表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ごきげんよう、10年間とじ込められていたエルフ姫です。  作者: 優木凛々
第2章 ローザリンデの街

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/41

02.セレニアへの旅

 

 セレニアへの旅は順調に進んだ。


 最初、馬に乗ることになったと聞いて、リディアは少し怯えた。

 馬は好きだが、これまで馬車にしか乗ったことがなかったのだ。


 先に乗ったレオハルトに引き上げられ、横向きに座ったリディアは思わず声を上げた。



「こ、こんなに高いのね」



 初めは怖くてレオハルトにしがみついていたが、徐々に慣れ、景色を楽しめるようになった。

 10年ぶりに見る外の世界はすべてが新鮮で、木々の緑や咲き誇る花、春風の心地よさにリディアは目を細めた。



(外って、こんなに素敵だったのね)



 そんなリディアを、レオハルトは嬉しそうにながめる。



 その後、森をしばらく歩くと街道が見えてきた。

 レオハルトが口を開いた。



「そろそろ人がいる場所に出るので、顔を隠した方が良いかもしれません」

「そうなのね。やっぱりエルフは目立つのかしら?」

「それもありますが、リディアは綺麗ですから」



 真顔で言われ、リディアはくすりと笑った。

 人族から見るとエルフは美人に見えると聞いたことがあったが、その噂は本当だったらしい。


 そして、フード付きのローブはないかと言われ、彼女は困った顔をした。



「持っていないわ」

「そうですか」



 レオハルトは少し考えたあと、自分のマジックバッグから黒っぽいマントを取り出した。



「どうぞ。大きいと思いますが、私の腰までの丈なので、着れなくはないと思います」

「ありがとう」



 リディアはお礼を言うと、マントを着込んだ。

 レオハルトにとって腰までらしいそれは、リディアの膝くらいまである。



(ブカブカだわ)



 彼女の姿を見て、レオハルトは手で口を隠しながら横を向いた。

 よく見ると肩が震えている。


 リディアは赤くなった。



「そんなに笑わないでよ!」

「笑っていません。予想以上の破壊力に正気を保つのが精一杯なだけです」



 彼の言葉に、リディアは首をかしげた。

 何を言っているのだろうとは思うが、多分人族の間の何か冗談のようなものだろうと考える。


 その後、2人は再び馬に乗って街道に出た。


 道すがら、レオハルトにそれとなく連絡しておく人はいないのかと問われて、リディアは「いないわ」と答えた。

 10年も放置されていたのだ。きっとみんな自分がいなくなったことにすら気が付かないだろう。

 ただ、当時いなかった従姉だけは心配しているかもしれないから、落ち着いたら連絡しようかとも考える。



 そして、夕方近くになり、2人は小さな街に到着した。


 街に入って、リディアは思わず立ち尽くした。



「すごい!これが人の街なのね!」



 石造りの家々や見たことのない屋台が並び、その間を人々が忙しそうに歩いている。

 本で読んだことはあったが、こんなに活気があるとは思わなかった。


 その夜、2人は宿に泊まり、夕食をとることになった。


 人族の料理は野蛮で美味しくないと聞いていたため不安だったが、出てきた野菜中心の料理は驚くほど美味しかった。

 さすがに肉は無理だったが、レオハルトが食べてくれたお陰で、リディアは心置きなく野菜をぺろりと平らげた。



「美味しかったわ。人族の料理ってこんなに美味しいのね」

「そうですか、それは良かったです」



 レオハルトは満足そうに赤く涼しげな目を細める。


 翌朝、リディアは巨木ではない場所で目を覚まし、安堵した。

 外に出られた喜びをかみしめながら「レオハルトには感謝しかないわ」とつぶやく。




 その後も2人は旅を続けた。


 途中、彼らは大きめの街でリディアの目立たない服を買った。


 レオハルトに代金を払ってもらい、リディアは申し訳なさを感じた。

 何からなにまで全部頼ってしまうのは何だか申し訳ない。


「どうしたら良いか」と尋ねると、彼は考えた末、こう答えた。



「思い切り頼って甘えて欲しいところですが、どうしても気になるなら、出世払いはどうですか?」

「出世払い?」

「ええ、薬屋を開いて儲かったら、というやつです」

「分かったわ。ありがとう」



 そんな会話をしながら、リディアは感心した。

 彼は気遣いができる本当に素敵な大人になった。




 ――そして、旅を始めてから1週間後の夕方。


 2人は森に囲まれた街道を進んでいた。

 リディアが夕暮れの空に浮かぶ薔薇色の雲をながめていると、レオハルトが前方を指差す。



「国境です」



 その方向を見ると、遠くに夕日に照らされた石の城壁が見えた。

 近づくにつれて人や馬車が増えていく。


 そして、2人は馬を降りて、国境を超える行列にならぶことしばし。

 門番の軽い質問に答えてお金を払った後、2人はセレニアの地に足を踏み入れた。


 再び馬に乗って街道を歩きながら、リディアは周囲を見回した。



(あまり変わった様子はないのね。でも、街道の作りが違うかしら)



 ここに来るまでは石畳だったが、こちらは土の道だ。

 レオハルトにそれを言うと、ディーン帝国は公共事業として道を整備しているが、セレニア共和国にはそういった仕組みがないらしい。


 リディアは感心した。

 これまで旅してきた時も思ったが、レオハルトはとても博識だ。


 そして、リディアがこれからどうするのかと尋ねると、レオハルトが地図を取り出した。

 受け取って広げると、それはセレニアの地図だった。

 所々に家のマークが書いてあり、横に村や街の名前が書いてある。



「そこに書いてある街は、比較的大きな街ですから、行ってみて、気に入ったところに住むのはどうかと思っています」

「まあ、そんなことができるの?」

「この国では、手に職があればどこも大歓迎なんです。リディアは薬の知識があるし、私は剣が使えるので、何の問題もないかと」

「そうなのね」



 リディアはわくわくしながら地図をながめた。

 近くにある街を指差して、「ここはどうかしら」と言う。



「森も近いから、製薬の材料には困らないし、住むならこういう場所がいいと思うわ」

「では、まずは行ってみましょうか」

「レオハルトはここでいいの?」

「ええ、私はリディアがいればどこでもいいですから」



 リディアはくすりと笑った。

 気を遣わせまいと言ってくれいるのだろうが、その心がとても嬉しい。


 夕暮れの中、2人は楽しく話をしながら最寄りの村に向かって馬を進めた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