炎天下のカッターシャツ
4月から篠原光里は東京の女子高に通うことになった。入学式も終わり、学校生活にも慣れ、園田紗奈という仲の良い友達もできたのでひかりは高校生活をそれなりに楽しめていた。
5月のゴールデンウィーク明けの放課後、2人は雑談しながら昇降口に向かっていた。
紗奈「Sのストーリーみた?」
光里「みたみた!めっちゃかっこいい彼氏で羨ましいよー」
紗奈「女子校だから出会いないし、ほんとに羨ましいね!」
そんな雑談をしながら昇降口に着いた時
先輩A「もうすぐ体育祭だけど、まじで憂鬱だよね・・・」
先輩B「窮屈だし、恥ずかしいからね・・・」
先輩達の話し声が少し聞こえた
光里「何の事なんだろう?」
紗奈「よく分からなかったね、、、でも体育祭楽しみだね!」
光里も紗奈も何のことかよく分からなかったが特に気にすることもなくそのまま帰宅した。
一週間後
HRで体育祭についての説明が担任から行われた。
100m走や、綱引き、ムカデ競走などのオーソドックスな競技のどれかに1人1つ以上は参加しなければならないことなど、ごく普通の体育祭の説明であった。
説明が始まる前は皆ワクワクしている様子だったが、担任が説明を進めていく内に徐々に全員のテンションが下がっていく。
体育祭は盛大に開かれ、来賓も取材も大勢来るので、学校側もかなり気合いを入れて、生徒を指導していくようだった。
だが生徒にとって体育祭は楽しみなどではなく、6月が近づくにつれて憂鬱な気分が押し寄せてくる物と化していること、先輩が話していた事の意味を光里は理解した。
なぜなら炎天下に近いような気温の中、長袖の「カッターシャツ」を第一ボタンまで閉めて着用し、袖ボタンも閉める。その服装で1時間強にも及ぶ応援を披露しなければならないからだ。
担任がパワーポイントでその服装の写真を表示したが、ダサい、、、第一ボタンまできっちり閉められたカッターシャツ。この格好で1時間以上過ごすなんて、、
体育祭は3つのブロックに分かれ、勝敗も決まるので手を抜いたりボタンを外して気崩すなどは許されないだろう。
担任は最後に、カッターシャツの採寸を後日行う事になると言って、その日は終了した。
教室ではカッターシャツでの演技を嫌がる声が多く聞こえてきた。ひかりも憂鬱で仕方がなかったが、入学してしまった以上従う他無かった。
次の日
担任「カッターシャツの採寸をこれから行なっていきますので、出席番号順に多目的ルームまで来て下さい。全員の採寸が終わってから少し話すことがありますので、全員終わるまで自習とします。それではUさんからKさんまで多目的ルームまで移動して下さい。」
待ち時間の間、10分ほど光里は紗奈とおしゃべりをしていた。
光里「制服がセーラーだからカッターシャツって着慣れないよね。私中学もセーラーだったから。」
紗奈「私も!リボンとかネクタイつけれるなら可愛いけど、何もつけないで第一ボタンまで閉めたらダサくなりそうじゃない?」
光里「そうだよね、、、あの格好で大勢の前に出るのはちょっときついかも、、、」
紗奈「3年生はネクタイ着用らしいから結構マシだけど私たちは恥ずかしいよね、、、」
光里と紗奈はもうすぐ採寸だったので、多目的ホールへ向かった。
その途中、カッターシャツに身を包んだ生徒の後ろ姿を見かけた。
光里は何でカッターシャツを着ているんだろう?と思ったが、紗奈は気づかなかったようで、そのまま多目的ホールへ向かった。
多目的ホールはパーテーションで仕切られており、数人の女性の業者が採寸を行なっているようだった。
光里は業者に首周り、着丈、肩幅、手首の採寸をしてもらい、新品のカッターシャツを手渡された。
担任「篠原さん、今から試着してもらいますので、奥の更衣室で着替えをお願いします。着替えたら私に知らせて下さいね」
光里「わかりました」
光里は更衣室で着替えを始める。初めて触るカッターシャツは全体的に硬く、着心地は良くないだろうと感じた。
綺麗に畳まれたカッターシャツの閉じられたボタンを全て開けていく。襟に指が当たった時、こんな硬いものが首周りに来るのかと少し怖くなった。
