エピローグ
エルフ国を出たリディアとレオハルトは、セレニア共和国を目指して馬を進めた。
途中、『静寂の巨木』に寄ったリディアは、その幹に触れながら巨木を見上げた。
「もしかして、あなたが助けてくれたの?」
謁見の間で光る絵画から感じた魔力は、恐らくこの巨木のものだった。
もしかして、ピンチを見かねて、助けてくれたのではないだろうか。
何も言わずに静かに立っている巨木に、リディアはおでこをコツンと付けた。
「ありがとうね。また来るわ」
手を振りながら馬で立ち去るリディアを見送るように、巨木がざわざわと音を立てて揺れる。
その後、彼らはのんびりと旅を続けた。
レオハルトはとても機嫌が良かった。
どうしてかと尋ねると、「久々にリディアを独占できているので」という答えが返ってきた。
リディアはくすりと笑った。
もう1年半ずっと一緒にいるが、相変わらず彼の言い回しはよく分からないことが多い。
(でも、わたしも2人で旅をするのは好きだわ)
途中で街や村に寄って手をつないで歩いたり、みやげもの屋に寄って、エマやハンナに渡すためのおみやげを一緒に探したりする。
セレニア共和国に入る前、2人はディーン帝国の片田舎に寄った。
そこにはグレタというエルフが住んでおり、2人を見てホッとしたような顔をした。
どうやら陰ながら心配してくれていたらしい。
レオハルトが、今回のお礼にと、エルフ国で手に入れた銘酒を渡すと、ものすごく上機嫌になった。
その日、リディアは疲れてすぐ寝てしまったが、レオハルトは朝方まで酒盛りに付き合わされたらしく、翌日「もう懲り懲りです」とぼやいていた。
その後、2人は国境を超えるとセレニア共和国に入った。
綺麗な景色をながめながら、村や街に寄ったり、珍しい物を買ったりしながら、ゆっくりと進む。
そして、国境を越えて3日目の夕方。
薔薇色の雲が広がる空の下、2人はついにローザリンデの森に到着した。
久々の森は美しく色づいており、地面には落ち葉や木の実がたくさん落ちている。
リディアは冷たく澄んだ秋の空気を吸い込んだ。
「出た時は初夏だったのに、もうすっかり秋ね」
「もうずいぶん留守にしましたからね」
2人は、秋の風を頬に感じながら、奥へと進んだ。
見慣れた蔦に覆われた塀が見えてくる。
そして、馬を降りると、レオハルトが鍵を取り出して開けた。
開いた門の向こうには、懐かしい光景が広がっていた。
静かな庭には秋の花が咲き乱れ、その奥には見慣れたオレンジ屋根の小さな家が佇んでいる。
リディアは目を潤ませながら、そっと息を吸い込んだ。
やっと帰ってこれた、と心の底から安堵する。
(いつの間にか、ここがわたしの居場所になっていたのだわ)
そして、門をくぐって庭に入ると、レオハルトがリディアの方を向いた。
優しい目で彼女を見る。
「リディア、5カ月前、私がディーン帝国に行くときのことを覚えていますか?」
突然の質問に、リディアが目をぱちくりしながらうなずいた。
「え? ええ、覚えているわ」
「あの時、あなたにキスをしていいか尋ねて、『考えておく』と言われたのですが――」
レオハルトがリディアに微笑みかけた。
「少し遅くなりましたが、答えを聞かせてもらえませんか?」
リディアはポカンとしてレオハルトの顔を見た。
その真摯な顔に、この人はずっとわたしのことを愛してくれていたんだわ、と思い当たる。
そして、彼女はレオハルトの腕をぐいと引っ張ってその口にそっとキスをすると、驚き固まる彼の首に抱き着いた。
「ええ、もちろんよ!」
レオハルトは、しばらく石になったかのように固まった後、リディアをそっと抱きしめた。
「リディア、ずっと愛していました」
「今気が付いたけど、実はわたしもそうだったみたい」
2人はくすくすと笑い合うと、そっと口づけを交わした。
小さな家の窓ガラスが、秋の陽射しを受けて、「おかえり」というように柔らかく輝いていた。
(完)
これにて完結です。
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