表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ごきげんよう、10年間とじ込められていたエルフ姫です。  作者: 優木凛々
第4章 不穏な影

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/41

04.変わり者エルフ

 

 レオハルトはディーン帝国を目指してひたすら走り続けた。

 途中で何度か馬を替え、馬を休ませている間に、リディアの持たせてくれた食料を感謝しながら食べる。


 そして、2日目の昼過ぎ。

 驚異のスピードで国境に到着した。


 そのままディーン帝国に入り、エルドに教えられた片田舎に向かう。


 そして、翌日の夕方近く。

 レオハルトは、小さな村の外れにある小さな家のドアを叩いた。

 返事がないため、何度か叩く。


 かなり時間が経って、ドアがゆっくりと開き、中から40歳前後くらいに見える女性が顔を覗かせた。

 銀髪青目で、耳がピンと尖っている。


 女性は訝しげにレオハルトを見た。



「……なんだい、あんた」

「お久し振りです。グレタ様、レオハルトです」



 エルフは目を見開いた。



「おや、あんた、エルドと一緒にいた王子様だね。どうしてここに?」

「お尋ねしたいことがありまして参りました」



 グレタが面倒くさそうな顔になった。



「わたしはそんなに暇じゃないんだがね」



 レオハルトは微笑を浮かべた。



「そう思いまして、セレニア共和国の銘酒を何本か持ってまいりました。どれも100年ものだそうです」

「……」



 グレタの耳がピクリと動いた。

 その様子を見ながら、レオナルドが重ねて言った。



「セレニア共和国で特有の植物を何種類か採取してきました。葉や枝、花がついているものもあります」

「……いいだろう。入りな」



 レオハルトは、エルフの後について中に入った。

 中は雑然としており、作業机の上には器具が並び、棚には薬草と思われる瓶などが置かれている。



(少しリディアの作業場に似ているな)



 そんなことを考えていると、エルフが口を開いた。



「さて、その100年ものとやらを見せておくれ」



 レオナルドは、特別な箱から瓶を3本取り出して作業机の空いているところに並べた。



「どれもセレニア共和国の有名な酒蔵のものだそうです」

「ほう、これは見たことがないね。開けてみても?」

「もちろんです」



 グレタが、うち1本の栓を丁寧に抜くと、美しいグラスに注いだ。



「ほう、確かにこれは100年ものだね」



 そして、口に軽く含むと、うっとりとした表情になった。



「これは素晴らしいね。文句なしだ。――じゃあ、植物とやらを見せておくれ」



 レオハルトが草木を入れた箱を並べると、彼女は驚愕の顔をした。



「これ、あんたが集めたのかい?」

「はい」

「へえ! センスがいいね! どれも珍しいし、採取も丁寧だ」



 レオハルトは嬉しい気持ちになった。

 リディアに教えてもらった採取技術が役に立ったようだ。



(今ごろどうしているだろうか)



