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来年の今頃には / 前編

- 原稿用紙換算で46枚分です。

 まるで昨日の続きのような今日だった。


 太陽の日差しも、空気の香りも時間の流れ方でさえまるで昨日の続きのような今日だった。


 だから私は明日もそのまま、今日の延長線上にあるかのような一日が始まって、終えて、また今日のような日を太陽が連れてくるんだと思いすらしないほどに信じて疑わなかった。


 いや、信じて疑わなかった、というのは適切ではないかもしれない。


 当たり前にそうなると無意識に受け入れていることを、信じるとは表さない。


 何も考えず、ただ黙々と昨日と同じように過ごすだけ。きっとそんな毎日が積み重なって、いつの間にか知らないことを知り、ある時振り返って今日のことを思い出して、あの頃より少しは成長出来たかなと、成長していたいなと、毎日の延長線上にある微かな成長の糸口を私なりに手繰り寄せていく、なにも変わらない日常が昨日から今日、そして明日から明後日、そして来週来月来年と、私なりの一歩ずつに意味を持たせられるように、ゆっくりかもしれないけれど成長を重ねていくんだろうと、今にして思えば年齢に不相応なことを達観した気持ちで、まるで知っている小説や映画の結末と同等に昨日と今日と明日を過ごすつもりでいた。


 だから私は、その日もお兄ちゃんの背中にまとわりついてワガママを言っていた。


『おにいちゃん! わたしに不満をぶつけ続けた。


 五月。ゴールデンウィーク二日目。晴天に白い雲がのんびりと流れ行く昨日のような今日だった。


『みきもバイク乗ってみたい!!』


 粛々と準備をする兄の背中におなかから出す大声でまくし立てる。


『そうだね』


 兄は苦笑しながら、私の欲求に背中を向けたまま応える。


『でも海姫にはまだ早いからなぁ』


 とやんわり拒否してくる。いつもそうだ、兄は優しい、家では良く話し相手をしてくれる。


 歳の離れた兄妹だから喧嘩はしないし、わたしが一方的に大人の世界にいる兄に憧れて、行動しなければ経験できない経験をしたいからと、いつものように食いついていく。


『そうだね、海姫がもう少し大人になったら連れて行ってあげるよ』


 うーん、と宙を仰ぎながら、そんなことをいう兄。


『やだ! 今日がいい!!』


 負けるものか。私は兄がツーリングに行く度にこうして直談判している。もう何回目かも覚えていない。


 それこそ、いつかの続きのように変わらない気持ちをぶつけていく。


『でも一緒に行く人は海姫が知らない人ばかりだよ?』


 兄はいつも通りのことを口にする。


 私は当時、引っ込み思案ではあった。内弁慶というべきか。家族や親戚にはまだ素でいられるけど、面識のない人、それも兄と同じくらいの男性には取り分け苦手意識があったと思う。兄のような包み込むような優しさは感じず、威圧的に感じて怖かった。


『でもおにいちゃんがいるし! 大丈夫だもん!』


 しかし引き下がることはあまり念頭にはなかった。


 私の強固な態度に困ったなぁと呟きながら後頭部をポリポリと書いて、いつも通りの文法で諌めてくる。


『海姫がもう少し大人になったら一緒に行こうね』


 まるで、昨日の続きみたいな変わり映えのしない言葉。


『もう少しっていつ!』


 苛立つ私にそうだね、と前置きして、兄はいつものように応える。


『来年の今頃には』


 そしてそれを聞いて深い絶望に陥っていく。何度目の来年を迎えれば良いのだろう。


 昨日と同じような今日、そして明日が山積していく365日後頃なら良いという理屈がわからない。


『またそれ?』


 私は悲しくなって声のトーンを落とした。


 兄は困った表情のまま振り向いて、私の頭に手を置く。


『危ないからね。でも来年の今頃なら、いいよ』


 そういって、指切りのための小指を私に差し出してくる。


 その小指はいつもと変わらないから、膨れっ面で抵抗を試みると困った顔で差し出し続けられるから、いずれ私が折れるしかない。


『……わかった。絶対だよ!!』


 詰め寄る私に苦笑して勿論だよ、と答えて小指を絡めて約束を固める。


 もうそこまでされたら仕方がないから、せめてもの抵抗で不満げな目線と、固く結んだ唇で兄の出立を見送る。


『それじゃあ、行ってくるね』


 兄はヘルメットを小脇に抱えて立ち上がると、半身を翻して私に手を振る。


 それを睨みつけながら「いってらっしゃい!!」と怒りを隠さない声色で送り出すと困った顔で苦笑しながら私に背を向けて玄関の向こう側に消えていった。


 玄関の扉がパタン、と閉じた。


 まるで昨日の続きのような今日だった。


 太陽の日差しも、空気の香りも時間の流れ方でさえまるで昨日の続きのような今日だった。


 だから、私は明日もそのまま、今日の延長線上にあるかのような一日が始まって、終えて、また今日のような日を太陽が連れてくるんだと思いすらしないほどに、なにも変わらない日常が昨日から今日、そして明日から明後日、そして来週来月来年と続くことを待つだけの今日だった。


