01.身に覚えのない断罪、なぜリディアは閉じ込められたのか
連載スタートです。
最初の数話はやや重めですが、徐々にタイトル通りになっていきます。
いつも通りサクサク投稿して行こうと思います!
プロローグの、約10年前。
その事件は、世界樹がそびえるエルフ国で起こった。
「リディア、お前がこの私に毒を盛っていたというのは本当か?」
王宮内の謁見の間に、静かな男性の声が響く。
玉座の前にひざまずいていた銀髪の少女、第1王女リディアは、ポカンとした顔で父である国王の顔を見上げた。
「……え? 毒?」
「私のここ最近の不調は、お前が作った薬が原因だという報告が上がってきている。遅効性の毒が入っていた、とな」
苦しげな表情を浮かべる国王の顔を、リディアは戸惑いの目で見上げた。
「申し訳ありませんが、身に覚えがありません」
すると、国王の横に立っていた宰相が、厳しい顔で口を開いた。
「リディア様、残念ですが、証拠が複数揃っております。父である国王陛下を害そうとするなど、極刑に値しますぞ!」
リディアは困惑した。
確かに、薬師でもある彼女は、父親の薬を調合している。
でも、誓って毒など入れていないし、いつまでも健康でいてくれるように気を配っている。
(絶対に何かの間違いだわ)
自分はやっていないと主張しようとする。
――しかし。
「父上!」
「国王陛下!」
横から2人の男女、妹のヴェロニカと、宰相の息子で婚約者のギルバードが飛び出してきた。
彼らは、リディアを庇うように並んでひざまずくと、国王に向かって頭を下げた。
「父上! お姉様は今まで国のために尽くしてきました! どうか寛大なご判断を!」
「恐れながら、私からもお願い致します!」
2人の必死の訴えに、リディアは戸惑った。
(寛大な判断も何も、わたし何もしていないわ)
そう思って口を開こうとするが、ヴェロニカに小声で
「お願い! まずは私たちに任せて!」
と懇願され、口を閉じる。
ヴェロニカが真摯な表情で国王を見上げる。
「お父様。お姉様の処遇について、我々にお任せください」
「……お前たちにか」
「はい、お姉様の悪いようには決していたしません」
「私もリディアの婚約者として、お任せいただければと思います」
ギルバードも真剣な顔で頭を下げる。
国王はしばし沈黙した後、うなずいた。
「……分かった。そなたらに任せよう。頼んだぞ」
「ありがとうございます!」
ヴェロニカとギルバードが深々と頭を下げる。
両側の2人につられて頭を下げながら、リディアは首をかしげた。
(ちゃんと調べれば、間違いだとすぐ分かる気がするんだけど)
本当にこれでいいのかと思うものの、信頼する2人がこう言うということは、きっと何か意味があるのだろうと、流れに身を任せることにする。
そして、国王が謁見の間から去った後、3人は別室の立派な応接室に移動した。
ヴェロニカが、痛ましそうな顔でリディアの手を握った。
「お可哀そうなお姉様、お父様ったら酷いですわ」
「そうだよ。陛下は一体どうしてしまったんだ」
ギルバードも憤慨したような表情を見せる。
彼らの様子に、リディアはホッとした。
どうやら2人はリディアが毒を盛ったなど思っていないらしい。
彼女は首をかしげた。
「それにしても、どうしてこんな話になっているのかしら?」
「分からないけど、そう言い出した人がいると聞いたわ」
「わたし、お父様とちゃんとお話ししたいわ。それと毒の分析もしたい」
そう言うリディアに、ヴェロニカが静かに首を横に振った。
「今は止めておいた方がいいと思うわ」
「どうして?」
「お父様、冷静に話を聞いてくれる感じがしなかったもの」
「……そうかもしれないわね」
リディアは視線を落とした。
確かにあまり見ないような苦しそうな表情をしていたなと考える。
リディアの手を、ヴェロニカがとった。
「お姉様、しばらく身を隠されませんか?」
「身を隠す?」
「ええ、お姉様がいなくなっても何も変わらなければ、お父様もお姉様が毒を盛っていないということが分かると思うの。そうすれば、きっと冷静になって聞いて下さいますわ」
リディアは心配そうに言った。
「でも、わたしが調合しているお父様の薬はどうするの? 体調が心配だわ」
「大丈夫よ。そんなに長い間ではないし、それで体調が悪くなればお姉様の冤罪が証明されるもの」
「でも……」
躊躇するリディアの手をヴェロニカが再びとった。
「このままではお姉様自身が危ないわ。お願いだから、どうか自分のことを大切になさって」
ヴェロニカの言葉に、ギルバードがうなずいた。
「僕も彼女の案に賛成だよ。最近の陛下は頑固だ。少し時間を空けた方がいい」
「……分かったわ」
リディアはコクリとした。
妹と婚約者がここまで言うということは、よほど状況は良くないのだろう。
父の体調は心配ではあるが、まずは状況が落ち着くまで静かに待とう。
(きっと1カ月もすれば落ち着くわよね)
リディアは顔を上げた。
「……どこに身を隠せばいいのかしら?」
「王都から離れたところに隠れ家があるから、そこでどうかな?」
ギルバード曰く、生活できるだけの一切が揃っているらしい。
一時的に住むだけなら、とリディアはうなずいた。
「分かったわ。毒について調べたいから、お父様の飲んでいた薬を取り寄せてくれる?」
「ええ、もちろんよ」
「協力するよ」
ヴェロニカとギルバードが笑顔でうなずく。
そして、その日の夕方。
リディアは身の回りの品だけ持って、急ぎエルフ国の王都から辺境へと向かった。
本日あと2話ほど投稿します。