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ペシミスト  作者: 坂本梧朗


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第18話

 難問だ。一心に解こうとする。解かなければならない。こうか、これはこうだ、そこはこうだ、それはこうだから、こう解けばいいはずだ、えっ、そうじゃないのか、なんでこんなにこみいっているんだ、ウン、ウン―。


 条件が二つある。その相容れないような二つの条件を両立させながら、この作業は遂行されなければならない。ムツカシイナ。綱渡りのようだ。ア、落ちる! オッと、踏み堪えた。アブナイナ、キワドイナ。クルシイナ。何とかヤリキルゾ。うまくカワシテ、カワシテ、ウン、ウン―。



 省吾は苦悶する夢から覚める。頭の芯が疲れている。かなり神経をすり減らした余韻がある。このところこういう目覚めが続いている。頭が重い。寝ている間に頭脳を酷使したのでは眠る意味がないと省吾は自分を嗤う。部屋の天井を眺める。必死で格闘していたあの難問や条件は何だったのだろう。夢の中では逃れられない絶対的な命令のように意識されたそれがもうよく思い出せない。目覚めた今ではどうでもよいことだったと思われる。意味の無いことで自分を縛り、苦しめていたのだと舌打ちしたくなる。エリコでの条件付けられた作業があんな夢を見させるのか。もっとグッスリ眠らないとダメだ。このところ睡眠の質が本当に悪い、と省吾の気持は暗くなる。もう眠れない。時間もない。起きるしかないか、と省吾は胸の内で呟き、徐に両手、両足を上げる。ルーティーンのゴキブリ体操。一分間は長い。できれば秒針の動きを見ながら手足を揺すりたい。頭の中で数を数えたくない。疲れている頭はなおさら使いたくない。天井に大きな文字盤が映し出されればいい。その上を動く秒針を見ながら手足を揺すりたいという久しい願望。上げている左手の手首に腕時計はない。就眠時には時計を外すのが省吾の習慣だ。時計は手鎖のように意識される。眠りの間くらい解放されていいだろう。もっとも、時計を外さず寝てしまうことも間々あった。省吾は仕方なく頭の中で六〇まで数えて、バタンと四肢を下ろした。しばし休息。今日一日に思いを馳せる。しなければならないことが幾つか浮かぶ。楽しいことは何もない。


 ベッドから下り、部屋を出て、体重計に乗る。洗面と漱ぎと嗽。血圧は今日はカットしていい。


 部屋に戻って、さて朝のヨガだ。何をするか。これといって思い浮かばない。考えの定まらぬまま、とにかくマットの上に胡座を組んで座る。上半身をゆっくり回転させ、首を回す。よし、このまま行け。両腕を交互に上げ、上半身を傾けて体側を伸ばすスタンダードなポーズから始める。しかし、このところ省吾はヨガに集中できない。これからしなければならないことに彼の思いは囚われていく。エリコのリーダーに休日の変更を申し出なければならない。認めてくれるだろうか。認めてくれないと困るが…。やはり○○に原稿の催促をしなければならないか。今回の編集担当としては。あまり話をしたくない人だが。発行人から言ってもらうのが一番いいのだが、俺がすべきことだとあの人は言うだろうな…。ああ、○○さんに詩集の感想を送らなければならないな。ほったらかしてもう二週間になるな。オッ、今週いっぱいで担当区域内の水利組合員から水利代の徴収を終えなければならないぞ。そうか、それもあったな…。順番に担当する居住区の水利組合の理事に今年省吾は当っていた。浮かんでくる思いは省吾を不安にさせ、焦燥に駆り立てる。思いが昂ると、省吾はヨガを中断してその思いを果す行動を取りたくなる。早く片付けたくなる。浮足立つ。ヨガの味わいが失われる。どうもこのところ良くない。省吾は悲しむ。せっかく築いた健康のための日課が、不安な日常に侵食され、崩されようとしている。待て、待て、今はヨガに集中しろ、体が一番大事なのだと彼は自分を宥めようとする。と、妻との不和がダメ押しのように頭に浮かぶ。口をきかなくなって今日で三日目か。コミュニケーションが必須な人間と口をきかないのは窒息するように苦しいが、相手も折れないだろうからこちらも突っ張る他はないか。今日一日の暗い見通しが省吾の気持を萎えさせる。


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