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うお~!すべてはいちごなんだよ!


「おー……アタケ、その様子だと依頼は大成功だったようだな」


「あれ?爺さん?何か用?」




ほんの少しだけ欠けた赤みがかった空の下、少し薄暗くなった田舎道をだらだらと歩いていると道中でいつもの爺さんが話しかけてきた。


この村では変わり者で有名な老人の中の老人、いわば老人のプロだ。


俺はいつものように気さくに挨拶すると事情を話す。




「あーそうそう、爺さんの紹介してくれた口入れ屋に行ったんだよ!」


「たった数時間でそんないっぱしの鎧を買えるくらいの金を作れるとは、一体どんな依頼があったんだ?」




「いやいや仕事っていうか、口入れ屋に仕事を紹介してくれそうな依頼人をまず紹介してもらって、仕事を紹介してもらおうとしたんだけどさあ……」


「んん?ちょっと待ってくれ。仕事を紹介してくれそうな依頼人が仕事を?口入れ屋に紹介をしたって?」




爺さんは混乱した様子で依頼人と口入れ屋と冒険者に見立てた自分の指を交互に動かしながら俺の話を必死に理解しようとする。


どうやら俺の言い方がまずかったらしい。




「まあさ、その辺は長くなるから端折るけど、とにかく口入れ屋にはロクな仕事がなかったぜ!俺みたいな素人でも出来そうな仕事は全部手をつけられててな!」




「そ、そうか……まあそういうこともあるか」


爺さんは額の汗をぬぐうと誤魔化すように笑う。




「そんでさあ!その辺を歩いてたらさ!なんか知らんけどハゲたおっさんに絡まれてさ、なんかよくわからんけどダンジョン探索に同行すれば金をやるって言われてよお!この鎧もそいつらにもらったんだよなあ~!」


「ほう!ずいぶん太っ腹な奴らだな!」




「マジでなあ~~!!あいつらすげーお人好しだったぜ~!どひゃひゃひゃひゃ!!」


俺は腹を抱えて大笑いする。爺さんもつられて大笑いした。




「んで……探索が終わった後に冒険者にならないかって誘われたんだけどさあ、断っちゃったよ!」

「そうか!そりゃなんでまた?」




俺は説明する。


つまりはいちごの話だ。


いちごには同じ場所で栽培を続けていると、土の中の栄養が偏ってしまい生育不良で品質が下がるという連作障害があり、その悪影響を避けるためには天地返しといって表層の土と深いところにある土の入れ替えをする必要がある。


だけど、地面の下の方にある栄養のない土を持ってくるわけだから堆肥を施すなどして、栽培に適した土になるように世話をしなきゃいけない。


これが大変な重労働で、親父だけには任せてられないのだ。




爺さんは土に見立てた交互に動かしながら俺の話を理解しようとし、やがて気まずそうに耳の後ろを掻く。




「つまり……今は冒険者になるよりも、親父さんの仕事を手伝ってやりたいというわけか?」


「爺さん、その通りだよ!」




「なるほどな。てっきりわしは、凛として厳しくありつつ、心を許した者にだけ見せる優しい表情が印象的な巨乳の女戦士とパーティを組みたくてハゲたおっさんの誘いは断ったものかと思ったよ」




「ぎくっ!?じ、爺さん、そそ、そんなわけないじゃないか!こんな田舎にそんなお姉さん系の女戦士がほっつき歩いてるわけないじゃないか!」


俺の言葉に、無くなった前歯を剥き出しにしながら笑い、爺さんはポンと腹を叩く。




「ぐはは!それもそうだな。今から帰るんだな?それじゃ親父さんによろしく言っといてくれ」


「そうだ、爺さん!これ、世話になったお礼だぜ~!」

「うむ?」


俺は小銭を入れた袋からぴかぴかした硬貨を数枚取り出して、爺さんに握らせる。




「ありがとよアタケ。お前さん、大物になるよ(笑)」

「爺さんもな」


「「どひゃひゃひゃひゃ」」




うっかり話し込んでしまった!


辺りはすっかり暗くなっている。爺さんに別れを告げて俺は走る。


やがて見えてくるのは俺が生まれ育った家、何の変哲もないありふれたいちご農家だ。

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