袖を通し、袖ボタンを閉めようとするが、きちんと採寸されたからかかなり閉め辛かった。手首が窮屈で、この状態で強い日差しの中演技をすることが苦痛なものになるであろうことは想像に難く無かった。
そして前のボタンを閉めていく。新品だからか一つ一つが閉め辛く、手間取る。そして一番上のボタンを閉めようとする。
光里「閉まらない、、、というかボタンがボタンの穴までぎりぎり届くか届かないかなんだけど、、、」
1分程かかったが、なんとか第一ボタンを閉めることが出来た。
光里「苦しい、、、採寸間違えてない?」
そう思いながらも更衣室の鏡で自分の姿を確認する。
光里「やっぱりダサい、、、ネクタイもリボンもないから襟と第一ボタンがすごく目立ってる、、、」
光里は初めて着用するカッターシャツに困惑していた。首周りも手首もギリギリボタンが閉まる窮屈なサイズ。ボタンを閉める時に力を入れたのと、芋臭い中学生のような格好をしているという羞恥心で汗をかいていた。汗で襟が首に張り付いて気持ち悪く、鏡で自分のカッターシャツ姿を確認した光里はこんな窮屈な服を着せられ少し屈辱的な気分だった。
ひとまず着替え終わったので、担任を呼ぶ事に。
担任「サイズは、、、首周りはもう1cmほど小さくても大丈夫そうですね。」
光里「!?、もうこれ以上は無理です!」
担任「大丈夫ですよ。先輩達のカッターシャツの採寸を何度も行なってきたもの。それに教員の指定以外のサイズを着用することは認められません。もし指定以外のカッターシャツを着ていたら指導対象になりますよ。」
光里「そんな、、、」
担任は業者に首周りが1cm小さいサイズのものを用意させ、光里に渡した。
担任「さあ。もう一度着替えてきて下さい。もし指定以外のものを着用していても、品番などからすぐにサイズを確認できますから従うように」
光里「わかりました、、、」
光里は少し泣きそうになりながら更衣室へ向かい、一度カッターシャツを脱いだ。そして首周りが1cm分窮屈になったカッターシャツに着替える事に。
脱ぐ時も第一ボタンが外れ辛く手間取る。
そして先程のものより窮屈なカッターシャツに袖を通す。手首の窮屈さは変わらなかったが、第一ボタンを閉めるのはより難しくなり、何とかボタンを閉め終えた。
光里「苦しい、、、それにやっぱりダサすぎる、、、」
光里はあまりの苦しさと、恥ずかしさに涙ぐんでいた。自分は学校から徹底的に管理されているということを実感した。
着替えが終わり、真っ赤な顔で担任を呼ぶ。
担任「サイズはバッチリですね。ではその服装のまま教室まで戻って下さい。ボタンを外したりすれば指導となりますからね。」
光里「え?このままですか?セーラー服には着替えなくていいんですか?(早く脱ぎたい、、、)」
担任「はい。説明は後で行いますので。」
光里「わかりました、、、(この格好で教室まで?恥ずかしすぎる、、、)」
この時光里は地獄のような1ヶ月が続くなどとは夢にも思わなかった。
光里は真っ赤な顔で教室に戻っていた。その途中、やはりカッターシャツの生徒を何人か見かけた。3年生は赤いネクタイを結んでおり、普通の高校生に見える。首元はかなり窮屈そうだが、、、
一方自分たちは芋臭い中学生のような第一ボタンまできっちり閉めたカッターシャツ、、、あまりにも恥ずかしい、、、襟が首を締め付け、汗で張り付いているので首が動かしづらい。
教室に入ると、カッターシャツを着用している生徒が数人居た。やはり人が着ているのを見てもダサい、、、見ているだけで息が詰まりそうなほど窮屈そうだった。
そして直ぐに顔を赤くした恥ずかしそうな紗奈が戻ってきた。
きっちりと閉じられた第一ボタンと、襟に締め付けられる窮屈そうな首が目立ち、見ていた光里まで恥ずかしくなった。
見慣れないカッターシャツ姿にお互い少し戸惑いつつ話を始めた。いつも可愛い紗奈が第一ボタンまで閉じられたカッターシャツによって芋臭く見えてしまう。ダサい、、、紗奈も同じように感じていた。
