05.10年後
厳しい冬は過ぎ、季節は春になった。
そこから、また春が過ぎ、夏が来て、木々が紅葉した後に、また寒い冬が訪れる。
その間、リディアは何度も外に出る努力をしたが、全て失敗に終わってしまった。
「……これはやっぱり2人を待つしかないのね」
そんな結論に至り、彼女は開き直ってマイペースに生活を続けた。
小さな動物たちとお茶会を開いたり、料理や薬の研究をしながら過ごす。
しかし、待てど暮らせど、ヴェロニカたちは一向に現れない。
――そして迎えた、10回目の春。
若葉色の巨木の中で、リディアは鏡の前に座って、腰まで伸びた髪をとかしていた。
(ずいぶんと伸びたわね)
ここに来た時は、肩くらいだったのに、と思いながら、彼女は髪を編み始めた。
毛先まで編み終えると、そばにいたリスが「どうぞ」とでも言うようにリボンを差し出してくれる。
「ふふ、ありがとう」
リディアは微笑みながらリボンを受け取ると、髪を結わえた。
ふと、壁を見上げると、そこには日付を記したメモが貼られている。
「もう10年経つのね……」
彼女は小さくため息をついた。
ゆっくりと立ち上がり台所へ向かうと、そこに並べられたたくさんのジャムの瓶を見つめながら、深いため息をつく。
「時間がありすぎて、作りすぎちゃったわ」
1人ではこんなに食べられないわよね、とつぶやきながら、彼女は足元のうさぎを抱き上げた。
目を潤ませながら、その白くふわふわな毛皮に頬を寄せる。
「……わたし、ここから出られるのかしら?」
足元に、小さな動物たちが集まってきた。
心配そうな瞳でリディアを見上げる。
その可愛らしい様子に、彼女はくすりと笑うと、目の端の涙をぬぐった。
「ふふ、ありがとう。大丈夫よ。今日はおやつに、くるみのクッキーを焼くわね」
そう言いながら、しゃがみ込んで動物たちをそっと撫でる。
そして、クッキーを作ろうと台所に向かおうとした――そのとき。
ドゴンッ!
大きな音が巨木内に響き渡った。
木が大きく揺れ、棚から本がばらばらと落ちる。
「キャッ!」
リディアは思わず机につかまった。音の方を見ると、煙が立ち込めている。
「なに!? 何が起きたの!?」
魔法の杖を手に、慌てて煙の方へ向かうと、そこには信じられない光景が広がっていた。
「え? 壁に……穴? それと人……?」
リディアがいくら魔法を試みてもびくともしなかった壁に、大きな穴が開いており、その向こうに誰かが立っているのが見えた。
彼女が呆然としていると、その人物が穴を越えて中に入ってきた。
それは美しい黒髪と涼しげな赤い瞳をした端整な顔立ちの青年で、背が高く大きな剣を携えている。
彼はリディアを見つけると、嬉しそうに目を細めた。
「リディア、会いたかった!」
そして、驚きで言葉も出ない彼女の前にひざまずくと、嬉しそうにリディアを見上げて言った。
「遅くなってごめん。約束通り迎えにきたよ」
リディアは目をぱちくりと瞬きながら、驚いたように尋ねた。
「ええっと、あの、あなたは……?」
青年は目を細めて微笑んだ。
「レオハルトです」
「え!」
リディアは驚きのあまり目を見開いた。
「レオハルト! あなた、大きくなったのね!」
「はい、もう18歳です」
レオハルトは照れくさそうに笑いながら立ち上がると、リディアの手を取った。
「さあ、ここから出よう」
第1章はここまでです。
明日から第2章の投稿を始めます。
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