 それがそうではないと思い知ったのは、その日の夜、警察からの連絡で、兄が事故で病院に収容されたとの一報を受けた父母に連れられて家を飛び出した時だ。


 昨日の続きのような今日は、実は昨日とは違う今日だったと思い知ったのは間もなくして息を引き取った兄の顔に白い布がかけられた、現実とも思えない現実をこの目で見届けた瞬間だった。


 来年の今頃には。


 どんなに信じても、どんなにその約束の無責任を思いつく限りの幼い罵詈雑言で罵っても、来年の今頃には兄はもういないし、約束は果たされないのだと声をあげて泣くことしか出来ず、そして今もまだこの時から変わらず、生涯塗り替えられそうにもない深いトラウマとして胸に刻まれている。


 昨日のような今日を明日を迎えられると信じなくなったのは、この出来事があったからだ。


 だから私はもう、今日出来ることを明日には伸ばさない。


 明日の朝が平等に全人類に訪れるなんて、普通ではなくて奇跡なのだ。


 普通が訪れる今日が、明日が、来週が来月が来年が当たり前だなんて信じない。


 信じて疑いようがないものほど裏切られてしまった時の喪失はもう、味わいたくない。


 私は今はもう、遠い昔となって痛みは伴わない傷痕に変わってしまった思い出をこの日は耐えがたい痛みを伴うことも承知で思い出す。


 お兄ちゃんの墓前で手を合わせながら。


 今日もあの日の続きのような青空が広がっている。けれど私はもう、これは同じ空ではないことを知っている。兄のいない世界があの頃となにも変わらないかのような顔をして、淡々と時が流れるに任せて、今もこれからも変わらないペースで流れていくことに、心を折られない。負けない。


「……またくるね」


 私はもう一度花を活け直すと墓石に背を向けた。困ったような眉の形を作りながら笑う兄がまたな、と私の背中を見送ってくれているような気がして、見守られているような温かさと、同時に二度と会えない隔絶に鋭利な冷たさを感じながら、来た道を逆に進み駐車場に着くと、目の前にはあの頃憧れた忌まわしきバイクがあった。


 兄が乗っていた機体と全く同じものではないけれど。


 ヘルメットを被り、バイクに跨る。


 免許を取るに際して両親の反対はあった。私自身も怖い気持ちが全くなかったといえば嘘になる。


 だけど兄が好きだったものを知りたかった。兄が好きだったものを嫌いなままでいたくなかった。私はもう、兄について回ってばかりいる弱い女ではないと証明したかった。兄はきっと、褒めてくれる。喜んでくれると信じている。


 少し振り返って、兄の眠る場所を眺めた後、私はバイクを走らせた。


 あの頃憧れていた風を感じながら、私は今の私の居場所に帰っていく。


***


「た、たぶん……」


 この俯いて上目がちに私を見上げ、ボソボソと弁明する顔面の可愛い親友は久川瑛という。


 更に女には性格が可愛い女と可愛くない女がいるけど、瑛は前者。これを細分化すると、あざといのと天然のがいるけど、この子は天然である。その手の逸話には枚挙の暇がないという点で彼女の右に出る者も肩を並べる者もいない。少なくとも私のこれまでの人生にはいないタイプの友人で、ここだけの話、実はかなりこの子が気に入っていたりする。


「どの位の確率で?」


 私は自身なさげに多分、とつぶやく瑛に手応えの程を確認する。


「よ、よんじゅ……」


「それで満足するんだ?」


 低めの見積もりを提示しかけて来たのですかさず喝を入れる。


「そ、そういうわけじゃないけど……」


 これが漫画なら、しゅん、という擬音がつきそうな構図である。


「で、それはいつ頃になるのかしら?」


 私は意図的に柔和な微笑みを浮かべて更に確認する。


「……っ!」


 私のこの天使のように優しい笑顔を見てビクッと肩を振るわす瑛。失礼だな?


