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世界大戦  作者: 閉閉
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ようこそ

異世界転生。この御伽噺は我々人類に夢を与えてくれた。それはここではないどこかの世界でなら自分は活躍できるのだという勇気なのかもしれないし、こことは違う世界を想像することによって得られる快楽や安心といったものかもしれない。どちらにしても、夢は夢である。簡単に言葉にはできないし、言葉にしてしまったとたんにその価値が薄れていくような気がしてしまう。そんな夢物語を追いかけた人たちが、この国には存在した。


「支倉先生、そろそろ時間になりますよ。」

モニターとキーボード、その他機械類がずらっと並んだ部屋で、その女性は今にも目をつむりそうな隣に座っている支倉選に声をそっとかけた。彼はこの研究の第一人者といっていい。そんな重要なポジションにいる彼だが、そんな素振りは全くなく、その辺を歩いていても彼だと気が付くのに時間がかかりそうな、そんなオーラのない人だ。だがそんな彼のそんな一面を、彼女は好意的に思っていた。


「おや、凛くん。もうそんな時間だったか。」


「おや、じゃありませんよ。この研究には莫大な資金と期待がつぎ込まれているんですから。失敗でもしたら私たちともども地獄行き。家族にだって顔向けできませんよ。」


隣の支倉の肩をゆすりながら、林凛はこれまでの自分たちの苦労と努力を振り返っていた。この研究についたばかりの彼女と今の彼女では、色々なことが変わりつつあるが、その影響のほとんどが、この支倉先生によるものだ。いままでちっともつまずくことなく歩んできた人生に、ちょっとしたハプニングを与えてくれた存在だ。平坦な道は歩き疲れたと感じていた凛にとっては、彼との出会いは運命とも呼べた。

そんな昔を回想する暇もなく、約束の時間は迫っていた。


「それじゃあ、そろそろゲートを繋げようか。」

淡々と、何度も予行していた行動をこなしその時は着々と近づいて行った。


「僕は初めてじゃないけど、凛君は確か初めてだったよね。」

ゲートの前で立ち止まり、振り返って支倉は凛に問いかける。

「何言ってるんですか。人類史上、支倉先生以外にいまだにここをくぐった人はいませんよ。」

これからの期待と緊張を胸に抱えながら、いつもの調子で話しかけてくる目の前の人間に少し安堵をもらったような、そんな気を凛は感じていた。


「それじゃ、出発しようか。」


全ては順調。なぜなら準備は万端だから。


だがどんな時代のどんな時でも、イレギュラーとは起こるものである。

そんなイレギュラーを知ることになるのは、もう少し先のお話になるが。






いつものように満員電車に揺られながら、林悠は通学していた。今日もいつもと何ら変わらぬ日常。こんな窮屈な空間に長時間閉じ込められ、全く知らない人と至近距離でい続けることによって生じるストレスについて誰か論文の一つでも書いてくれないものか、そんなどうでもいい妄想を膨らませているうちに、電車は学校の最寄り駅に到着していた。なんとなく憂鬱な気分にさせてくるこの時間も、友達や見知った顔を見るといつもの自分になろうと自然とリセットされてしまう。今日もそのリセットの時間がやってきた。


「おはよー、悠。全く今日もアチィよなぁ。ただでさえ満員でむさくるしいっつうのに、いったいこの時間に乗ってくる年寄りどもはどうなってんだよ。」


そう話しかけるのは同じクラスの新田創。クラスメイトであり一番仲が良いといっていい。今日も心の声前回で豪快な挨拶に、悠は笑顔にならざるをえなかった。


「最近定年も引き上げになるっていうからね。」


「いやいや、あいつら絶対働いてない年齢だろ、どうせ競馬とかパチンコとかにでも行くんだろ」


「そうかもね。そういう人に限ってマナー悪かったりするし」


そんな他愛ない会話が駅から通学路まで繰り広げられ、気づけば学校の教室である。冷房の効いた涼しい空間が迎えてくれることで、学校へ来てよかったという気持ちを錯覚させてくる。


