしたましろの前に、再び巨大な刃が迫る。
動けない。避けきれない。
「お願い……っ、守って!!」
ましろの叫びに応えるように、彼女の背後でキューブが光を放った。
空間が歪み、何かが書き換えられるような感覚とともに、敵の剣の軌道が逸れる。
「……今の、私……?」
「キューブ……お前、やっと……!」
陽菜が、血に濡れた腕を押さえながら体を起こす。
「ましろ、今の隙、逃すな……!」
「えっ、でも、わたし……!」
「信じてる。キューブを、もっと……!」
陽菜の言葉が風にかき消される。戦士の大剣が、ふたたび彼女へと振り下ろされた。
ましろの視界が、赤く染まる。
「やめて――ッ!!」
キューブが咆哮のような音を響かせ、白い光を炸裂させる。
次の瞬間――戦場の空気が一変した。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
第2話では、ましろと陽菜の関係性が少しずつ形になっていく様子と、RHOという世界の広がりを描かせていただきました。
ましろの“キューブ”は扱いが難しいぶん、今後どのように活かされていくのか――
そして、陽菜がどのようにそれを支えていくのか、ぜひ今後の展開にもご期待くださいませ。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。