「ら、来年の今頃には……」


「……」


「そうなっていたら……良いなぁ? なんて……」


 明後日というよりまるっきり来年の今頃の方角を見てえへへ、と誤魔化すように笑う瑛。


「整理しましょうか」


 優しくしてもダメだと分かった(というより分かってはいたが、なんとなくこういうやり取りが私たちらしい)ので、胸の前でぽん、と柏手を打って続ける。


「多分? 来年の今頃には? 40%の確率で? たっちんと今より仲良くなっているだ、ろ、うと?」


 彼女の口から出たワードと、語尾のだろう、を殊更に強調して復唱してみた。


 バツの悪そうな顔をして、う、うん、と頷く瑛。


「その根拠はお花見の……」


 と言いかけたところで「わー!!!」と今日一番の大声でかき消してくる瑛。


「それ以上は!」


 なにとぞ! と、顔を真っ赤にして小声で命乞いをしてくる。


「あのね、瑛」


 はぁ、と頬に手を当ててわざとらしくため息をつき明確に呆れているという感情を押し付ける。


「その程度で今時の大学生がどうこうなるわけないじゃない」


「だ、だから40パーセントなんだもん……」


「へぇ」


 意外に間髪入れず言い訳して来た瑛に短く相槌を打つ。言いたいことは十二分に伝わるはずだ。


「でも、ほ、ホワイトデーだって……」


 もにょもにょと何事かを口にしているけど同じタイミングで私も話し出してしまったので、瑛よりワントーン大きい声で発言を続ける。


「まあエイプリルフールにねぇ? 手なんて繋いじゃってねぇ?」


 と、先月目の前で繰り広げられた小っ恥ずかしい……、もとい、初々しいふたりの触れ合いを俎上にあげてニヤニヤしてみる。先ほどの命乞い虚しく突き付ける唐突な私刑宣告。


「〜〜〜!!!」


 言いかけていた言葉を飲み込んでまん丸い目を更に大きく見開くと、次の瞬間には両手で顔を隠して悶え苦しむ瑛。耳まで真っ赤になっているから手のひらの下の最新の表情は想像に難くない。


「まあ"四月決戦"は瑛の成長も少しだけど見られたし、これからにも期待しておくわ?」


 充分イジって遊んだので、そろそろ話を収束させていく。


「兎に角、攻撃の手を緩めちゃダメ。常にアピールし続けなさい? 明日があるとか思っちゃダメなんだから。大丈夫、たっちんに浮いた話なんて聞かないし、私から見ても瑛たちもまあまあ雰囲気出て来てるから」


 と、素直な感想を告げるとさっきまで隠していた顔を上げて「本当?!」と詰め寄ってくる。私は残りのコーヒーを一口啜りうんうん、と首肯しておく。


「瑛は可愛いんだし、自信を持ってアピールあるのみよ」


 かくして、このゴールデンウィークを有効に使ってたっちんをどのように攻略していくか、喧喧諤々とした議論はこのような形で平和な解決を迎えたのであった。


 穏やかな青空と白い雲。来年の今頃に思いを馳せる親友に口では意地悪を言いつつ、心の中では頑張れ、とエールを送った。


***


「来年の今頃には、か……」


 兄のお墓参りの後だったからか、少しだけそのあり触れているはずの表現にチクリと心が痛んだ。


 恋する乙女にとって来年の今頃を夢見ることは何らもおかしいことではない。けれど、そんな風にのんびりと構えて欲しくない。そう思うのは、私のエゴだろうか。


 恋の進展は、その二人によって必要な時間は違うのだから何も急がせる必要まではないのだけれど、見ていてもどかしい気持ちになる。


 これは女の勘だけど、二人は良い線行ってると思っている。


 なんだか、二人が並び立って一緒にいる姿は想像出来るのだ。


 それはそれは、大層ほわほわなカップル、思い遣りに満ち満ちた関係を築ける二人だと思う。


 瑛もたっちんも、相手を尊重するタイプの人類だ。でなければ、二人を引き合わせようとは思わなかったし、一歩一歩でも着実に仲良くなっていく二人を見て、その読みは間違ってないと確信を持っている。


 しかしまあ、今時珍しい程に奥手な二人だから、何かキッカケが生まれたら良いなと思うところだ。


 まあしかし、今年の頭頃から、メールで良い感じの関係を構築している雰囲気はなんとなく察している。


 バレンタインも無事? 乗り越えていたし、エイプリルフールは詰めは甘かったが、瑛が自分自身の決断で計画を立てて前進しようとした成長はなんだかんだ嬉しかった。


 結果として望外の成果を得たわけだし、もにょもにょ言ってたけれど、ホワイトデーにもなんだか良い感じのイベントが発生した様子だから、折を見て聞き出す必要がある。


 楽しんでいるわけじゃないけど、情報をしっかり整理することで、確度の高い予測が出来るはずだ。


 それはきっと、瑛にとって望ましい来年の今頃を迎える手助けになるのではないだろうか。


 でも私は叶わない約束がどうしようもなくこの世には存在することを痛いほどに、忘れられないほどに知っている。


 だから、事あるごとに発破をかけたくなる。相談に乗っているのだから、そのくらいは大目に見てほしいまである。


 あくまで私の主観だから押し付けないけど、果たせなかった約束は、やらなかった後悔はいつまでも心にこびりついて離れないものだ。大切な親友に似たような絶望を感じてほしくない。