紗奈「ちょっときつすぎない?」
光里「うん、、、首を動かすだけでもきついよ」
紗奈「しかもやっぱりダサすぎるよね、、、なんかザ・真面目って感じじゃない?」
光里「ほんとだよ、、、こんな格好で外歩けないし、早く脱ぎたい、、、」
光里は他の人が同じ服装をしていれば少し安心できるかと思ったが、人が着ているのもかなりダサく感じ、自分も同じ服装をしているのだと思うと、羞恥心が増した。
窮屈なカッターシャツに袖を通した恥ずかしそうな顔をした生徒が教室に増えていった。
そして全員の採寸が終わり、段ボールを抱えた担任が教室へ戻ってきた。
担任「採寸お疲れ様でした。皆慣れないカッターシャツでしょうが少し話をしたら今日は解散になりますのでもう少し頑張って下さい。」
光里は嫌な予感がしていた
担任「本日から体育祭終了まで、制服はセーラー服ではなくカッターシャツに変更になりました。今からもう一枚全員に配りますので、約1ヶ月間はこの服装で登下校となります。」
光里は嫌な予感が的中し、狼狽える。
教室でも悲鳴に近いような声が聞こえてきた。
担任「去年は体育祭本番のみカッターシャツ着用でしたが、着崩す生徒があまりにも多すぎた為、今年からこのような事になったようです。体育祭本番でなくても、家を出る前から家に帰るまで、ボタンは全部閉める、袖ボタンも閉めるという事になっています。気を引き締めてカッターシャツのルールを守って下さい。教員が学校外を巡回していることもありますので、外でもボタンは全部閉めておくように。違反すれば指導の対象となりますので注意してください。今からもう一枚カッターシャツを配りますので受け取った人から帰って結構です。」
教室は軽くパニックになっていた。光里と紗奈ももちろん絶望していた。こんな真面目ちゃんみたいな窮屈で芋臭い格好で1ヶ月生活するなんて考えられなかった。
光里と紗奈はカッターシャツ姿のまま下校の準備を始めた。少しでも身体を動かしたら首元に圧迫感を感じてしまう。
光里「首が苦しすぎる、、、せめて第一ボタンだけでも外せたらいいのに、、、」
紗奈「外したら指導だって言ってたけどほんとなのかな?バレることなんてなさそうだけど」
光里「帰り道は人全然いないし、外しちゃおっか!」
紗奈「うん!どうせバレないよね!」
そうして2人とも首元の窮屈さの元凶である第一ボタンを開ける。
光里「ああ、スッキリした!!解放感やばいね!」
紗奈「私もすごいスッキリした!」
そうして首元の締め付けから解放されて、2人は家に着いた。
家に着いてカッターシャツから解放された光里と紗奈はゴロゴロしながらメッセージでやり取りをしていた。
そしてしばらくして家の電話が鳴っている事に気がついた。
光里は紗奈に電話鳴ってるからと返事をして、リビングの電話を手に取る。
電話の相手は担任だった。
担任「篠原さんのお宅でお間違いないでしょうか?」
光里はびっくりしたが、すぐに返事をする。
光里「お疲れ様です。篠原光里です。先生、どうかされましたか?」
担任「篠原さんが今日の放課後に第一ボタンを外しているという報告を受けました。巡回していた先生が写真も撮っています。明日指導になりますので、昼休みに職員室まで来てください。」
光里は突然の担任からの電話にひどく驚いていた。しかも電話の内容は明日服装違反の指導があるということ。どこで見られたんだろう、、、と思いながら明日の事を考える。
明日は朝から第一ボタンをしっかりと閉めておこうと思った。もうバレているので遅いだろうが、これ以上違反を重ねることはできない。恥ずかしいし窮屈だが仕方がない、、、
そのときふと紗奈も第一ボタンをあけていた事を思い出した。
紗奈に急いで担任からの電話の事をメッセージで伝える。
しばらくして紗奈にも担任から電話が来たようだった。光里と紗奈はどのくらい怒られるのだろうかと話していた。たかが服装違反だし少し注意されるくらいだろうと二人とも結論づけた。
そして次の日、第一ボタンをきっちり閉め、首を襟に締め付けられながら2人は登校した。
続く