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ごきげんよう、10年間とじ込められていたエルフ姫です。  作者: 優木凛々
第2章 ローザリンデの街

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04.薬師エマ


家が完成した翌日、天気の良い朝。


リディアは1階にある明るい小部屋で、作業机に向かっていた。

机の上には試験管やフラスコなど製薬道具や、薬草などの材料が並べられている。


彼女は、魔法の杖を手に静かに詠唱した。



「“浮遊”」



薬草の材料である葉っぱがフワフワと浮かぶ。


彼女は、火魔法や風魔法を駆使して、その葉を乾燥させて粉状にした。

水魔法で出した水の玉の中にそれを入れて、空中でくるくると回す。


そして、出来上がったみどり色の液体を、瓶の中に詰めた。

栓をして、光に透かして見る。



「うん、完璧ね」



後ろで見ていたレオハルトが、感心したような声を出した。



「見事ですね。道理でエルフの作る薬は薬効が高いはずです」

「人族は違うの?」

「何度か見たことがありますが、普通に火を焚いて作っていましたよ。ほとんど魔法は使っていなかったと思います」



ちなみに、今日は冒険者ギルドに行く日だ。

薬を卸すにあたり、品質を確かめてもらうつもりだ。


レオハルトに相談したところ、エルフの回復薬は効果が高過ぎる可能性があるため、まずは下級回復薬を持っていってみてはどうかと提案された。


リディアは首をかしげた。

エルフ国でも、頼まれてたくさんの回復薬を作っていたが、作っていたのは上級や特級ばかりだった。



「下級なんて持っていったら変に思われないかしら」

「もしもそうだったら、また作って持って行けば良いと思いますよ」



何となく釈然としないものの、レオハルトがそう言うならと、とりあえず下級回復薬を作っている、という次第だ。


リディアは、最近買ったお気に入りの革鞄に回復薬をしまうと、出掛ける準備を始めた。

2階の自室に行き、緑色のクローゼット開けると、人族っぽい花柄のワンピースを取り出す。

そして、着替えて鏡の前に立つと、小さく独り言ちた。



「この洋服なら、蜂蜜色かしら」



魔法の杖を軽く振ると、プラチナブロンドの髪が蜂蜜色に変化する。

青い目は緑になり、少し尖った耳も小さな人族と同じような耳に変化する。



「これでどこからどう見ても人族よね」



リディアは機嫌良く鏡の前でくるりと回った。

革鞄を持つと、下にトントントンと降りていく。


下ではレオハルトが待っていた。

冒険者風の服を着ており、マントを羽織り、腰に剣を下げている。

もともとの容姿の良さも相まって、とてもかっこいい。


彼はリディアを見て、大きく目を見開いた。



「驚きました。その髪と耳、魔法ですか?」

「ええ、そうよ。そんなに長くはもたないけど、これなら目立たないかなと思って」



どう? と彼の前でくるりと回ると、レオハルトが片手を額に当てて打ち震えた。



「……完璧です」

「本当?」

「ええ、もう冒険者ギルドになんて行かないで、どこかに一緒に出掛けたいくらいです」



リディアはくすくす笑った。



「レオハルトもかっこいいわよ。きっと女の子たちからモテモテね」



リディアがそう褒めると、レオハルトが真顔になった。



「リディアがいるのに、そのへんの女性が目に入るはずがありません」

「ふふ、ありがとう、嬉しいわ」



リディアが素直にお礼を言うと、レオハルトが何とも言えない表情で苦笑いする。


そして、2人は家に鍵をかけると、街に向かって歩き始めた。

森を抜けると石畳の道が続いており、どんどん家や店が増えていく。


大通りに出ると、道行く人が驚いたような顔で歩いている2人を見た。

思わずといった風に立ち止まる男性や、頬を赤く染める女性もいる。


リディアは感心した。



(まあ、レオハルトったらモテモテね)



かっこいいものね、と思いながら横を見上げると、彼はどこか不機嫌そうな顔をしていた。

「だから嫌だったんだ」といったつぶやきが聞こえてくる。



(まあ、レオンハルトったらモテるのが嫌なのかしら)



そんなことを考えながら歩いていると、正面に大きな建物が見えてきた。


『冒険者ギルド』


という看板がかかっている。



「ずいぶん大きいのね」

「ええ、食堂や店が入っているようです」



そして、レオハルトに木の重そうな扉を開けてもらって中に入ると、そこは吹き抜けの広い空間だった。

テーブルやカウンターが並んでおり、武器を持った鎧姿の人がたくさんいる。



(広い!)



