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お仕事できるアピールを抜かりなくこなす!

 


 この世の幸運に乾杯!


 私は突然舞い込んだスーパーラッキーに舞い上がっていた。

 やっぱり、人生のプラスとマイナスって帳尻が合うようにできているんだわ。

 今までマーファス家でつまらない毎日に耐えて耐えて耐えてきた分、解放された今ツイていることばかりだもの。


 あの後、王宮魔術師団の副団長であるシルヴァン様は照れたように笑って言った。


「よかったらこの場所でまた、たまに話をすることはできないかな?」

 って!


「光栄です!」


 本当に光栄です!最高です!こんなにもスムーズに魔術師団の人と、それも副団長だなんて位の高い人と知りあうことができるなんて!

 それにしても、弱ったアンジェリカ様と同じく、きっとシルヴァン様も色々抱え込んでいるんでしょうね。出会った時に眠り込んでいたし、本人も肩が重いとか頭痛がするとか言っていたし。

 私を魔術師団に入れてくれたら、いくらでもお仕事のサポートをするんですけど……!


 さすがにすぐにそんな風にうまくいくとは思っていないけど、念のためにとっても仕事を頑張っている姿を見せてせっせとアピールすることにした。


「ああ、ステラ。今日も頑張っているんだね」

「はい!お仕事大好きです!」

「はは、そうなんだ」


 いつものお気に入りのベンチに座るシルヴァン様の前を掃除具を持って通りがかると、そんな風に声をかけられる。

 そう、お仕事大好き!私、よく働きます!とっても有能、役に立つ!

 本当はもっと直接的なアピールをしたいところだけれど、あまりがつがつするのも良くないものね。こうして私が仕事熱心ないい子であることを知ってもらいながら、じわじわと仲を深める作戦よ!


 そんなことを考えていると、私の持っている掃除具を見て、シルヴァン様が首を傾げた。


「……ところで、君はそれを持ってどこで何をするつもりなのかな?この辺はメイドに掃除をさせるような持ち場はなかったように思うのだけど……」


 まあ、さすがシルヴァン様!そんなことも把握されているなんて。

 確かに、通常の持ち場からはここは随分離れている。


「実は、班長に認めてもらって、通常業務とは別に、特別なお仕事を任されているんです!」


 えっへんと胸をはる。

 だってこれは「有能だから色んなお仕事任されちゃってます」アピールをするチャンス!


 本当はこれが特別なお仕事なのかどうかはよく分からないけど、通常業務ではないことは間違いないから嘘ではないはず。


 そう思ったのだけど、シルヴァン様はなぜか怪訝な顔をした。


「……特別な仕事?なにそれ?僕は随分前からここが気に入っていてよく来るけど、ここを通るのは君一人だけだ。君が現れるまでは誰の姿も見たことはなかった。君一人だけが任されている仕事なんて、どこで何をしているのかな?」


 ええっ!えー!これってまさか私、おさぼりしていると疑われている……!?

 そんなっ!アピールチャンスだと思っていたのにまさかの逆効果だった!?


 思わず慄く私に、シルヴァン様は慌てて付け足した。


「ああ、もちろん君がサボっているだなんて思っているわけではないからね。こんなに仕事熱心なメイドなんて他に見たことがないくらいなのに、そんな君の仕事ぶりを疑ったりはしないよ。僕が疑っているのは別のことだ」


 わ、わー!よかった!日頃の行いが良かったおかげで思ったよりも信用されているらしい。ホッ。

 でも、疑っている別のことっていったい何だろう。


 不思議に思っていると、シルヴァン様は私の肩に手を置き、何かを確かめるようにじっと見つめてきた。


「まさか、ステラ、君は班長にいじめられているわけじゃないよね……?」


 思わずぽかーんとしてしまった。

 ええっと、シルヴァン様は、私がジーナさんにいじめられていると疑っている……?


「まさか!そんなことありません!ジーナさんはとっても親切です!」

「そうなのかい?」

「はい!むしろ私のことを認めてくださって、素晴らしいお仕事を任せてくれているんです」


 そう、こんな素晴らしい仕事はない。この仕事をジーナさんが任せてくれたからこそ、私はこの場所を通り、シルヴァン様ともお知り合いになることができたのだ。

 憧れの王宮魔術師団、副団長の、シルヴァン様とね!

 改めて考えてもジーナさんには感謝しかない。私の幸運のはじまりはジーナ班に配属されたことだと言っても過言ではない!


 一体どうしてそんな誤解が生まれたのか分からないけど、恩人ともいえるジーナさんを悪く思われるわけにはいかない。

 そう思い、さらに必死に説明を続ける。


「ええっと、私はこの先にある武器庫の掃除をしているんです。もうすぐ掃除が終わるので、そろそろ武器の手入れに入ります。確かに量は多いので大変ではありますけど、今は使っていない武器なので急ぎではないですし、通常業務の合間にできるのでむしろ時間を効率的に使えてとってもやりがいがあるんですよ!たくさん頑張った武器たちが綺麗になると思えば、私も嬉しいですし」


 よしよし、これでジーナさんの誤解は解けるし、私がしっかり仕事をしていることも、役目を終えた武器にも敬意を払う情の厚く慎ましい仕事人であることもアピールできたんじゃないかしら?


 自分のとっさの判断で最大限の成果が出せたわと満足していたのだけど……


「なんだって……君は、あの武器庫に入っているのか……!?」


 あ、あれ?なんだかシルヴァン様がとっても怖い顔をしているような……。



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