01.身に覚えのない断罪、なぜリディアは閉じ込められたのか
連載スタートです。
最初の数話はやや重めですが、徐々にタイトル通りになっていきます。
いつも通りサクサク投稿して行こうと思います!
プロローグから、約10年前。
王宮内にある薬学研究所、本や実験器具がたくさん並んだ大きな研究室にて。
白衣を着たリディアが、一心不乱に薬の調合をしていた。
大きな鉄製の鍋に薬草を数種類入れ、魔力を加えながら混ぜて液体にする。
そして、薬ができあがると、部屋にいた中年のエルフ男性声を掛けた。
「薬師長、できました。お願いします」
「はい、おまかせください」
中年エルフの合図で、若手エルフたちがリディアの調合した鍋を別の作業台に持って行って、薬をどんどん瓶に詰めていく。
リディアが薬師長に尋ねた。
「あとは何を作ればいいのかしら」
「国王陛下の薬になります。その後は、作付けのための畑の薬、新芽を守るための虫よけの薬となります」
「わかったわ」
リディアは休む暇もなく、薬を調合し始めた。
薬師長が感心したように言った。
「よくもまあ、魔力がもちますね」
「ええ、魔力が多いことだけが取り柄だから」
そして、一心不乱に薬を調合し続けること数時間。
ようやく今日の分の仕事が終わった。
「はあ……疲れたわ……」
リディアは、ため息をつきながら肩を回した。
魔力量に自信はあるが、さすがに朝からずっと薬の調合は疲れた。
(たまにはゆっくり休みたいわね……)
そんなことを考えながら、ボンヤリとしていると、
コンコンコン
ノックの音と共に、メイドが1人研究室に入ってきた。
リディアを見てお辞儀をする。
「国王陛下がお呼びです。謁見の間に来て欲しいそうです」
「謁見の間?」
リディアは目をパチクリさせた。
最近、リディアが忙し過ぎて父である国王に会えていない。
そろそろ会いに行こうとは思っていたが、まさか謁見の場に呼ばれるとは思わなかった。
(何かあったのかしら)
首をかしげながら謁見の間に向かうと、そこには国の重鎮が何人か待っていた。
入ってすぐに、国王の前に跪くように言われる。
(一体何なの?)
首をかしげながら、国王の前にひざまずくと、国王が重々しく尋ねた。
「……リディア、お前がこの私に毒を盛っていたというのは本当か?」
「……え?」
リディアは、ポカンとした顔で、父である国王の顔を見上げた。
「ええっと……毒……?」
「私のここ最近の不調は、お前が作った薬が原因だという報告が上がってきている。遅効性の毒が入っていた、とな」
顔を曇らせながら尋ねる国王を、リディアは戸惑いの目で見上げた。
「……申し訳ありませんが、何を言われているのかさっぱり分かりませんわ」
国王のそばに立っていた宰相が厳しい顔で口を開いた。
「リディア様、残念ですが、証拠が複数揃っております。父である国王陛下を害そうとするなど、極刑に値しますぞ!」
宰相の言葉に、謁見の間にいた者たちにざわめきが広がった。
「本当なのか?」
「あの宰相がここまで言うことは、本当なのでは?」
「孝行者とばかり思っていたが、そんなことを企んでいたとは」
などという言葉が聞こえてくる。
リディアは困惑した。
確かに、彼女は父である国王の薬を調合している。
でも、毒を入れたなど身に覚えが全くないし、大好きな父王が健康で長生きできるように常に気を配り、そのための研究までしている。
(絶対に何かの間違いだわ)
自分はやっていないと主張しよう口を開きかける。
しかし、そのとき―――。
「父上!」
「国王陛下!」
突然、横から2人の男女――妹のヴェロニカと、宰相の息子であり婚約者でもあるギルバードが飛び出してきた。
彼らは、リディアを庇うように両横に並んでひざまずくと、国王に向かって頭を下げる。
「父上! お姉様は今まで国のために尽くしてきました! どうか寛大なご判断を!」
