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ごきげんよう、10年間とじ込められていたエルフ姫です。  作者: 優木凛々
第3章 森の薬屋ぐらし(束の間の平和編)

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【SIDE】一方、エルフ国では④

 

 リディアが巨木を離れてから、約7か月。

 雪がちらつくエルフ国の王宮内の立派な執務室にて。


 ヴェロニカがイライラしながら爪を噛んでいた。

 目の前の机の上に積まれているのは、嘆願書の山だ。



『不作につき、どうか“豊穣の巫女の恵み"をもっといただきたい』

『どうか我が領に祈りを捧げにきていただきたい』



 そんなことばかり書かれている。


 異常気象は未だ続いており、各地から不作の悲鳴が相次いでいる。

 樹木の育ちも悪くなり、いくら使っても問題なかった木材も、使用を制限しなければならなくなった。



 リディアの作っていった薬を"豊穣の巫女の恵み"として配ることで何とか冬になるまで凌ぐことができたが、この方法も徐々に通用しなくなってきている。


 薬師長によると、リディアの薬は、残りがそこまで多くないらしい。

 急ぎ、その薬の分析と調合を急がせてはいるが、リディア独自の技術が使われていることから難航していると、とのことだった。



(なんでこんなに上手くいかないのよ!)



 ヴェロニカは爪をギリッと噛んだ。


 異常気象など、夏が過ぎれば終わるだろうと考えていたが、天候の研究をしている者たちによると、当分続く可能性が高いという。



(なんでこんなことに!)



 そして、彼女はふと思った。

 もしかして、リディアが何かしているのではないだろうか。


 1000年前、“静寂の巨木”に生贄として幽閉されたエルフが発狂して、地脈に呪いを流した。

 その影響でエルフ国内は荒廃し、生贄制度が廃止されるきっかけになったという。


 これを踏まえて今の状況を考えると、リディアがあの巨木の中で何か余計なことをしているのではないだろうか。


 ヴェロニカはガタンと席を立った。



「そうだわ! そうに違いない!」



 彼女は呼び鈴を鳴らすと、ギルバードを呼んだ。

 やや憂鬱そうな顔で現れた彼に、横柄に命令する。



「今日の夜、出掛けるわよ」

「……どこへ?」

「例のあの場所よ」



 ギルバードが目を見開いた。



「もしかして、リディアに助けを乞いに行くのかい?」



 ヴェロニカが彼を鋭く睨んだ。



「そんな訳ないでしょ! 余計なことをしないように言い聞かせに行くだけよ!」

「余計なこと?」

「ええ、多分、この異常気象は、あの女の仕業だわ」

「リディアはそんなことしないんじゃないかな。……君と違って」



 最後は聞こえないくらい小さな声でつぶやくギルバード。




 その夜、2人は闇に紛れて王宮を出た。

 馬車で数時間走り、夜明けとともに巨木に辿り着く。


 巨大な魔法の杖を持ったヴェロニカがズカズカと歩き、その後ろに暗い表情をしたギルバードが歩く。


 そして、2人は朝日を浴びてそびえる巨木に辿り着いた。

 木の周辺だけまるで春のように温かく、外の雪がちらつく気候が嘘のようだ。

 ヴェロニカが上を見上げた。



「10年前と何も変わらないわね」

「そうだね。魔力の感じも同じように感じるよ」



 そして、2人は、念のためにと巨木の周囲を歩き――、



「……っ!!!!!」



 驚いて立ち尽くした。

 巨木の後ろに生えている木々がなぎ倒され、土が深くえぐれている。


 まるで強大な攻撃を食らったかのような跡に、2人は真っ青になった。



「ま、まさか!」



 急いで巨木の正面に回り、大急ぎで扉を開ける。


 そして、2人は中に踏み込み、その光景に大きく息を飲んだ。



「! だ、誰もいない!?」



 中は綺麗に片付けられており、人の気配がまるでない。

 壁を見ると日付が書いたメモが張られており、7カ月前で止まっている。



「逃げられた!」



 ヴェロニカは憎しみの叫び声を上げた。

 自分ですら抜け出せなかったこの場所から、リディアが抜け出したことに強い敗北感を覚える。


 それ以上に感じるのは、強い憎しみだ。



「どこまでイライラさせるのよっ! あの女!」



 怒り狂うヴェロニカを、ギルバードが怯えた目で見る。


 その後、ヴェロニカは王宮に戻った。

 すぐさま王家の諜報部隊(暗部)を呼びつけると、


 

「罪人・リディア王女が、我々の信頼を裏切って逃げ出した。父王に知られないうちに秘密裏に探して捕まえてきなさい」



 と強く命じた。




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