 本当に、今時珍しい純情な二人なのだ。願わくば結ばれて欲しい。


 ひとまず、明日二人はデートをするようだから、それが関係の前進に繋がるような出来事を運んでくれることを祈るばかりである。


「とりあえず……」


 私は今し方思い付いたミッションを瑛に課す。メールを開いて取り敢えずの目標を指令する。


『明日のデートはこけた風を装って抱きつくこと! 流れでそのまま腕でも組むか、最低でも手を繋いで過ごすこと!』


 我ながらおせっかいだなーと思いつつ、たっちん攻略指南を伝授する。


 いくら奥手でも、ボディタッチや隠しきれてもなく、嘘偽りも感じられない好意を畳み掛けるようにぶつけられたら、歳頃の男の子なんだから、色んな意味で少しは恋心も動くってものでしょう。たっちんに限って無茶なことはしないと信頼しているから、少しくらい女の武器を活用するのは、きっと二人の今後にとって悪くない選択のはずだ。


 などと考えていると光の速さで瑛から無理無理無理! とホイップクリームをたっぷり乗せた厚手ふわふわのパンケーキにメープルシロップを三倍おかわりしたより甘ったれた及び腰のメールが返ってくる。


 こんなことは想定内だけど、私は私の経験とポリシーで毅然と向き合っていく。


『来年の今頃にはっていうけど、その365日でたっちんの良さに気づく女の子がいるかもしれないよ? 瑛より積極的だったらどうするの? たっちんも男の子だから、少しのキッカケで気持ちが変わっても責められないし、頑張らなかった後悔はいつまでも消えないよ』と、正論で張り倒していく。


 恐らく受信したメールをみてぐぬぬ、と悶え苦しんでいるだろう。


 まあ、それで良い。


 そうして人は成長するものだから。


 繰り返すけど女の勘が二人は付き合うと予感させている。余程のことがない限り、きっと大丈夫だと思う。だから後はお互いが自信を持って恋心に向き合えるか、それ次第だと強く思う。だから私のアドバイスはアピールあるのみ、一貫している。


『じゃーもうたっちんとの思い出作る機会がなくなるかもしれないよ? 今が一番若いんだから、突き進みなさい!』


 発破を気持ちの上では六十四回程かけてメール送信。後は瑛次第。


 程なくして短い沈黙の後、瑛からのメールは果たして『……明日のデート、助けて?』なんていう他力本願にも程があるメープルシロップ以下略の甘垂れヘタレ意気地なしなもので気が抜けてため息しか出ない。


 とはいえ海姫さんは何を隠そう面白いことには目がないので、表面上は面倒くささマックスを装って『お茶一回分』とだけ返信した。


 そして貴重な休みを費やしたくないのでメールでアドバイスすることを併せて突きつけた。瑛はケータイの向こうで平身低頭で承諾して、明日の服装を決めさせて頂きますと返事してきたきり、音信不通となった。


 私はふう、とため息をひとつついてから、ベッドに横になった。


 ……お兄ちゃん、私少しはお兄ちゃんみたいに優しく出来てるかな?


 天井を仰ぎながら目を閉じて、少しだけ、兄の顔を思い浮かべていた。もう彼の匂いは蘇ってこず、線香の香りが臭覚に蘇ったような気がした。


***


 等とひと息ついたら、すぐさま次の行動を起こす健気な私。


『たっちんおつー。明日は瑛に男らしさ見せてエスコートするのよー』


 私と瑛の関係性を知っているたっちんに根回しをしておく。


 そうしてしばらく課題に取り組んで過ごしていると返事が届く。


『とはいえ女の子が喜ぶお店ってわからないよ』とまあ女性経験皆無っぽい発言に八抹分もの不安を感じる。と同時にやっぱりこの二人あり得るなーとニヤニヤする。


『簡単よ、お店がーとかじゃなくてどう一緒に過ごすかでしょ』というメールにすかさず『そういうものなのかな?』とこちらもコーヒーにガムシロップ三杯とミルクをなみなみ入れた元コーヒーとも名状し難い魔改造飲料風味の戯言を宣ってくる。


 良いんだよ、手がかかる子達程可愛く思えるので、別にその道のプロフェッショナルではないけど、第三者としての率直な意見は本人たちにとっても何かのヒントになるでしょう。