「恐れながら、私からもお願い致します!」
必死に頭を下げる2人を見て、リディアは目をぱちくりさせた。
(寛大な判断も何も、わたし何もしていないんだけど)
そう思って口を開こうとするが、ヴェロニカに小声で
「まずは私たちに任せて!」
と言われて、口を閉じる。
2人の必死な様子を見て、国王が考えるように目を細めた。
何か考えるように黙り込む。
ヴェロニカが真摯な表情で国王を見上げた。
「お父様。お姉様の処遇について、我々にお任せいただくのはどうでしょうか」
「……お前たちにか」
「はい、お父様の信頼を損ねるようなことは決して致しません」
「私もリディアの婚約者として、お任せいただければと思います」
ギルバードも真剣な顔で頭を下げる。
国王はしばし沈黙した後、うなずいた。
「……あい分かった。そなたらに任せよう。ただし、決して私の信頼を裏切らないように」
「ありがとうございます! 心します!」
ヴェロニカとギルバードが深々と頭を下げる。
両側の2人につられて頭を下げながら、リディアは首をかしげた。
(ちゃんと話して毒とやらを調べれば、間違いであることはすぐ分かる気がするわ)
そう思うものの、2人がこう言うということは、きっと何か意味があるのよね、と思う。
妹のヴェロニカとギルバードはとても賢い。
魔力量の多さと製薬くらいしか取り柄がない自分とは違い、聡明でいつも何か考えている。
今回もきっと何か考えがあるのだろう。
頭を深々と下げる3人を残し、国王が謁見の間から去っていく。
それを見送ったあと、3人は別室の防音対策のされた立派な応接室に移動した。
ソファに座りながら、ヴェロニカが痛ましそうな顔でリディアの手を握った。
「お可哀そうなお姉様、お父様ったら酷いですわ」
「そうだよ。陛下は一体どうしてしまったんだ」
ギルバードも憤慨したような表情を浮かべる。
リディアは首をかしげた。
「それにしても、どうして私が毒を盛ったなんて話になったのかしら? わたしは毒なんて知らないわ」
「ええ、わかっているわ。お姉様はそんな方じゃないもの」
ヴェロニカの言葉に、ギルバードも「その通りだ」と深くうなずく。
リディアが考えながら口を開いた。
「わたし、お父様とちゃんとお話ししたいわ。ちゃんと話せばわかってくれると思うの」
ヴェロニカが静かに首を横に振った。
「今は止めておいた方がいいと思ますわ」
「どうして?」
「お父様、何だか気が立っていたように見えたもの。冷静に話を聞いてくれる感じはあまりしなかったわ」
リディアは視線を落とした。
確かにあまり見ない表情をしていたなと考える。
うつむくリディアの手を、ヴェロニカがとった。
「お姉様、しばらく身を隠されませんか?」
「身を隠す?」
「ええ、お姉様がいなくなっても何も変わらなければ、お父様もお姉様が毒を盛っていないということが分かると思うの。それに、そうなったらきっと冷静になって聞いて下さいますわ」
なるほど、とリディアはうなずいた。
確かに離れていて体調が変わらなければ、自分が毒を盛ったという話はなくなるだろう。
「……分かったわ」
リディアはコクリとした。
きっと1カ月もすれば落ち着くだろうと考える。
「……わたし、どこに身を隠せばいいのかしら?」
「王都から離れたところに、昔隠居していたエルフの家があるから、そこでどうかな?」
ギルバード曰く、生活できるだけの一切が揃っているらしい。
一時的に住むだけなら、とリディアはうなずいた。
「分かったわ」
「良かったわ、お姉様が合意してくれて」
「ああ、ホッとしたよ」
ヴェロニカとギルバードが歯を見せて笑う。
そして、その日の夕方。
リディアは身の回りの品だけ持って、急ぎエルフ国の王都から辺境へと向かった。
本日あと2話ほど投稿します。