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ごきげんよう、10年間とじ込められていたエルフ姫です。  作者: 優木凛々
第5章 エルフ国へ

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01.帰郷

 

「忘れ物はないですか?」

「ええ、大丈夫よ」



 空がぼんやりと明るくなってきた、初夏の早朝。

 リディアは、レオハルトと共に門の外に立っていた。


 2人ともフード付きの旅人風ローブを羽織っている。


 レオハルトは、門の外につないであった栗毛色の馬を撫でながら、鞍の確認をした。


 その間に、リディアはしゃがみ込んだ。

 周囲に集まって来たリスやうさぎ、ハリネズミなどの小さな動物たちを撫でる。



「行ってくるわね。庭のお野菜、食べていいからね。でも、ハチミツはダメよ。刺されちゃうからね」



 動物たちが、分かった、というように目をキラキラさせながら耳や鼻をピクピクと動かす。



 2人は門の鍵を厳重に掛けて馬に乗ると、動物たちに手を振りながら森を進み始めた。

 初夏の爽やかな風が、リディアの頬をそっとくすぐる。


 彼女は、レオハルトを見上げた。



「ありがとうね。一緒に来てくれて」

「気にしないで下さい。リディアが行く場所が、私の行く場所ですから」



 ちなみに、これから向かう先はエルフ国だ。


 先日、冒険者ギルドで、”父であるエルフ国王が重病でもう長くない”と聞いて、リディアは国に帰ることを決めた。

 父が心配なのはもちろんだが、自分が毒を盛ったと誤解させたままにはできないと思ったからだ。



(私が毒を盛ったと言った時のお父様、とても苦しそうな顔をしていたわ)



 父親にあんな顔をさせたまま最期を迎えさせられない。


 あの時は、ヴェロニカとギルバードの勢いに流されて、強く無罪を主張せずに終わってしまった。

 でも、今度はちゃんと説明して、誤解を解きたい。


 レオハルトに、エルフ国に帰ると言うと、考え込むような顔をされた。

 彼は、これは罠だろうと思ったらしい。



「今まで国王の体調など外国に漏れることはなかったし、タイミング的に怪し過ぎます」



 ただ、リディアの気持ちを尊重してくれて、すぐに「私も一緒に行きます」と言ってくれた。


 その後、2人は3日ほどかけて出掛ける準備を済ませ、本日こうやって出発した、という次第だ。




 *




 しばらく進んだ後、2人は近くの岩の上で休憩することにした。


 リディアが革鞄からお茶とお菓子を取りだしている間に、レオハルトが地図を広げた。



「このままディーン帝国に入って、そこから“帰らずの森”に入ります」



 ディーン帝国側から森に入り、“静寂の巨木”の横を通ってエルフ領に出る予定だ。

 レオハルト曰く、恐らく国境は検問が張られているため、このルートが一番安全らしい。


 ちなみに、エルフ国に入った後は、従妹の家に行く予定だ。

 マリアンヌという父の兄の娘で、リディアと非常に仲が良かった。


 長らく外国に行っており、リディアが巨木に閉じ込められていた時は不在だったが、恐らくもう帰っているはずだ。



「彼女が一番信用できるわ」

「分かりました」



 レオハルトがうなずく。


 その後、2人は休みながら進んだ。

 どこかに泊まると足がつく可能性があるということで、夜は魔法がかかったテントを張って泊まった。


 夜が冷えたせいか、翌朝リディアが目を覚ますと、彼女はレオハルトにピッタリくっついて寝ていた。

 どうやら端に追い詰めて毛布を奪った挙句、彼を下敷きにして寝ていたらしい。



(わたしったら何てことを!)



 シュンとしながらごめんなさいと謝ると、彼は眠そうな目をこすりながら、


「自分の自制心を誇りに思います」


 と、よく分からないことを言った。



「自制心?」

「はい、己を律する心です。リディアへの愛とも言います」

「そうなの?」

「ええ、間違いなく」



 ふうん、と首をかしげつつも、旅は順調に進んでいく。



 そして、家を出てから3日後の昼過ぎ。

 2人は遂に森に到着した。


 ゆっくりと中に入ると、そこは変わらず鬱蒼とした美しい森だった。

 澄んだ空気の中に魔力が充満し、とても心地良い。


 リディアの胸が高鳴り始めた。

 もうすぐあの巨木に会えると思うと、嬉しいような怖いような気持ちになる。


 そして、2人はついに巨木の前に到着した。

 信じられないほど大きな木は、夕日に照らされて神秘的な雰囲気を醸し出している。



「こうやって外から見ると、本当に大きな木なのね」



 リディアはそっと幹に触れた。

 もしかして、閉じ込められていたトラウマが蘇るかもしれないと心配していたが、そんなものはなく、懐かしい気持ちでいっぱいになる。



(そうよね、この木には何も罪はないもの)



 その日、2人は巨木の近くにテントを張った。


 採ってきた来た大きなキノコを焼いていると、リスやウサギ、子鹿が寄って来た。



「まあ! 久しぶりね!」



 リディアは喜んで動物たちを撫でた。

 うち何匹かが巨木の中から林檎を運んできてくれ、久々に美味しい林檎を食べる。


 レオハルトが、目を細めた。

 小さい頃にここで初めて林檎を食べた時のことを思い出し、懐かしい気持ちになったらしい。




 翌朝、2人は巨木に別れを告げて、エルフ国の方面へと進んだ。


 途中で、このままでは目立つということで、レオハルトにエルフに見える幻術と、リディアが別人に見えるような幻術をかけようという話になる。



「エルフに見えるというと、耳を変えるのですか?」

「そうね、髪の毛と目の色も変えた方がいいかしら」



 そして、出来上がったレオハルトを見て、リディアは思わず噴き出した。

 黒髪赤目が、対照的な銀髪青目になったせいか、ものすごい違和感だ。


 本人も慣れないようで、どこかソワソワとしている。



「レオハルトは、元の髪と目の色が似合うのね」

「そうですか?」

「ええ、とても綺麗な色ですもの」

「……そうですか」



 レオハルトが片手で口元を隠しながら顔を背ける。


 その後、リディアは自分も別人に見えるような幻影魔法をかけた。

 知合いにどうしても似てしまうため、何とか似ないように何度もかけ直す。



 そして、森に入って2日後。

 2人はとうとう森を抜け、ついにエルフ国へと足を踏み入れた。





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