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03.準備と出発

 

 マリアンヌの館に到着した翌日。

 リディアが起きると、すでに太陽が天頂に差し掛かっていた。


 長旅のせいもあり、ぐっすりと眠ってしまっていたらしい。


 着替えてマリアンヌの執務室に行くと、彼女は何か熱心に書類を読んでいた。

 リディアを見て嬉しそうに立ち上がる。



「起きたのね! 気分はどう?」

「とてもいいわ。ありがとう。――ところで、レオハルトは?」

「うちの騎士団に混じって鍛錬してるわ」



 マリアンヌによると、朝早く起きて剣を振っていたレオハルトに、血気盛んな城の若い騎士が勝負を挑んだらしい。



「挑んだ方が、こてんぱんにやられたらしいわ。うちのNo.1もあっさりやられたらしいし、あの子相当強いわね」



 以降、男の絆のようなものが生まれ、騎士団と一緒に鍛錬しているらしい。



(レオハルトってすごいわね)



 強いのも凄いが、体力もすごい。

 長旅に疲れて昼まで寝ていた自分とは文字通りレベルが違う。




 その後、どこかすっきりした表情のレオハルトが戻ってくると、3人は昼食をとった。

 メニューは卵と野菜のガレットと、コンソメスープだ。


 リディアは、ガレットを1口食べてうっとりした。



「美味しいわね。レオハルトの作るガレットに近い感じがするわ」

「あら、人族領でもガレットを食べるの?」

「いいえ、リディアと会ってから練習しました」



 レオハルトがサラリと言うと、マリアンヌが「あなたマメね」と感心したような顔をする。


 そして食事の後、3人は色とりどりの花が飾られたサンルームに移動した。

 お茶の準備の整った白い丸いテーブルを囲むと、マリアンヌが真剣な顔をした。



「それで、リディアはこれからどうするつもり?」



 リディアは、手元のお茶の入ったカップに視線を落とした。


 父が重病というのはデマだったらしいが、体調が悪いのは本当らしい。

 であれば、やりたいことは決まっている。



「わたしは、お父様に薬を調合して差し上げたいと思っているわ。この10年間に色々研究したし、体調が悪いなら、体調に合わせたものを飲んだ方が良いし」



 それと、と彼女は言葉を続けた。



「わたしは毒を盛っていないと説明したいわ。デマではあったけど、今回”お父様が重病で長くない”と聞いて、誤解させたままにしてはいけないって思ったの」



 マリアンヌが苦笑した。



「リディアらしいわね。私、あなたのそういうところ、好きよ。――ただ、1つ目はまだしも2つ目は難しいわね……。10年前のことだもの」



 何か策はあるの? と尋ねられ、リディアはうなずいた。



「正直に、ちゃんと”やっていない”って言おうと思っているわ」



 マリアンヌが目をぱちくりさせた。



「ええっと、何て言うの?」

「昨日あなたに話したような感じよ。あ、でも“静寂の巨木”の話はしない方がいいのかしら?」



 マリアンヌが、ため息をついた。



「正直なのは大切なことだと思うけど、それだけではダメな場合もあるのよ?」

「ええ、分かっているわ。だから、今度こそ流されず、ちゃんと順序立てて主張しようと思っているわ。毒の分析もしたから反論もできるし」

「うん……まあ、それも大切なことなんだけどね……」



 何とも言えない表情を浮かべるマリアンヌ。


 リディアが真面目な顔をした。



「大丈夫よ。お父様は今度こそちゃんと聞いて下さるわ」

「どうしてそう思うの?」

「この10年間、わたしがちゃんと話をしなかったことを後悔しているように、お父様は聞かなかったことを後悔していると思うからよ」

「……まあ、そうかもしれないけど……」


 

 悩むような顔をするマリアンヌに、レオハルトが冷静に言った。



「下手に策を弄するよりは、リディアはこのまま真っすぐな方が良いのではないでしょうか。周囲がフォローすれば問題ないかと」

「…………なるほど、一理あるわね。こういう真っすぐさって、なかなか出せないものね」



 マリアンヌが考え込む。



「それで、あなたはどうフォローしようと思っているの?」

「いざとなればフェーズ2に移行しようかと」

「フェーズ2?」

「ええ、武力行使です」



 涼しい顔で言うレオハルトに、マリアンヌが思わず噴き出した。



「なるほど、確かにあなたならできそうね」

「はい。まあこれは本当の最終手段ではありますが、これに至らずとも、他に手段があるのではないでしょうか」



 レオハルトの冗談めかした言葉に、マリアンヌがおかしそうに笑う。

 そして、しばらく考え込むような顔をすると、立ち上がった。



「ま、ゴチャゴチャ考えても仕方ないわね! リディアがそうしたいなら協力するわよ!」

「ありがとう」



 リディアが感謝の目でマリアンヌを見た。

 マリアンヌがにこにこしながら言った。



「じゃあ、明後日、みんなで国王陛下に会いに行きましょう!」

「……え?」



 リディアは目を見開いた。



「そんなにすぐ?」

「ちょうど叙勲式があるのよ」



 マリアンヌ曰く、彼女が帰国してから3年、国王に会おうとしてもヴェロニカが邪魔するため、会えるとしたらこういった行事の時くらいらしい。



「ちょうど良いと思うのよ。さすがに叙勲式で騒げば、なかったことには絶対にできないだろうし、乱暴な扱いもできないはずだから」



 マリアンヌがあっけらかんと言うと、レオハルトもうなずいた。



「私も賛成です。こういったことは裏でごちゃごちゃやられるのが一番厄介です。それに、長く居れば居るほどここにいることがバレる可能性が高くなりますし、バレれば一気に動きにくくなります」



 リディアは覚悟を決めた。



「ありがとう、2人とも。そうよね、色々考えるより、思い切って当たって砕けろね」

「いや、砕けちゃダメだと思うけど、チャンスは掴んだ方がいいと思うわ」



 マリアンヌが苦笑しながらうなずく。



 その後、3人は準備に追われた。


 リディアとレオハルトは“討伐に参加した魔法士と騎士”としてマリアンヌと共に叙勲式に行くことが決まり、それ用の服装を急ぎ準備する。


 レオハルトはエルフ風の正式なお辞儀の仕方などを練習し、リディアは国王に話す内容をマリアンヌと相談し、それを大きな声で説明する練習をする。


 リディアは、マリアンヌに頼み込んで、説明する練習に付き合ってもらった。



「いつもみたいにのんびりしゃべっちゃダメよ。ババッと言いたいこと言うのよ」

「ええ、がんばるわ」



 支えてくれる2人の期待にこたえるためにも、部屋に戻って何度も練習する。



 そして、この翌日。

 3人は馬車に乗って王宮へと向かった。






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