『そーゆーもの! たっちんは正直瑛のことどう思ってるの?』


 なんて核心をついてみる。


『すごく良い子だよね、なんだか波長が合う気がするよ』


 なんてそれは確定で間違いない言葉だよね、どう考えても。これで違かったら、世の中の大半信じられなくなりそうだわ、と思案する。


『結局さー、人の縁ってそいうところが大事だから私にはお似合いに思えるけどなー?』と、瑛が多分踏み込めない部分にもう一歩踏み込んで確かめる。


『それに何やら色々あったそうじゃない、二月三月?』と、ニヤニヤしながら突っ込んだ。詳細は知らないけど、二人の中では確かな事なんだろう。


『黙秘するね笑』


 と、まあ模範解答が届くので、分別がついてる点もポイントが高い。親友を委ねるには十分なグッドポイントだ。


『これだけ協力してるんだから本当、期待裏切らないでよー?』


 そこを追求するほど野暮な性格はしてないので、さらっと流しておく。


『んで、明日のプランは?』


『んー、まあ適当にショッピングして、ご飯食べて解散かな?』


 まあ、お金のない学生だから、妥当と言えば妥当。多分瑛は素で何をするかより、誰といるかを大事にするから、プランは及第点でも何が起こるかが大事。


『瑛なら押して行けば海路の日和ありだから、勇気出して挑んでねー』


『本人の気持ちもあるしそこは約束出来ないけど了解!』


 そう、こういうところも高ポイント。私はマジで言ってるけど、文字通りには真に受けてないし、相手のことを優先して考えられる。基本男は碌でもないし身勝手でイライラするけどたっちんは良い奴だと認めてる。私のタイプじゃないけど、瑛が好意を寄せる理由は理解出来る。


『合格』


 と一言に明日の二人への応援の気持ち込めて締め括った。多少二人の臆病な性格に難ありだが、たっちんに任せておけばきっと大丈夫だろう。


 こうして、私の長い一日は大変素晴らしい仕事で幕を閉じるのであった。


***


 果たして翌日。私は早々に安請け合いした昨日の自分を後悔した。


 まず何も予定のない私は朝っぱらから瑛のエマージェンシーコールで叩き起こして、結局着ていく服が選びきれない彼女に服装のアドバイスを求められた。


 見てあげるから、と一旦電話を切って、送られてきたメールに添付されているふた通りのコーデに目を通す。


『どうしよう、どっちが良いと思う?』


 と、恐らく涙目になりながら、送ってきたであろう2枚の写真はそれはまあ瑛らしくて正直どっちでも似合ってるから気分と気候で選べば問題なさそうである。


『どっちも似合いそうね。瑛はどっちが良いと思ってるの?』


 大概女のどっちが良いか問題なんて、正解が決まっているものだから探りを入れてみる。


『1枚目のほうが華やかで可愛いけど、2枚目の大人っぽさを捨てきれないの!』


 と、瑛なりのこだわりが炸裂する。


 ふむふむ、なるほどね。


『たっちんなら可愛らしさがあったほうが喜ぶんじゃない?』


 と、それとなく誘導してみる。


『そうかな?! その方がいいかな?!』


 よしよし、瑛の素直なところお姉さんは好きですよ。


『あ!! でもこのインナー前着てたかも……』


 と、まとまりかけてたのにとんだ伏兵がいたものである。服だけに。なんて洒落を考えてる場合じゃない。


『なら』


 と打って、記憶を呼び起こす。瑛のクローゼットの中身全部を把握しているわけではないけれど、何か良い組み合わせがあるはずだ。


『この間買ってた襟が白いレースになってるやつが合うんじゃない?』


 と、文章を続けて送信する。間髪入れず『確かに!!』と雑な返事が来て、しばしの静寂が訪れる。きっとクローゼットをひっくり返して探していることだろう。


『あった!!! どうかな?!』


 と、試着した姿の写真が送られて来た。しげしげと見つめて、うん、可愛いと太鼓判を押しておいた。


『ありがとう! これにします!』


 と、ウキウキした声が聞こえて来そうな返信に苦笑しつつ、タイムキーパーとしての役割もこなす私。


『そろそろ出ないと間に合わなくない?』


 と送信した後の返事がぷつりと途絶える。きっとメールと時計を交互に見て「?! ?!」と声なき声を上げながら慌てているのでしょう。デジャブかと思うほど鮮明に想起させられるので、ここから電車に乗るまでは返事は来ないな、と私の中でいち段落する。


 一応天気予報を見ておいたが終日五月晴れらしいので、傘を促すまではしない。


 瑛もね、それくらいしっかり完璧にデートの準備が出来ていれば海姫さんはここまで先回りしてフォローしなくて良くなって大分助かるんですが、まあまあ、暫くは面白いから手を焼きましょう。


 たっちんはまあ、ほっといて大丈夫でしょう。何かあれば主体的に質問して来るからそれに適切に答えれば良い。ほーんと、いつになったらたっちんに瑛のお守りを引き継げるのかしら。


 早く二人ならではの恋人の空気をまとったところを観察してニヤニヤしたいのよ。目下の一番の楽しみと言っても過言ではないのだから、しっかり成し遂げて欲しい。


 人の気持ちなんて、感情なんてひとときの気の迷いの場合も多いから、二人が勘違いでも良い、その気があるうちに一歩を踏み出して欲しい。くどいけれど、女が輝ける時間って短いから、存分に勇気を持って戦って欲しい。


