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03.突然の来客

 

 セレニア共和国に来てから約5カ月。

 山が赤や黄色に染まる、とある秋の午後。


 リディアは、庭でかぼちゃの収穫をしていた。


 小さな畑には、頭よりもずっと大きなオレンジ色のかぼちゃが並んでいる。

 はさみで蔓をパチンと切って収穫しながら、彼女はホクホクした。



「ふふ、甘くておいしそう」



 レオハルトがかぼちゃ好きなので、気合を入れて栽培したのだ。


 彼女は魔法の杖を取り出すと、魔力を込めた。

 かぼちゃがふわりと浮き上がる。


 そして、かぼちゃをふわふわと家の貯蔵庫に運ぶと、彼女は、ほう、と息を吐いた。



「ずいぶんと上手になったわ」



 以前の彼女は、魔力量が多すぎて、魔法の制御が得意ではなかった。

 スイカを運ぼうとして、色々なところにゴチゴチとぶつけて、果汁でべちゃべちゃになってしまったこともある。


 でも、こっちに来て家を整備したり、冒険者ギルドで魔道具の共同開発をするなどの経験を積んで、かなり上手くなった。


 彼女は次々とかぼちゃを収穫した。

 秋の青空の下、オレンジ色のかぼちゃがふわふわと浮かぶ。


 そして、最後の1つを運び終えて、やれやれと伸びをしていた、――そのとき。



 チリンチリン



 門に付いている鐘が鳴った。



(誰かしら?)



 リディアは木でできた堅牢な門に歩み寄った。

 扉に付いている小窓をパカッと開ける。



「はい、どちら様でしょうか」



 見ると、そこにはフードをかぶった細身の青年が立っていた。

 金髪に緑色の瞳の、明るい雰囲気の美男子で、目立たないが高そうな服を着ており、手には立派な杖を持っている。


 彼はリディアを見ると、驚いた顔をした。



「え、ええっと、冒険者ギルドで、ここがレオハルトさんの家だと伺って来たのですが……」



 冒険者ギルドから来たのね、と思いながら、リディアが微笑んだ。



「はい、レオハルトはここに住んでおります。あの、どちら様でしょうか?」



 青年は、改まったように姿勢を正した。



「申し遅れました、私はディーン帝国でレオハルトさんと一緒に働いていた魔法士のエルドと申します」

「まあ、一緒に」

「はい、近くまで来たので寄ってみたのですが、もしかしてご不在ですか?」



 はい。と答えながら、リディアは考え込んだ。

 レオハルトの元同僚ということは、お世話になった人ということだろう。

 さすがに、門の外で立ったまま待たせる訳にはいかない。



(レオハルトの知合いだもの、大丈夫よね)



 リディアは、頑丈な留め金を外すと門を開いた。



「今レオハルトは出掛けているので、どうぞ、中に入ってお待ちください」



 エルドが驚いたように目を見開いた。



「え? あの、入っていいんですか?」

「はい。レオハルトのお知り合いの方ですよね?」

「……はい、それは間違いないんですけど、こんなにあっさり初対面の私を家に入れいいいのかなっていう……」



 エルドが、聞こえないくらい小さな声でブツブツ言いつつ、恐縮しながら入ってくる。

 そして、花でいっぱいの可愛らしい庭と家を見て、目を丸くした。



「……すみません、ずいぶん可愛らしいお家ですが、ここは本当にレオハルトさんのお宅ですか?」

「はい、そうですよ」

「ええっと、レオハルトさんって、黒髪赤目の男性ですよね? 目付きの悪い」



 リディアは首をかしげた。



「はい、黒髪赤目です。目付きは優しいと思いますけど」

「優しい……?」



 戸惑いの表情を浮かべる青年を、リディアは葡萄棚の下に置いてある白い丸テーブルに案内した。

 椅子に座るように勧めると、「今何か持ってきますね」と、家の中に入って行く。



(レオハルトの知り合いが訪ねてくるなんて初めてだわ)



 彼は、ディーン帝国では騎士として働いていたと言っていた。

 ということは、エルド(あの人)は騎士団所属の魔法士なのだろう。



 そして、お菓子とティーセットを持って外に出て、妙にソワソワしているエルドと、


「お茶、淹れますね」

「恐縮です」


 という会話を交わしながら、カップにお茶を注いでいると、



 キィィィ



 後ろから門を開ける音が聞こえて来た。



(あら、帰って来たのね)



 お茶を注ぎながら顔を上げると、正面に座っているエルドが、門の方向を見ながら真っ青な顔で固まっていた。

 その顔は、驚きと恐怖の色で染まっている。


 背後からは、ピリピリとした冷気のようなものが漂ってくる。



(え? なに?)



 振り返ろうとすると、エルドがフードを脱いで両手を上げると、ガバッと立ち上がった。



「僕です! エルドです! 敵じゃありません!」

「……エルドか」



 後ろから低い声が聞こえてきて、張り詰めた空気がふっと緩む。


 リディアがティーポットを置いて振り返ると、そこにはレオハルトの姿があった。


 彼女はにっこりと笑いかけた。



「おかえりなさい、レオハルト。早かったのね」



 レオハルトが表情を和らげると、微笑んだ。



「ただいま、リディア。冒険者ギルドで、怪しい男が訪ねてきたというので、急いで帰って来ました」



 2人のやりとりを見ていたエルドが、

「……レオハルトってそういう顔できたんですね……」

 とポカンとした顔をする。


 そんな彼に、レオハルトが冷静な目を向けた。



「それで、どうしてお前がここにいるんだ?」

「冒険者ギルドに聞いてきました」



 エルドによると、彼は現在知見を広げる旅をしており、たまたまこのあたりに来たらしい。



「依頼をしようと思って冒険者ギルドに行ったら、“レオハルト”っていう名前の、目つきが悪くて悪魔みたいに強い男がいる、って聞いて、ピンときたんです」

「……本当か?」

「本当ですよ。この前はぐれワイバーン蹴散らしたらしいじゃないですか。超有名みたいですよ」

「……なるほど」



 レオハルトがため息をつくと、リディアの方を向いた。



「紹介します。彼は私の元同僚のエルドです」



 エルドがニコニコ笑いながらリディアを見た。



「改めまして、エルドです。以後お見知りおきを」






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