 会いたいなと思いながら心の中でため息をついていると、グレタが大切そうに箱を棚の中にしまった。



「そこに座りな。今茶を出してやる」

「ありがとうございます」



 そして、苦いような甘いような不思議な香りのするお茶のカップを彼の前に置くと、正面に座った。



「で、聞きたいことって何だい?」



 レオハルトは軽く息を吐いた。

 ここに来るまで、何をどう聞こうかあれこれ考えた結果、彼は正直に全てを話すことに決めた。

 彼女の口の固さは有名だし、正直に言わなければ欲しい情報が得られないと思ったからだ。


 彼は真剣な顔でグレタを見た。



「ここでの話は秘密にして頂けますか」

「もちろんさ。知っての通り、私は口が超堅いからね」



 レオハルトは、手元のカップに視線を落としながら、ゆっくりと口を開いた。



「約10年前、私は帰らずの森に住んでいました」

「帰らずの森って、あの国境にある森かえ?」

「はい。母が亡くなって、厄介払いをしようと思った者たちに追いやられたのです」



 その後、彼は順序だてて話をした。


 森を彷徨っていたところ、巨大な木に辿りついたこと。

 巨大な木の中には、エルフの女性が閉じ込められており、彼女に命を助けられた後、しばらく一緒に過ごしたこと。


 レオハルトの話が進むに連れ、グレタの表情がどんどん曇っていく。

 そして、エルフの女性が、少し隠れるだけのはずが迎えが来なくて閉じ込められている、と言ったという話を聞いて、低い声で尋ねた。



「そのエルフは、まだその巨木の中にいるのかい?」

「……いえ、私が連れ出しました」

「連れ出した?」

「はい。斬撃を浴びせて木に穴を開けて、彼女を連れ出しました」



 グレタが呆気にとられた顔をした。

 信じられないといった顔でレオハルト見る。



「それは、いつの話だい?」

「大体1年前です」



 グレタが、大きなため息をついた。

 椅子の背もたれにもたれかかり、「なるほどねえ」とつぶやく。


 そして、「ちょっと失礼するよ」と、コップを2つ出してきた。

 片方に、レオハルトの持って来たお酒をトポトポと注ぐと、レオハルトの方に差し出す。



「ほら、あんたも飲みな」

「いえ、私は」

「何かい? あんた、私の酒は飲めないってかい?」

「……いただきます」



 レオハルトが渋々コップを受け取ると、グレタが自分のコップにドボドボとお酒を注いだ。

 それをぐいっとあおると、「ぷはー」と息を吐く。



「……まったく、とんでもない話を持ち込んできてくれたねえ」

「とんでもない話、ですか」

「ああ、そうだよ。まさかこんなところに原因があるなんてねえ」



 彼女によると、今エルフ国は非常事態らしい。



「植物の育ちが悪いってんで、私も冬の間駆り出されてねえ。色々と調べさせられたよ」



 複数の専門家で議論した結果、エルフ国内の土や降る雨などに含まれる魔力が減ったからではないかという結論に至ったらしい。



「まあ、我々学者からしてみれば、魔力が減ったっていっても、ここ数年が特別多かっただけの話だから、別に騒ぐ話でもないっていう結論に落ち着いたんだけど、政治的にはそうもいかないらしくてね」



 次期女王候補に何とかしろと厳しく言われ、面倒になって勝手に帰ってきたらしい。



「あのいけ好かないヴェロニカとかいう小娘が、次期女王候補だなんてゾッとするよ。人のことを道具としか思っていない」



 嫌なことを思い出したのか、腹を立てたようにガンとコップを置く。



「……ただ、今のあんたの話を聞くと、状況がかなり変わってくるね」



 そう言うと、エルフは黙り込んだ。

 ランプの火が揺れ、壁に不思議な影ができる。



「変わる、といいますと」



 そうレオハルトが先を促すと、彼女は声を潜めた。



「あんたが巨木と言っている木は、“静寂の巨木”といってね、1000年前まで生贄を捧げていた場所さ」

「……生贄?」

「ああ、あそこは魔力泉の真上でね、あそこに特別に魔力の強いエルフを幽閉すると、魔力泉が活性化して、エルフ国を流れる地脈が活性化されるんだ」



 生贄のエルフは巨木のお守り役となり、死ぬまで誰とも接触を許されず、ただ幽閉されて一生を終えるらしい。


 この生贄制度はずっと続いたが、1000年前に生贄となったエルフが孤独のあまり発狂。地脈に呪いが流れ込んで国を滅亡寸前まで追い込んで以来、絶対禁忌となったという。



「当時のエルフたちは、“世界樹の怒りを買った”と怯えて、関連書物まで燃やしたそうだ。私も師匠に聞いてなきゃ、こんな話は知らなかったろうさ」



 レオハルトは、膝の上で拳を握り締めた。

 点と点がどんどん結ばれていく。


 グレタが、囁くような声で言った。



「あんたが助け出したエルフは、リディア・エルフィード王女だ。そして、エルフ国がここ10年異常に潤っていたのは、次期女王候補として偉そうな顔をしているヴェロニカ王女が、絶対禁忌を破ってリディア王女を騙して生贄として閉じ込めていたからだ」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