 牛歩でも、二人は少しずつ打ち解けて来たはずだ。年始やらバレンタインやらエイプリルフールやら、一般的なイベントはこなして来た。


 伝え聞く話、大きなミスをした形跡もない。


 一般的ではあろうけど、それで構わない。


 恋愛とは究極思いが通じ合うことがスタートだけれど、その過程って、人類の数だけ分岐があって、心の通わせ方も組み合わせ次第だし、一口に恋愛と言っても何もかもが違う。


 私は余り興味ないけれど、巷の恋愛ドラマや映画がそれぞれにきゅんとするのは、その二人だから、そのシチュエーションだから、であってこの世において珍しくゴールよりプロセスの方が大切な事例の一つだ。


 その過程が人それぞれだから、それぞれの部分が二人だけの物語になる。


 そう考えると若干ロマンチックである。なんて思考してる自分がらしくなさ過ぎて鳥肌が立ちそうだ。


 恋なんて感じたことはない。同い年の男の子にはあまりお近づきになりたいとは思えない。かといって年下は論外だから、兄のように尊敬・安心出来るような男が良い。


 ブラコン気味であることは百も承知だけど、あの頃の思い出を風化させることも出来ず、思い出すのはふとした瞬間の何気ない会話ややり取り、思いやりだ。


 歳の離れた兄妹だったから、殊更可愛がられていたのだと思う。いや、もしかしたら兄は接し方が分からなくて模範解答を続けていただけかもしれない。今となってはわからない。


 しかし、私の中で今でも息づいている兄の記憶は紛れもなく愛情深い人だった。


 あの、人を思いやる兄の人格を尊敬してやまない。私は兄ではないから、全く同じように人を気遣うことは出来ないけれど、兄ならどんな風に考えるのか、思いやるのか、私の価値観は兄のトレースに過ぎないと思う。


 だからこそ、これは私の本心なのかと悩むことも少なくない。兄の真似から、価値観から抜け出せないのは、あの頃から意識している自身の成長に当たるのか。私は立ち止まらず、歩けているのか。一歩でも先に進んでいるのか。


 あの頃の幼い私が胸の中にいて問いかけてくる。大人びた視線で、私の一挙手一投足を見つめている。感情まではわからないけれど、その目線が問う何ものかが怖くて目を合わせることは避けているように思う。


 ブブブ、と携帯が鳴り目を落とすと瑛の出陣報告だった。ようやく満足のいく準備が出来たようだ。


 後は昨日与えたミッションを素直に実行出来るかだけが気がかりである。ダメ押しの「ミッション実行を命じる」とだけ返してお見送りの挨拶に代えさせて頂いた。


 天気は味方している。終日デートに集中出来ることでしょう。だからこそ後は静かに見守りたい。


 これで暫くは連絡はないだろうと踏んだ私は、予定より早く目覚めたので至福の二度寝に取り掛かろうと思う。


 また掛け布団を頭から被り、携帯をベッドのヘッドボードに置いて二度寝に沈んで行った。


* * *


 果たして海姫さんが次に目覚めたのは16時を少し過ぎた頃合いだった。自分でも寝ぼけているのかと目と認識能力を疑った。


 けれど結局時間のほうが正しくて、私が思いの外寝過ごしたというのは残念ながら事実のようである。


 あー……と無念を天井に向かって独りごちて、もう今日のやりたいことは全部明日に後ろ倒さざるを得ないことを悟る。とはいえ、締め切りがあるような類の予定でもなし、連休は始まったばかりだし、切り替えていけば良いだけだしと、お味噌汁なら濃いめな感じになりそうな、いやいやそれは出汁だしとしょうもないことを考えては打ち消して、寝起きにしては愉快なことを考える、冴えてるなと自分を偉い偉いして、どうせならこのまま寝て過ごそうかと自堕落なことを考えて起こしていた状態をバフっとベッドに預けてしばし沈黙と暗闇に耽る。


 そして数瞬して何か忘れているぞという第六感がぼんやりと思考に語りかけてくる。


 大切なことのような、面白くも面倒くさいことのような、確信を取り戻したいようなそうでもないような……非常に曖昧な感覚がじわじわと横たえた体に目覚めを促してくる。


 良いから、そういうの。今日の私は開店休業を貫くの……。


 とか考えていると、頭上から振動音が伝わってくる。


 朧げにああ、きっと瑛だわ、デートには間に合ったのかしら。つつがなく進んでい……、いやいや、きっと面白い出来事を引き起こしてくれているはず……。


 目を瞑ったまま、瑛の慌ててる姿が思い浮かんでふふ、と口元が綻んで息が漏れる。


 ふかふかの枕が、楽しい空想が、寝具に広がる体温の穏やかな温かさが三位一体で心地良い。惰眠を貪るとか、春眠暁を覚えずとか、昔の人は兎角風流な言葉を組み立て操ったものだ。


