第2話 防御は完璧です
ー半年前ー
(金が無くなった)
壮真は残高280円の財布をジーンズのポケットに収めると、地元から飛び出し電車で辿り着いた見知らぬ道を歩き出す。
「おい!おい!」
「ん?」
何処からか声が聞こえて立ち止まると周囲を見渡し反応するが人影は確認出来ず目の前の尻尾をピンっと立てた黒猫と目が合う。
「おい!おい!」
黒猫の口の動きはミャーだが聞こえる音は「おい!おい!」と壮真の耳には聞こえる。
「‥…黒猫?‥…黒猫が喋ってるの?」
「正解!正解!大正解!」
ミャーの口の動きで黒猫は答える。
「‥…マジか!‥…それで黒猫が何で俺に話しかけるの?」
「理解が早くて助かる、それで突然だけどちょっと一緒に女神様に合ってくれるかな?」
「‥…理解は全然出来て無いけど、これだけがっつり目が合って会話してたらとりあえず信じるしか無いし‥…」
「そうか!そうか!良かった、それじゃあ準備はOKだね?」
「‥…展開早いな‥…準備OKって‥…聞き流してたけど女神様っていうのに会うという事だよね?」
「正解!正解!大正解!それじゃあ少し目を閉じてくれるかな?」
「‥…展開のスピード早いんですけど‥…女神様っていうのに会うのは決定なのね?」
「正解!正解!大正解!それじゃあ女神様の所まで出発進行~」
「‥…ですよね‥…」
黒猫は前足で壮真の右足を触ると目の前が一瞬揺れて頭の中が真っ白になる。
「‥…俺目を閉じて無かったけど‥…」
「大丈夫!言ってみただけだから目を閉じようが開けていようが関係無いから大丈夫だよ」
「‥…ですよね‥…さっきと場所が全然違うし‥…」
黒猫は前足を外して毛繕いをしながら話し終える。壮真は一瞬揺れて頭の中の白が消えると周囲を見渡して頭部を毛繕い中の黒猫を見下ろしている。
「へぇ~かなり広い場所やね‥…もしかしてそこの豪華な椅子に女神様っていうのはいるの?」
無音で静かな壁など見当たらない空間の周囲を見渡して1つだけ目に付いた家具を見ながら話す。
「違うよ!」
「えっ?」
「女神様は君の後ろに立っているよ」
「えっ?」
壮真は両肩に違和感を感じると慌てて後方を振り返る、すると白髪に白いドレス白い肌の女性が微笑みながら両肩に手を添えている。
「いらっしゃいませ~驚かしてたらごめんなさいね、わざわざお越し頂いて感謝です」
「あっはぁ~」
頭を下げると女性は両肩から手を離すと驚いて気の抜けた相槌の壮真に微笑んでいる。
「もしかして女神様ですか?」
「はい!そうです女神アンキシャルです、初めまして壮真さん」
「‥…名前もう分かってるんですね‥…」
「はい!先程触れた時に失礼ながら全ての壮真さんの情報を教えて頂きました」
「あっはぁ~」
女神様なら何でも有りなのねと無理矢理納得する。
「それで俺をここに呼んだ理由は何なんですか?」
「はい!異世界に行って頂こうと思います」
「‥…異世界ですか?それはアレですよね?」
「はい!勇者やエルフや魔王や魔物が蔓延るそのアレの異世界です」
壮真は本格的に漫画や小説に目を通した事は無いがそういうジャンルの物語が有る事は知っている。
「‥…でも殆ど知識とかは無いんですけど大丈夫ですかって‥…一応お尋ねしますが拒否とかは出来るんですかね?‥…」
「はい!無論拒否はお断りさせて頂きます」
「‥…‥…はぁ~」
微笑みを崩さない女神アンキシャルの綺麗な両目を見つめながら気の抜けた返事をする。
「安心してくださいね、無論能力は最高で異世界に旅立って頂きますから」
「はぁ~」
「壮真さんの情報を教えて頂いた時に最高の能力付与も見つけましたのでその点は安心して旅立って下さって構いません」
「(俺の情報は勝手ですけど)‥…ちなみにどんな能力は聞いても大丈夫ですか?」
心の中で少し思う所はあるが壮真はこれ絶対拒否無理で断れないと覚悟を決める。
「はい!絶対防御です」
「‥…絶対防御?」
「はい!全ての打撃、魔法、異常状態の意味が無くなり壮真さんに害するすべての事が無効になります」
「‥…何となく理解は出来ますが‥…」
「うーん!そうですね、簡単に説明させて頂くと絶対防御を付与した瞬間から例えば核戦争が始まったとして地球が消滅して宇宙に壮真さんが放り出されても呼吸も移動も出来てもし隕石が当たったとしても身体に一切支障が起きないですね」
「‥…ますます理解が出来ないですが‥…確認ですがその宇宙に放り出されたとして呼吸も移動も出来ると言う話ですが…そこからどうやって生きていけばいいんですかね?」
「はい!例えばのお話ですから簡単に地球は消滅もしませんし安心して下さい!それぐらい絶対防御は壮真さんを守るという事です」
「‥…はぁ~そうですか!例えば異世界でも同じような能力なんですか?」
「はい!例えば異世界を全支配している魔物ほぼそれは大魔王だと思いますが、その大魔王が自らの命を引き換えに最後に振り絞る最終奥義的な攻撃を壮真さんに繰り出しても絶対防御は機能して無効にさせます」
微笑みの表情を崩さずに女神アンキシャルは話し終える。
「‥…無敵って認識で大丈夫な感じですかね?」
「はい!防御は無敵の認識で問題はありませんよ」
「‥…分かりました‥…えっ?防御は?」
それだけ完璧なら異世界でも何処でも行こうと腹を括り決断するが女神アンキシャルの言葉に反応する。
「はい!残念ですが攻撃面は中の中なんですよ」
「中の中って事は普通って事ですよね?」
「はい!普通です、でも防御は完璧です」
女神アンキシャルは微笑んでハキハキ言い切る。