ようこそ、ウィンストン公爵家へ。
私は、オスカーと共にウィンストン公爵家へと向かった。
王宮からガタガタと馬車で揺らされること、約1時間程。どうやら、ウィンストン公爵家に着いたようだ。
目の前にあるのは、もはやドン引きする程の大きなお屋敷。ローナン家の3倍、エルズバーグ家の2倍程の大きさだろうか。
恐る恐る屋敷に足を踏み入れれば、『おかえりなさいませ、オスカー様』と数十人の使用人による出迎えが待っていた。
公爵家にとってはこれが普通なのかもしれないが、男爵家が生まれの私にとっては少々異質な光景に思えた。
「ただいま。ジェームズ、この子が今日からウィンストン家の子になるアイヴィだよ。」
「これはこれは…、アイヴィ様。ようこそおいでくださいました。私、執事長を務めております。ジェームズと申します。以後お見知りおきを賜われれば幸いでございます。」
髪も白く、顔にいくつもの皺があるものの、背筋はピンと伸びており、お辞儀も美しい。流石は公爵家の執事長を務めているだけはある。決して若いわけではないのに、所作に老いを感じない。
「お初お目にかかります。ジェームズ様。ローナン男爵家の生まれ、アイヴィと申します。こちらこそ、宜しくお願い致します。」
私は慣れないカーテシーを披露する。
正直、これが貴族令嬢として正しい挨拶なのかどうかは怪しいところだ。元が活発なお転婆娘だったことに加え、今までまともに貴族達と交流をしていなかったこともあり、自身が少々令嬢らしさに欠けている自覚はあった。
「アイヴィ様。私に“様”などご無用でございます。どうかジェームズとお呼びください。」
「…承知致しました、ジェームズ。」
ジェームズは満足そうに頷くと、私を公爵様の居るダイニングルームへと案内した。
時刻は、朝の9時。既に朝食は取り終えているようだが、私との顔合わせということで、全員その場に残っているそうだ。
「アイヴィ、緊張するかい?」
「いえ。」
「君は肝が座ってるね。」
ははは!と笑うオスカーに言いたい。私は決して、肝が座っているわけではないと。
相手は高名な公爵家。緊張するのが当然だろう。しかし私は公爵様にも、その奥様にも一度も会ったことがないし、有名な貴族として存在を認知していた程度だから、どこか他人事というか。これから公爵家の人間になるという実感があまりわかないのだ。よってあまり緊張もしていない。
「旦那様、オスカー様とアイヴィ様を連れてまいりました。」
「やあ、兄さん。元気?」
「オスカー、来たのか。」
「うん。あ、こちらローナン男爵家が出身のアイヴィちゃんです。可愛いでしょ。」
「お初お目にかかります。公爵様。」
私は再び、カーテシーの姿勢を取る。
「君がアイ…」
「あらぁ!なんって、可愛らしい子なのかしら!」
公爵様の発言を、奥様と思わしき女性が堂々と遮る。
公爵様は、「フレデリカ…」と頭を抱えているが、女性は、そんなことは知ったこっちゃないとでもいうかの態度だ。
「まるでお人形さんみたいねぇ…!」
「人形…。」
それは、何度もエルズバーグにも言われてきた言葉だった。果たしてそれが、褒め言葉に当たるのか、貶し言葉に当たるのかはいまいち分からないが、とりあえず私は人形に似ているらしい。