表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ごきげんよう、10年間とじ込められていたエルフ姫です。  作者: 優木凛々
第3章 森の薬屋ぐらし(束の間の平和編)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/41

05.2人の出発


 台所で、リディアは、先ほど収穫したかぼちゃでパイを作っていた。

 レオハルトの好物のため、最近よく作る。


 ふと顔を上げると、窓から立ち上がって握手をしている2人の姿が目に入る。



「ふふ、楽しそう」



 レオハルトは、小さい頃からあまり過去を語りたがらない。

 人間関係であまり良い思いをしてこなかったようで、そういった話題は避ける傾向がある。


 だから、そんな彼にああやって自然に話せる友だちがいたことに、彼女は驚くと同時にホッとした。

 悪い思い出だけではなくて良かった、と思う。


 彼女は、鍋で煮ていたかぼちゃを布の上にあけると、粗熱をとってヘラで潰し始めた。



(エルドさん、しばらくここに滞在するのかしら)



 もしもこの家に泊まるなら、客間を用意しておかないと、などと考ながら、クッキーを潰して台を作ったり、カボチャに砂糖やミルクを混ぜたりして、パイを作っていく。



 そして、それをオーブンに入れてしばらくして、レオハルトとエルドが家に入って来た。


 レオハルトに遠慮がちに、

「今日、エルドを泊めてもいいか」

 と尋ねられ、彼女は快くうなずいた。



「もちろんよ。じゃあ、わたし、客間を準備してくるわね」

「では、俺は夕食を作っておこう」



 エルドが、「え!」と目を見開いた。



「レオハルトが料理!? ……まさか干し肉を水に漬けたやつとかじゃないですよね」



 昔そういうお料理を作っていたのかしら、と思いながら、リディアがくすくす笑った。



「レオハルトはお料理がとても上手なんですよ。キッシュも美味しいし、ガレットなんて絶品なんです」

「キッシュにガレットですか。信じられないくらいお洒落なもの作りますね」

「ええ、わたしの大好物なんです」



 エルドが、納得したようにうなずいた。



「あー、なるほど。リディアさんの大好物を練習したって感じですか」

「……お前、少しうるさいぞ」



 レオハルトが「手伝え」と、エルドを引きずって台所に行く。


 リディアは1階にある小さな客間を整え始めた。

 ざっと掃除をしてから清潔なリネンのカバーをベッドにセットすると、その上に肌触りの良い綿のパジャマをそっと置く。


 そして、食堂に向かうと、すでにテーブルの上には料理が並んでいた。

 サラダにシチューの他に、焼いた肉やリディアの好きなガレットや、先ほど作っていたかぼちゃのパイなども乗っている。


 3人は、エルドの持っていたワインで乾杯すると、取り留めもない話をしながら楽しく夕食を食べ始めた。


 途中、レオハルトが改まったように切り出した。



「明後日以降、エルドと2つ先の山まで討伐に行ってくる」

「あら、そうなの?」

「ああ、キメラを狩ってくる」

「キメラ」



 リディアは首をかしげた。



「キメラってどんなものなの?」

「頭と体が違う動物の魔獣っすね。それぞれの特性を持っているんで、結構強いんですよ」



 魔法士1人だと危ない場合があるので、騎士であるレオハルトも一緒に行くらしい。



「まあ、そうなのね。気を付けてくださいね」

「大丈夫ですよ。何と言ってもレオハルトは“漆黒の破壊神”と呼ばれた男ですから。まあ、春が来て大分温厚になってるみたいですけど」

「……お前、少し黙れ」



 意味はよく分からないけど、なんだか面白いわね、とリディアがくすくす笑う。


 普段のレオハルトは、どこか大人びていて頼りになる男性といった感じだが、エルドと話しているレオハルトは年相応な面がチラチラ見える。



(なんだか違う一面を見ている感じだわ)



 何だかとても嬉しい気持ちになる。


 そして夕食後、もう少し話をするという2人を置いて、リディアは先に眠りについた。




 *




 リディアとレオハルトの家に泊まった翌日から、エルドは塀に守りの魔法をかけはじめた。

 かなり大掛かりな魔法らしく、あちこちに魔石を埋めたり、術を何度もかけたりする。



 そして、数日後。

 守りの魔法が完成してすぐ、レオハルトとエルドは出発することになった。


 門の前に立った2人に、リディアは大きめの包みを渡した。



「これ持っていって。サンドイッチとキッシュが入っているわ」



 レオハルトが嬉しそうな顔で、ありがとう、と受け取る。

 そして、真面目な顔をして念を押した。



「何度も言いますが、誰が来ても門を絶対に開けないでください」

「ええ、分かったわ」

「たとえ私の知合いだと言われても、絶対にダメですよ」



 リディアはくすくす笑った。



「もう、心配性ね」

「ええ。エルドを家にいれた前科がありますから」

「……そうね」



 2人のやり取りを聞いていて、エルドが「過保護ですねえ」と苦笑する。



「でもまあ、そんなに念を押さなくても大丈夫ですよ。他人が入ろうとしたら、雷が落ちてきますから」



 リディアが目を見開いた。



「え! そうなの?」

「そうですよ。入ろうとした瞬間、ビリビリ! って感じです」



 笑顔のエルドを見て、リディアは思わず身震いした。

 もともと入れるつもりはなかったが、絶対に入れるのは止めようと心に誓う。


 ちなみに、リスやウサギなどの小動物については、問題なく出入りできるらしい。



 その後、2人は出発。

 リディアは、何度も振り返るレオハルトの姿が見えなくなるまで見送ると、ゆっくりと家に戻っていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