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殿下を叩いたらお礼を言われた件

 


 混乱しているところにバタバタと足音が聞こえ、大きな音を立てて部屋の扉が開いた。


「ステラ!」


 へあっ!?

 呼ばれたことに驚いて、思わずちょっとだけ顔を上げて視線を向ける。もちろん、まだ危機は去っていないので体は平伏したままである。


 そこには髪を乱し、息を切らしたシルヴァン様がいた。

 ……どうしてここに?


 シルヴァン様は這いつくばる私を見ると目を丸くして、すぐに王太子殿下を睨みつけた。


「殿下。これは一体どういうことですか?」


「私もまだ混乱している」


 手を振りながらそう答える殿下に、ひいいっと心臓が縮み上がる。


「殿下?顔色が──」


「あのっ!わたくしめが全て悪いのでございますううう!」


 眉を顰めるシルヴァン様を遮って、もう一度額を地に擦りつける。できることは誠心誠意謝ることのみ……!!


 あああぁ、せっかくせっせとシルヴァン様にお仕事できる子アピールしてきたのに、それも全部おわり。むしろ常識のない不敬な大罪女として全ての夢への道は絶たれました。本当におわり。

 いや、頭に血がのぼって殿下に食って掛かってしまった時点で全部終わっているのだけれど……。


 それにしても、我ながらどうかしていた。いくら怒っていたとはいえ、どうしてあんな暴挙に出られたのか。さっきまでの自分が自分で理解できない。


 必死に頭を下げ続けていると、ふわりと風が吹き、いい匂いがした。

 あれぇ?と思った時には。


「ステラ、ひとまず顔を上げて」


 シルヴァン様が片膝をつき、私の手を優しく取っていた。


「で、でも……!」


 チラリと殿下を見ると、疲れたようなため息をつかれる。


「ステラ嬢、立ち上がってくれ。私は怒っていない」


 怒って、いない!?!?

 あんなことをされて!?

 なんで怒っていないの!?!?!?


 呆然としたまま、シルヴァン様に支えられて立ち上がる。


「話を聞かせてくれるかい?」


 私に向かって優しく微笑むシルヴァン様、複雑そうな表情を浮かべながらも私から視線をそらさない王太子殿下、とんでもなく困惑した様子で一先ず壁際に控える護衛の騎士様……。

 うん、とりあえず一番戸惑って見える騎士様、本当に申し訳ない。




 怒られたり、軽蔑されることを覚悟して、起こったこと全てを告白し懺悔する。


「それで殿下の頬をひっ叩いたのかい!?あは、あはは!ステラ、君はすごいな」


 盛大に笑いだすシルヴァン様。予想外過ぎて困惑する。


「しかし、それで殿下の顔色がいいんですね」

「ああ、そのようだ」


 へっ?確かに私も殿下が小奇麗になったなとは思ったけど(失礼)、『それで』ってどういう意味だろう。


「それにしても、『叩く』ことでも浄化ができるのか……興味深いな。とりあえず、殿下がステラにおかしなことをしたのではなくてよかった」


 んんん?なんだか言っている意味がよくわからない。殿下も面食らった顔で「シルヴァン、お前……」と呟いている。

 それはそうだ。おかしなことをしたのは私なのに、そんな疑いをかけられるなんて殿下もびっくりに違いない。


 はあーと大きなため息をついた殿下は私に向き直る。


「ステラ嬢、まずは礼を言うよ。ありがとう」


「ええっ!?」


 殿下を叩いたらお礼を言われた件。どういうこと??


 まだ理解できない私の前で、突然殿下がハッとして青ざめる。


「それより、私とスカーレット嬢が恋仲というのはどういうことかな?」


「えっ!」


 思わぬ部分に切り込まれてしまった。そこを私の口から改めて説明するのは荷が重いっていうか……一番分かっているのは殿下ご自身ですよね?っていうか……


「いや今はそれどころじゃないな、アンジェリカが……」


 殿下は狼狽え、意気消沈しているようだ。そして本気でアンジェリカ様のことを気にしているように見える。

 さっきまでとのあまりの様子の違いに驚いてしまう。


 それに、そうだよ!アンジェリカ様は大丈夫なのだろうか。

 うう、自分が裁かれなさそうだなとわかったら、早くアンジェリカ様のところへいきたい……!


 殿下も混乱しているのか、自分を落ち着かせるように頭を振る。


「すまない、まずは説明だな」


 そうしてもらえるとありがたい。たしかにもう何が何だかさっぱりわからないから。


「君が私を引っ叩いたことで、私にまとわりついていた嫌な魔力が引き剥がされたのだと思う」


「いやな魔力、ですか?」


「ああ。目が覚めたように冷静になった。すると、これまでの自分の感情のおかしさに気がついた」


「どのような感情でしょうか?」


「スカーレット嬢を何よりも大事に思い、尊い存在だと感じていた。私には、もっと他に大事な存在があるはずなのに」


 え……それって……


「おそらく私にまとわりついていたのは『魅了の魔力』だったのだろう」



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