第1話 男性2000円女性500円
「もう嫌ぁぁぁぁぁあの臭い!あの顔!あの存在!生理的に無理ぃぃぃぃぃこの世から消えて無くなれぇぇぇぇぇぇ」
グレーのスーツを着た女性が綺麗な顔を般若にしながら右腕を振り上げている。
「はい!思いっきりどうぞ、遠慮はいりませんからね」
「万年課長代理の分際でぇぇぇぇぇキモイィィィィィキモイィィィィィ」
目の前に手を後ろに組み立つ男の囁きに気付いたか気付かないか判断出来ないが、般若顔の女性は拳を男の顔面に叩き付ける。
「はぁはぁはぁはぁはぁ‥…」
女性は男の顔面から握り締めた拳を離すと肩で息をしながら呼吸を整えている。
「どうでした?少しはスッキリしましたか?」
「はぁはぁはぁ…あっ!大丈夫でしたか?」
「はい!僕の事は心配無用ですよお客様」
「はぁはぁ…物凄くスッキリしました、少しお恥ずかしいのですが色々ストレス溜まってまして…無我夢中で叩いてしまいました…」
「いえいえ!思いっきり叩いて頂いて大丈夫ですから…お客様の手は大丈夫でしたか?」
「はい!大丈夫です」
女性は息も整い自分の右手を確認しながら正面の笑顔の男に返事をする。
「そうですね!大丈夫そうですよね」
「はい!はぁ~それにしても本当にスッキリしました、ありがとうございましたこれで明日から会社で課長代理の存在を少しは耐えられそうです」
女性は般若顔から綺麗な顔に戻りスーツの皺を直しながら微笑んでいる。
「それは良かったです、色々ありますからね少しでも気分が良くなれば僕も嬉しいです」
「ありがとうございます…あっ!それじゃあ代金お支払いしますね?」
「はい!ありがとうございます」
女性はそう言うと少し離れた位置に置いていたバックから財布を手に持つと小銭入れから500円玉を取り出して男に手渡す。
「ありがとうございました。また良ければいつでもご利用くださいね」
男は500円玉を笑顔で受け取りながら頭を下げて後ろ姿の女性の姿が見えなくなるまで見送る。
「お疲れさまでした」
殴られた男が無言で投げた500円玉を片手でキャッチしながら別の男が声を出す。
「水」
「はい!」
500円玉を財布に入れるとペットボトルを両手に持ち男に手渡す。
「今どのくらい?」
「はい!さっきの女で8000円超えました壮真さん」
「ん?女?俺の聞き間違えかな?大事なお客様を女とか聞こえたけど!」
殴られた男壮真は地面に座り水を一口飲むとスマホを持ち画面を見ながら話す。
「…‥す、す、すいません壮真さん…じょ、じょ、女性女性です、女性のお客様です…」
「マケ君よ~前にも言ったけど同じ事!忘れちゃってた?」
「はい!すみませんでした!!もう頭に刻み込みました、すみませんでした」
壮真の後ろ姿に頭を上下にしながら謝罪する。
「なら良いけど…もう少し続けて稼ぐからマケ君?お客様探して連れて来て」
壮真はスマホの画面を見ながら話す。
「はい!分かりました、行ってきます」
マケと呼ばれた佐和上勝利は頭を上げると【殴られ屋、思いっきり殴って気分スッキリ、KO出来れば10万円(1回男性2000円女性500円)】のプラカードの看板を右手に持つと全力疾走で走り出す。