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【SIDE】レオハルト

 

 レオハルトは、エルフ国の隣にある人族の国、ディーン帝国の王族だ。

 6歳の時に王の妾である母が病気で亡くなり、王妃たちに疎まれた彼は、国の端にある大きな森の中にある古びた館へと追いやられた。


 使用人はおらず、食事も週1回外から運ばれてくるもののみ。

 こんな生活に1年ほど耐えたものの、彼は絶望した。


 自分など生きている意味はないと森を彷徨い歩き、やがて巨大な木の前で力尽きた。


 朦朧とした意識の中、ここで死ぬのだろうと思っていると、不意に背中をピョンピョン跳ねるものがいた。



「いたっ」



 起き上がると、巨木の根元に小さなコップと薬瓶が置いてあった。

 近づくと、木の奥から優しい女性の声が聞こえてきた。



「あの、それ飲んで! お薬よ!」



 最初は警戒したものの、喉の渇きには耐えられず、彼はコップの水をむさぼるように飲んだ。

 薬の苦さに顔をしかめるものの、何とか飲み切る。


 そして、声の主に差し出された林檎を食べながら、彼の目に涙が溢れた。

 こんな風に誰かの優しさに触れたのが、あまりにも久しぶりだったからだ。



 その日を境に、彼は巨木に通い始めた。


 声の主はリディアという名前で、彼が行くたび歓迎してくれた。

 本を読んでくれたり、歌を歌ってくれたり。パンが好きだと言うと、パンを焼いてくれ、文章を書くのが苦手だというと、手紙を書くことでそれを教えてくれた。


 彼女の優しさと愛情は、愛に飢えたレオハルトの心に沁み渡っていった。

 もう死にたいと思わなくなり、暗い館に帰っても怖いとは思わなくなった。


 そんな優しい日々を過ごす一方、彼は疑問を抱き始めた。



(どうして、リディアはずっと巨木の中にいるんだろう?)



 どうしてかと尋ねると、思いもよらない答えが返ってきた。



「実はね、出られないの」



 ドアがなく、壁を壊そうとしても、リディアの力では難しいらしい。

 しかも、ちょっと隠れるだけだったつもりが迎えが来ず、ずっと閉じ込められた状態らしい。



「リディアは1人で寂しくないの?」

「大丈夫よ。動物たちがいるもの」



 自分に気を遣わせまいと、寂しさを隠しながら何とか明るく話そうとする彼女に、彼は強く思った。

 この木を倒せるほど強くなり、彼女を出してあげよう、と。



 彼はすぐに行動を開始した。

 父である国王に手紙を書き、国のために尽くす騎士になりたいと申し出る。


 そして、「絶対に助けに来る」とリディアと約束を交わすと、王都に戻って騎士団に入った。


 騎士団での生活は、とても厳しく辛いものだった。

 自由な時間は全く与えられず、弱音を吐きたくなることや理不尽なことがたくさんあったが、彼はリディアにもらった優しい手紙を何度も読み直しながら、ジッと耐えた。

 夜寝る前は彼女のことを思い出し、翌日の活力に変えた。


 彼にとってリディア以外のものはどうでも良かった。




 ――そして、リディアと別れて10年が経った頃。


 山岳地帯にドラゴンが現れたという報せが入った。

 ドラゴンを倒した者は、望む褒美を与えられるという。



(これはチャンスだ)



 すでに国一番の騎士として名高かった彼は、ペアを組んでいた魔法士と共にドラゴンの討伐へと向かった。

 死に物狂いで戦って、討伐を成功させる。


 そして、何を褒美に臨むかと言われ、彼はこう言った。



「お金と、これからの人生の自由を」



 この望みは叶えられ、彼はついにリディアを迎えに行けることになった。


 普通であれば、10年も経てばいなくなっていると思うが、不思議なことに、リディアがまだ巨木の中にいるという確信があった。


 エルフ国との国境にある森へ向かう道すがら、彼は緊張していた。

 実を言うと、彼はリディアの姿を見たことがない。

 穴から覗いても、暗くてよく見えなかったのだ。



(でも、彼女がどんな容姿でも関係ない)



 彼女は自分の光であり、生きる意味だ。

 彼女がどんな姿であれ、自分は尽くすのみだ。



 そして、彼は巨木の前に到着すると、剣をすらりと抜いた。

 リディアの気配が近くにないことを確認し、斬撃を浴びせる。



 ドゴンッ!!



 派手な音とともに、木の壁が消滅した。


 目を凝らすと、煙の先には、美しいエルフの娘が立っていた。

 銀髪に青瞳、優しげな顔立ち。すらりとした華奢な体。


 思った通りの優しそうなその姿に、レオハルトは胸がいっぱいになった。



「遅くなってごめん。約束通り迎えに来たよ」



 そして、驚く彼女の小さな手を取ると、彼女と会えた幸せを噛みしめながら微笑んだ。



「さあ、ここから出よう」



 リディアの小さくて柔らかい手の感触を感じながら、彼は心の底から思った。


 彼女さえいれば、自分は何もいらない。

 彼女の幸せのためならば何でもしよう、と。





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