 私なら、言葉を操るのも勿論素敵だと思うが、目下は瑛とたっちんの恋路を操る……もとい、見守ることのほうが余程楽しいと思う。


 我ながら俗物っぽいな、と反省するふりをして狸寝入りを決め込む。決め込もうとする。しかし、咄嗟にデフォルメ瑛が目をばってんにしながら両手を真横でブンブン振っている姿が目蓋の裏に浮かぶ。


 察するにいつものSOS、いわゆる"瑛"マージェンシーである。頻発し過ぎていくつかお見送りすることもしばしばある、あれである。


 またかー。と、こちらもまたデフォルメされた海姫さんはてへぺろしてお見送りしようとしていらっしゃる。きっと大して面白くもない問題だったのだろう、実に私らしい。


 がしかし、なんだかにわかに胸騒ぎがし始めて眠気が引いていく。嗚呼、行かないで眠気。お願いもう少しこうしていたいの、と海姫さんらしくもなく乙女な部分が乙女なすがりつき方をしたが、片想いってこういう気持ちなのかもしれないわ、と嘆いた瞬間、先の第六感が確信に切り替わり、その閃きは一瞬で私をベッドから飛び起きさせた。


「瑛のデート……!」


 先程のケータイのバイブレーションはもしかしなくても瑛マージェンシーの可能性が高い! 朝のおでかけまでは見送ったが、最もおもし……もとい心配なデート部分をまるっと無視してしまった! 大きく失敗することなんてないと思っているけど、あの瑛だ、明後日なんかよりもひどい来年の今頃あたりへのホームランを打っている可能性も捨てきれない!


 あわわ……と脳内で慌てふためきながらケータイを開く。


 瞬間、サーっと血の気が引いていく。


 果たして、瑛とたっちんから、それぞれメールが届いていた。


 とりあえず、あっという間に覚醒した意識で最も古い受信メールの文面から確認していく。


『海姫、海姫どうしよう、電車乗り遅れちゃった! 遅刻しちゃうかも、どうしよう?!』


 それは私の責任ではない。そしてたっちんに連絡すればなんら問題なかろう。


『海姫ー! 達也くんから慌てずにおいで、って言ってもらえたー! 優しい!!』


 ショート寸前の思考回路で嗚呼神様時間を止めてよってしないでちゃんと大人の対応ができたのね、偉い偉い。


 続いてを読み進める。


『もう待ち合わせの駅に着くよ! ドキドキしてきた……! 海姫寝てる??』


 稀に鋭いわね?


『達也くん見えた……! うう、緊張してくる、一言だけ電話させて!』


 と甘ったれたメールの後はしっかり着信が記録されていた。3回ほどかけて諦めたらしい。


『海姫ー……起きて!(;_;)』


 ここで私の深睡眠を確信したようだ。


 それから合流したのか、しばし連絡が途切れる。すると丁度お昼時にたっちんからメールが来ている。


『瑛ちゃんから連絡あるみたいだから気付いたら返事してあげて』


 と、今度は代理でたっちんからヘルプが届いていた。瑛が何かテンパって粗相をしたのだろうか。それともこの後粗相する予定なのだろうか。ちょっと想像するだけで楽しい。どんな斜め上をやらかすのか想像出来ないところがまた良い。


 くっくっくっ、と声を抑えて笑いつつ、次のメールを確認する。


『海姫、起きてもう限界(ToT)』


 そして間が空いて最後のメールを受信してきた。目が覚めた辺りのメールが次の文章である。時刻的に解散した後かもしれない。いや、最後にもう一回ごはんくらいはいくかな? なんとなくほわほわな二人だから解散してる気がする。


『申し訳ありません』


 と、何がどうなってそうなるのかわからない唐突な謝罪の一文。


 これには然しもの海姫さんも声をあげて笑う。ひとしきり笑った後で痛む腹筋を撫でながら、私はことここに至って、この後の態度を固めた。


 私は寝てなどいない。心を鬼にして、涙を堪えながら二人の二人らしいデートに水を差さないと、弱気な瑛を甘やかさないと、辛い気持ちを押し殺してつい差し伸べそうになった腕を必死に押さえつけて見守っていたのだ。私だって辛かったのだ。そう、瑛だったらわかってくれるはず。この思いやりに満ち満ちた海姫さんの愛情を。


