【SIDE】一方、エルフ国では⑤
春の気配が漂い始めたエルフ国の王宮内。
ほとんどの者が入ることを許されない、窓がない密室にて。
険しい顔をしたヴェロニカが玉座を模した椅子に座っていた。
その横にはどこか暗い顔をしたギルバードが立ち、前方には、黒装束を身にまとったエルフがひざまずいて頭を下げている。
ヴェロニカが、鋭い目で黒装束のエルフを見た。
「つまり、国内を隅々まで探したけれど、リディアは見つからなかった、と」
「はい。リディア様の行きそうな場所なども全て探りましたが、どこにもいらっしゃいませんでした」
「目撃者は?」
「残念ながら……」
ヴェロニカは黒服のエルフを睨みつけた。
「“暗部”が聞いて呆れるわ、これだけ時間がありながら、何も掴めていないじゃない!」
「申し訳ございません」
「それで、どうするつもりなの?」
ギルバードがオドオドと口を開いた。
「国内にいないということは分かったから、隣国のディーン帝国とセレニア共和国の冒険者ギルドに極秘の依頼を出したよ。ここ1年ほど現れた銀髪青目の女性エルフを探して欲しいって」
「それで確実に見つかるんでしょうね?」
黒装束のエルフが頭を上げた。
「もちろん、我々も隣国に出向きまして、直接探す所存です。変装をしている可能性もありますから」
ヴェロニカは忌々しそうに舌打ちをした。
今すぐ連れてこいと怒鳴り散らしたいところだが、意味がないことも分かっている。
そして、黒装束のエルフが音もなく退出した後、ヴェロニカはギルバードを睨んだ。
「それで、“静寂の巨木”にあるリディアの薬はどうだったの?」
リディアの行方につながるものがないかと探したところ、彼女が作った薬が大量に見つかった。
それを秘密裏に王宮に運び、薬師に分析させていた。
「土壌改良の薬と、不作対策の薬、その他に国王陛下の薬もあったそうだ」
「量は?」
「4,5か月分ほどと聞いている」
ヴェロニカがイライラしたように爪を噛んだ。
「たったそれだけ!? 10年も時間があったのに、怠け者にも程があるわ!」
「……」
ギルバードが黙り込む。
ヴェロニカは爪を噛みながら思案に暮れる。
そして、思いついたように顔を上げると、ニヤリと笑った。
「3か月以内にリディアが見つからなかったら、噂を流しましょう」
「噂?」
ええ。と、ヴェロニカがうなずいた。
「父上が病気だという噂よ」
「……何を言っているんだ?」
「嘘ではないわ。だって父上が体調が悪いのは事実だし。――ただ、噂ってすぐに尾ひれがつくから、大袈裟に広がってしまうかもしれないわねえ」
それに。と、ヴェロニカはにやりと笑った。
「人のいいお姉様は、この話を聞いて戻ってくるかもしれないわね」
「……」
ギルバードが怯えた表情で黙り込む中、ヴェロニカは椅子から立ち上がった。
我ながら良いアイディアを思いついたと、ほくそ笑む。
そして、彼女はギルバードに「行くわよ」と声を掛けると、優雅に部屋を出て行った。
第3章終了です。
ここまでお付き合いいただきましてありがとうございました!(*'▽')