リディアがポカンとしていると、若い鎧姿の男性が何気なくリディアを見た。

大きく目を見開いて、雷に打たれたかのように立ち尽くした。



「おい、急にどうしたんだ?」



彼と話をしていた別の男たちが、その視線を追ってリディアに目をやり、同じように驚いた顔をする。


リディアは慌てて髪の色を見た。

もしかして魔法が切れたのではないかと思ったのだが、変わらぬ蜂蜜色だ。

耳を確認してみるが、ちゃんと魔法がかかっている。


不思議に思っていると、レオハルトが黙ってリディアの前に出た。

リディアを見ていた男性たちが、レオハルトの表情を見て、慌てて目を逸らす。



「どうしたの?」



リディアが尋ねると、レオハルトが微笑みながら振り返った。



「いえ、何でもありません。ちょっと分からせてみただけです」

「……そうなの?」



レオハルトの後に付いてカウンターに行くと、感じの良い女性が笑顔で出迎えてくれた。



「ようこそ、冒険者ギルドへ。役場から聞いていますよ」



そして、奥に向かって「エマ!」と声を掛けると、白衣姿の若い女性が出て来た。

濃い茶色の髪と目をしており、度の強そうな丸眼鏡をかけている。



「こちら薬師のリディアさんです。お薬見てあげてもらえますか」

「はーい! 分かりました!」



エマはリディアにぺこりと頭を下げた。



「所属薬師のエマです! よろしくお願いします!」

「リディアです。こちらこそよろしくお願いします」



リディアも慌てて頭を下げる。


そして、レオハルトに見送られながら、エマに続いて奥へと入った。


奥は木の廊下になっており、両側に扉が並んでいる。

エマは、その一番奥の扉を開けると、「どうぞ!」と言いながら中に入った。


中は意外と広いながらも雑然としており、作業机や瓶がギッシリ詰まった棚が置かれている。


リディアは棚に並んでいる薬草の入った瓶をながめた。



(見たことのない薬草があるわ)



何かしら、とワクワクしながら見ていると、エマが引き出しから大きな温度計のようなものを取り出して机の上に置いた。



「リディアさん、お薬持ってきてくれました?」

「はい。これです」



リディアは鞄から作ってきた回復薬を出して、コトリと机の上に置いた。


エマが「失礼します」と言って、瓶を持ち上げて窓に透かす。



「かなり出来が良さそうですね。効果を計ってみましょう」



エマの話では、温度計のような道具は「効果計」と呼ばれる魔道具で、回復薬の効果が計れるらしい。

見ると、目盛りのところに、「下級」「中級」「上級」「特級」と書かれている。



(あら、初めて見たわ)



これは便利そうね、とながめていると、エマが慎重に薬瓶を開けた。

瓶を軽く傾けると、効果計の端の部分に薬を数滴たらした。


効果計が軽く光り、バーの部分が下からゆっくりと色が変わっていく。

エマが嬉しそうに言った。



「あ、下級を突破しましたね。これは中級かもしれませんよ」

「そうなんですね」



リディアはゆっくりと変化するバーをながめながら、ホッとした。

レオハルトの言うことを聞いて下級を持ってきて良かった、と安堵する。



(なるほど、エルフの作る薬の効果が高いというのは、こういうことなのね)



人族が作るものよりも一段階くらい効果が上なのかもしれない。


しかし、中級を過ぎてもバーの色は変わり続けた。



「すごいですね! もしかして上級行っちゃうかもしれませんよ?」



などと元気に言っていたエマも次第に無言になっていく。


上級を過ぎてもまだ伸び続ける目盛りを見ながら、リディアは不安になった。

これは、一体どうなるのだろうか、と。


そして、沈黙の中、バーの変化が止まり、



「ええっと、と、特級?」



呆然としたようなエマの声が、部屋の中に響いた。





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