「おー、二人とも、おはよっ!」

元気な挨拶で迎えてくれたのは印南雪奈。いつも元気すぎていつどこで休息を設けているのかが気になる女子生徒ナンバー1だ。


「お前は朝から元気でなぁ。こんな暑い日でも」

流れ作業のような挨拶ののち、創は一言付け加えた。


「こんな日だからこそ、でしょ?暑くても寒くても、私は元気が売りだもん」

誇らしげに雪奈は言った


「なんだそのメタい発言は、キャラ作りするような性格でもないだろ」

席に座りつつ、悠はあくびをしながら返した。


朝の日常会話もネタが尽きたころ、教室には次第に人も集まり始めた。朝のチャイムが鳴るまではまだ時間があるが、いつもそれよりも15分ほど前には教室に到着するはずの先生がいないこと以外は、変わらない。そう思っていたが、チャイムが鳴り響いても、一向に先生は現れない。


「あれ、先生来ないじゃん。」


「うーし、あいつもそろそろ熱中症で倒れるころだと思ってたんだよ」


「取り敢えず、職員室まで様子見しに行ったほうがいいのかな」


思い思いの言葉を生徒同士が言い合っているさなか、異様な足音とともに、教室の扉がゆっくりと開かれた。


誰もが先生が入ってくると、そう感じていながらも、薄々感じていた違和感の正体を生徒達は目の当たりにすることとなった。

その姿はまさに狼人間。顔は今にも肉を食らいそうな狼に体は漆黒の毛におおわれているが、その等身は人間そのもので、二足歩行である点が奇妙な違和感を感じさせる。


それが教室に足を踏み入れた後、教室には凍てつく空気が流れ始め、誰も何も、悲鳴すら上げることは許されなかった。


もうその時には死んでいたのか、あるいはまだ命はあったのか。彼らが目を覚ますころにその記憶があるのかどうか。それはその場にいた異形のモノのみが知りえることだと、教室にいるすべての人間に感じさせた。


その狼は、一言二言言葉を発していた、だがそれを聞き取れる人は教室にはいなかった。

なぜならほとんどすべての生徒は気絶していたからだ。


その異様な光景を見ながら、その狼と目が合ったことを最後に、林悠は意識を手放した。





林悠と新田創が目を覚ましたころには、二人は小さな馬車のようなものの中で揺られていた。


最初に目を覚ました悠は、あたりを見渡し、まだ自分が生きていることを確信した。だが、周りのものや流れてくる匂いから、今いる場所がいままで生活していた範囲からはかなりかけ離れているのではないかという予想ができた。


ここでは何が起こるかわからない。記憶にこびりついた異形の姿が何度も脳裏にちらつく。

このままでは心細いので、最新の注意を払いつつも、友人を小声で起こすことにした。


「おい、創、起きてる?何がどうなったかわからないけど、一応は生きてるみたいだけど」

どうやら目は覚ましていたようで、ゆっくりと創は顔を上げた。


「何がどうなってんだよ。俺たちこれから誘拐とか、人身売買とかそんな感じのやばい人生たどることになっちまうのか?」


小刻みに体を震わせながら小声で二人は会話を続けていると、その馬車にもう一人乗っていることに気が付いた。薄暗く最初は見えなかったのだ。


「おや、ふたりとも目が覚めたみたいだね。良かった。大丈夫だ。二人に危害を加えるようなことはしない。ここへ連れてくるまでにちょっとしたいざこざに巻き込まれちゃったみたいだね。話は大方聞いているよ。」


ブロンズの長い髪に重そうな鎧を身にまとい、腰には銃剣のようなものを携えていた。見るからに軍人ではあるが、その姿はまるで戦場の女神のような雰囲気が漂っていた。

なんと返事をしてよいのか二人とも戸惑っていると、その女騎士が再び話し始めた。


「今はまだ何が何だかという感じだろう。そのうち分かってくると思う。そうだ、紹介が遅れてすまない。私はジン・アルフォード・アミロという。長いからアミロと呼んでくれていい。昔はこの国の騎士団長をやっていた。今は引退した身だが、色々と有事にこき使われているというわけだ。質問があれば何でも聞いてくれ、といっても今は聞けるような状態ではないかもしれないが」


アミロ、そう名乗った女性は見たところこちらには友好的らしい。質問と言われ頭の中で数々の疑問がわき、だんだんと落ち着かなくなっていた悠だが、そこで創が質問を投げかけた。


「えーっと、わざわざ自己紹介どうも?なにが何やらわからないんですけど、そもそもここはどこなんすかね」

こういう時にズバッと聞いてくれるところが彼の強みだな、と悠は感心した。


「ここはアルフォード国の北側の地域にあたる。普段は民間人は立ち寄らない場所だが、訳あって君たちを護送しているところだ。これからそのアルフォード王国首都へと馬車で向かっているところだ。

そうだな、君たちの世界でいうとこの、


異世界になるかもな」



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