 と、不随意的に湧き上がる笑いを抑えつつ、自分自身に言い聞かせる。笑い過ぎて乱れた呼吸も整えて、言い聞かせて、整えて。


 ひとつこほん、と咳払いをして、メールの書き出しを思案する。


『分かっているわね、瑛』


 と、あえて強い姿勢で臨む。恐らく遠からず、メールを見た後は電話がかかってくる。全てを見通している、という態度を貫くのが鉄則である、だめだ、まだ笑ってしまう。


 すー、はー、と深呼吸して。


『私は』


 とぽちぽち入力していたら、突然電話がかかってきた。噂をすれば瑛である。ヤバい、まだ息が整っていない。もう一度深呼吸をして、さも全てを見通していてあえて連絡をしなかった、という気持ちと面持ちで神妙な雰囲気を醸し出しながら通話ボタンを押す。


「あ! もー、海姫! やっと起きたー!!」


 と、こちらが話し出す前に非難がましい声色で、涙声で、小声の瑛の第一声が飛び出してきた。


「この後達也くんとごはん行くことになったから! お説教はまた後でね! 行ってきます!」


 と、一言も口を挟む余地すらなく瑛は言いたいことだけ一方的に伝えて、通話はさらっと切られてしまった。


 ぽかーんとして、私は切電音をしばし聞いた後今の会話の内容と瑛の様子を推理する。


 始めは非難がましい声色で、最後はちょっと喜んでた風だった。恐らくはなんらかトラブルがあって落ち込んでいたけど、たっちんのナイスアシストでごはんに行くことになってわくわくになって、でも私に怒られると思っていて?


 んー? と首を捻る私。


 流石に全容までは察せなかった。なんだろう、情報量は充分なのに、肝心のピースが揃わないパズルのような。もやもやする。


 これは後ほど具体的な話を聞く必要があるな、と判断する私。まあしかし、全体的に見て問題はないと思えるし、一旦は忘れていて良いかな?


 ということで、引き続き静観を決め込んだ私はあえて含みを持たせるため、端的な一文だけを瑛に送りつけて夕飯の献立に関心を移した。



* * *



 瑛からのメールが届いたのはそれから四時間程経った後だった。私はといえば、夕食を嗜み(とはいえ昨日のごはんの残りを処理しただけだが)、小休止を挟んでお風呂に入ろうかストレッチをしようか思案しているところだった。


 このように大変多忙な最中である、少なくとも他人の恋路の話など、いくら観察対象といえど腹八分目の私には胸焼けがするレベルだ。


『ご報告があります』


 全くこの子は。


 海姫さんのことを良く理解している。


『よろしい』


 と、許可する。


 するとまもなく電話がかかってくるので、尊大な態度で応答する。


「結論から述べなさい?」


 さて、振り返って見るとなんらか課題を提示していたはずだ。もはや微塵も覚えてないけど、きっと私のことだ、二人の仲を進展させるべく、乗り越えるべきハードルを設けているはず。その結果を報告するのが瑛の使命だ。


「む、無理でした……!」


 駄目かー。まあなんのことかまだ思い出してないけど感覚値的に妥当と思った自分がいるからとりあえず結果は結果で受け止めよう。


「大丈夫、期待してないから」


 う! っとうめき声をあげてから、瑛は続けた。


「海姫、そんなこと言わないで〜……。私なりに頑張ったんだよ〜」


 項垂れながらため息混じりに反論してくるけど、一ミリもその場面が想像できない。


 はぁー、とこれみよがしげに大きく溜息をついてみせる私。それから無言でベッドに寝そべって、体勢を整える。


 この生活音は全て聞こえているはずで、聞こえているとしたら私が今何を思い、どうしているかなんて、瑛にはまるっと伝わっているはずだ。それがわかっているからこそ、ひとつひとつの動作をのろのろと行なっていく。


「………」


 この待ち時間がえも言われぬ緊張感をもたらすのだ。瑛は無言でやり過ごしているが、今頃心臓バクバク状態であることは間違いない。


「そっ!」


 と、瑛が何か話し出した。


「それに全く駄目ではなかった……というか……」


 と、煮え切らない態度でうじうじしてるご様子。それなら仕方ない、正直私も気になっているし、どんな一日だったのか、順を追って説明していただきましょう。


「それで? どんな感じだったのかしら?」


 思案して(恐らく私の予定を気にしているのだろう、配慮のある子だ)話しづらそうにしている瑛に、これからの数時間を報告時間として受け入れた、という態度で話を促した。


「大丈夫だから、何があったか話して頂戴?」


 ベッドでクッションを手元に引き寄せて抱きしめると、話を促した。


 瑛は少し、電話越しで言葉を選ぶそぶりをして今日の思い出を反芻しつつ、今朝からの出来事をポツポツと話し出した。


「私、今のままじゃ嫌だって、思ったの」


 心もとない声色で始まった瑛の回顧録は、たった今弱音のような音色で、しかし来年の今頃には、なんて言っていた先日までとは違う、とても前向きな意志の強さで始まった。

- 二人のdistanceというシリーズの第四話でした。

- シリーズの他のお話は以下のwebサイトにて公開しています。

https://lovestories4u.com/l/distance/information

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